アンディ夢(ジェンマ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公は街で出会った気の強い同年代の女の子。
内容:アンディ夢。一応はほのぼの。
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……どうしてこんなことに?
あたしは笑いながら顔を覗き込んでくる男を、思いっ切りにらみつけて、怒鳴った。
「はなせ、バカッ!! 何するんだ、やめろっ!!」
男はますますニヤニヤと下品な笑みを浮かべるだけだった。
それだけではなく、周囲と顔を見合わせ、ぞっとするようなことを言う。
「『何をするか』だってよ。決まってるじゃねぇか。少し遊び相手になってもらうんだよ、なあ……」
ひそめた笑い声が男の口から漏れる。
あたしを取り囲んだ男たちからも。
その意味がわからないほどあたしはこどもじゃない。
だけど、逃げ出したくても、できない。
仰向けに地面に倒されて、男たちによって四肢を押さえこまれている。
こんなか弱い少女にそんな必要ないってばと思わず言いたくなるほど、ひとりが片腕を、ひとりがもう片腕を上に乗るようにして押さえつけ、ひとりの男が足にのしかかるようにして、完全に押さえ込まれている。
あたしは転がされて両腕を開いて地面に縫いとめられたような状態で身動きができない。
街を歩いていた時にチンピラのグループに目をつけられ、道をふさがれ、逃げても逃げてもその先に仲間が現れて通れないようにされ、誘導されて、こんな人の通らない狭い路地に連れ込まれて押し倒されてしまった。
何をされるのかわからないはずがない。
本当に男たちは遊んでいるつもりなのだろう。
それがどんなにひどいことか知りもせずに。
あたしの気持ちなんて気にもせずに。
……こんなクズども……!!
ひどく悔しいが、腕一本動かせない状態だ。
こんな大人数が相手でなければ、こんな状態でなければ、まだ噛み付いてやるくらいはできたかもしれないのに。
リーダー格らしい男の手がシャツの胸にのばされる。
「俺たち誰もひとりじゃ眠れなくてさ。ほら、『ひとり寝』って寂しいだろう? 本当は宿のベッドに連れて行きたかったんだけど、お嬢ちゃんちっと元気すぎるからなぁ。軽い運動して疲れてからにしようぜ? まぁ、宿でもすぐには寝ないけど」
ビリッと嫌な音を立ててシャツが破かれる。
男たちの下卑た笑い。
それは本当に楽しそうで。
……くそぅっ……!!
こんなヤツらに好きにされるなんて。
「嫌だ! やめろ!! はなせぇっ……!!」
せいいっぱい動く首を動かして頭を振り、出せる限りの大声を出す。
このままいいように遊ばれるなんて絶対に嫌だ。
……だけど。
「わあああああっ!!」
あたしは泣き声まじりの悲鳴を上げて。
男の手が下着を触り、あたしが心底から絶望して、目を閉じたその時。
急にバカンッという音がして男が目の前から消えた。
「……え?」
音に目を開けていたあたしには男の横っ面にカバンが叩き込まれるところが見えていた。
次から次にギャッとかグエッていう声がする。
あたしは体が自由になっていることに気付いて起き上がった。
赤いコートを着てカバンを持った金髪おかっぱ頭の少年が目の前に立っている。
片目に眼帯をしたその少年は無表情だった。
でも、どこか不愉快そうに、苛立った様子で、じっとあたしのことを見下ろしている。
その足元には男たちが転がってうめいていて。
ある者は顔を押さえ、ある者は腹を押さえて。
中には吐いている者までいる。
少年は突っ立ったまま、あたしから視線を外し、転がる男たちに冷たい目をくれた。
「……ねぇ、大人なのにひとりで寝れないの? なら、ボクが眠らせてあげる。いつ目が覚めるかわからないけど……」
言いながらブンとカバンを振り上げた。
顔を押さえていたリーダー格の男がよろよろと立ち上がる。
……危ないっ……!!
