バジル夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公はスキャッグスの逆さ数字の女の子。
ちょっと頭がおかしいコです。
内容:バジル夢。多少グロい。苦手な方は避けてください。
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『*ここにひとりの男がいたってさ
それがとってもだらしのない男
墓に入れようとしたけれど
指がどこだかわからない
頭はベッドの下にころん
手足はバラバラになって
部屋中に散らばっていたってさ』
血のにおい。
漂うなんてものじゃなくて充満している。
この狭い部屋の中に。
ソファーの肘掛けにどっしり腰を下ろしたあたしは部屋の中を見回す。
小さくマザー・グースを口ずさみながら。
転がる死体を眺める。
……いや、死体は死体なんだけど、その部分部分というべきか。
頭が、手が、足が、胴体が。
数人分がバラバラだから一体どれが誰のどこやら。
そもそも『誰』なんて気にしちゃいなかったんだけど。
片付けるのが大変そうだなァ。
同情しますよ。
これ集めるの難しそうだもん。
……いや、まァ、どうでもいいんだけど。
オジサンたちもそんなこと気にされたくないよねェ。
あたしには。
だっていくつかはマイのしたことなんだしィー。
『指がどこだかわからない
頭はベッドの下にころん
手足はバラバラになって・・・』
だらりと下げた手に未だ持っている武器。
『無数針毛虫(ファイアー・キャタピラー)』。
あたしの能力『灼熱の掌(バーニング・パルム)』で焼いた幾人かの傷口は黒い。
辺りには肉の焼ける臭いがしている。
……でも、それだけじゃなく。
あたしはふっとスカートにできた模様に気付いた。
血が飛んだんだろう。
赤い花のような染みがいくつか白いワンピースに咲いている。
それは本当に断末魔の声を上げる赤い百合のようで。
指で模様をなぞってゾクッとする。
あたしを置いて他の部屋を片付けに行ってしまった彼に。
その残したものに。
……痕跡に。
それだけでじゅうぶん。
あたしはひれ伏す気になりますですよ。
肉塊からも血の花が満開のワンピースからも目を逸らして壁を見る。
そこも赤いけど。
高級そうな白っぽい壁紙は今や真っ赤で。
上っ面のきれいさを無理やりはぎ取られて汚い醜さを露出したよう