そう思った。少年の身が危ないと。男が殴りかかると思ったから。
けど、よっぽどカバンが痛かったのか、単純に邪魔が入ったからか、チッと舌打ち……いや、口の中の血を吐くと、あたしのことなどもう見もせずに、『覚えてろよ』というダサい捨てゼリフを吐いて、仲間とともに逃げ去って行った。
+++++
「……」
あまりに当然の嵐のような出来事だったために呆然としてしまって反応ができない。
少年はくるりとあたしを振り向くと、軽く小首を傾げて言った。
「……宿までの道で迷ったから、道案内を頼みたかったんだけど、あの人たちはみんな眠かったみたいだからさ。君は大丈夫?」
「……えっ、ええ、うん。えっと……あ」
言ってることがまだよくわからないけど、とにかく助けてくれたんだからお礼を……と言いかけた時、少年の後ろからものすごい勢いで飛んでくる黒い何かが。
……って。
「わああっ!!」
少年が無言でひょいと身をかがめて避けたため、その何か……鳥だ……はあたしの方へ。
あたしは驚きの声を上げて、慌てて頭を抱えて身を低くすると、その鳥は壁に激突した。
「……」
ぽとりと落ちてガタガタと震えているその鳥はよく見ると烏だった。
いや違う。
だって飛び起きるなりしゃべり出したんだもん。
「アンディ!! てめぇ、ちょっと待てって言ったろ!! 厄介事に首突っ込むんじゃねぇよ!! 仕事がしにくくなるだろーがっ!! 頼むからおとなしくしててくれーっ!!」
少年に向かって怒鳴る『烏』。
……烏がしゃべってる……。
っていうか、その内容、ちょっとヒドくない?
イライラしてあたしは口を開いた。
「あたしは助かったよ。ありがとう。本当に、ありがとうございましたっ!!」
ペコンと頭を下げる。
反応を待って、それがないからゆっくりと顔を上げると、少年がなんだかぼんやりとしている。
「……別に、道案内してくれる人が欲しかっただけで、君を助けたわけじゃないよ」
え、そんな……でも。
「あの……もしそうでも、結果的には助けてもらったわけだし、なんていうか、ありがとっ……!」
本当に、本当に、どうもありがとう。
再び頭を下げて、シャツが破けて下着が見えてしまっていることに気付く。
あたしがシャツの前を寄せていると、少年の肩に跳んで止まった烏(?)がゴホンと咳払いのようなものをして、羽でくちばしを覆い隠して言った。
「……まぁ、今回は、仕方ないかもな。ってか、めずらしいな、アンディ。おまえが首突っ込むなんて」
「……」
なんか死んだ魚みたいな暗くよどんだ瞳をして、少年は『別に』と短く言った後、ぼそっと付け足した。
「ああいう連中……反吐が出る」
その内に含まれた意外と激しい嫌悪の感情らしいものに驚く。
いや、少年の表情はそう変わらないんだけど。
それでも、一瞬目は鋭くなって、声は吐き捨てるような調子で、顔は暗くて。
……見ていると、少年がそのわずかな変化を消し去って、また本当の無表情に戻った。
「それで、君は案内できるの?」
「あっ、あ、うん。どこの宿でも案内できるよ。あのさ、でもっ……」
さっきの連中、『宿のベッド』がどうとか言ってた。
……ってことは。
それに……。
あたしは落ちてしまっていた自分の荷物を拾い上げ、ある一方を指差した。
「ねぇ、あたしの家においでよ! お礼に泊まっていって。夕飯も出すし、もちろん朝ご飯も! それに1階がカフェになってるから、いろんなケーキもあるよ! うちのタルトはおいしいよ!! ティラミスも絶品だよ!! うちのお母さんお菓子は上手なんだ。他はイマイチだけど……」
烏が何か言いたそうに少年を見る。
だけど、少年は今までに見たことのないイキイキとした顔をして、烏の方を見もしなかった。
わずかな変化だけど、でも、目が真ん丸になっている。
「おいしいケーキ……」
「おい、アンディ……」
つぶやく少年に烏が苦い声を出す。
……本当に、どうして烏がしゃべるんだろう?
少年は平然としてそんな烏に向かって言う。
「シャルル。宿は危ないよ。さっきのヤツらとまた会っちゃったら嫌じゃない? めんどくさいじゃん。ここはこのコの家に……」
「ケーキにつられるな」
叱るように言った烏があたしの方を見てくちばしを開く。
「さっきの連中、知り合いじゃないんだな?」
「……うん、違うよ。大丈夫だよ。あたしの家は知らないと思う」
目を閉じてハァと烏がため息らしきものを出した。
そして、バサッと飛び上がる。
「俺は尾行されてないか、待ち伏せされてないか、上から確認しながらついてくから、アンディ、おまえはそのコの家に案内してもらえ」
「うん。それじゃ、お言葉に甘えるよ。えっと……」
カバンを持ち直して少年があたしを正面から見る。
+++++
「ボクの名前はアンディ。君の名前は?」
「あたしはジェンマ」
「ジェンマ、よろしく」
「うん、よろしく! ジェンマ!!」
荷物……買い物の布袋……を提げたあたしの後をアンディがカバンを持ってついてくる。
あたしはちょっと気になった。
だって重そうなんだもん。
あたしの荷物は軽いから……よしっ、さっきのお礼、お礼。
「ねぇ、アンディ。それ持つよ」
「え、ちょっ、ジェンマ……このカバンは」
くるっと振り向いて、あたしは手を伸ばしてアンディの手から強引にカバンを取ろうと引っ張った。
とたん。
……あれ?
思いがけない重さに体は後ろに傾いて。
ゆっくりと自分が後ろに倒れていくのがわかる。
あたしは背中から地面にぶつかることを覚悟した。
せめて頭は守らなければ。
背中を丸めてギュッと目を閉じて衝撃を待った。
でも、いつまでも『それ』が来ない。
体が途中で止まっていた。
「……重たいよ」
こわごわと目を開けると、そこにアンディの大きな赤みがかった目がある。
そこにはあたしがはっきりと映っていて……。
「ええっ、あ、はっ!?」
誰かにがっしとつかまれていて。
それがアンディだとわかる。
アンディが片手であたしの体を抱きしめて倒れないように支えてくれていたんだ。
もう片手はカバンに伸ばされていて。
あたしを起こして立たせ、カバンを取り戻す。
あたしは呆然。
今、顔……顔が近かった。
仰向けになったあたしの上に、か、顔が……。
つまり、多分、アンディの唇がすぐ上に。
っていうか、どうしよう、同年代の男の子に抱きしめられた……!!
そしてあたしはあることに気付く。
……『重い』って言われた……!!
カアァァァァッ。
急に顔が熱くなる。
アンディは無表情だ。
多分あたしは真っ赤だ。
嬉しかったし、恥ずかしかったし、なんとなく悔しかったりで。
……ああもう、アンディ、なんで平然としてるの?
あたし女の子だよ。
女の子を抱きしめたんだよ?
真っ赤になった顔をうつむけて黙っていると、同じように黙っていたアンディが、ぼそっと言った。
「……ジェンマ。重かったでしょ、このカバン」
「え?」
「このカバンは持たなくていいから、早く家に案内してよ、ジェンマ。ボク、おなか空いた」
「……」
……ああ、カバン……そういえば、その前に、『このカバンは』って言ってた。
『このカバンは重たいよ』、か。
なんだ、あたしのことじゃなかったんだ……。
顔が赤いのも多分そのせいでと思われたんだ。
カバンが重いから。
そのせいで赤くなったんだと。
「……ふふっ」
あたしはふき出した。
クスクスクス……。
なぁんだ。
それにしても、もったいないことしちゃったな。
初めて男の子に抱きしめられた経験がただのハプニングで。
……でも、あたしらしいじゃん!
……うん、嬉しかったのは、本当だし……。
笑い終わってフゥと大きく息を吐いて小さくなっていたアンディの背中を眺める。
……え? あれ? 背中ぁ?
「どこ行くの、アンディー!! あたしん家そっちじゃないよーっ!?」
「ええー……?」
いつの間にかかなり遠く離れていたアンディに急いで駆け寄る。
もしかして、さっきから、ひょっとして。
首を傾げて、大きな目でじっとあたしを見るアンディの顔を、呆れて眺める。
……アンディってかなりのマイペースなの?
(おしまい)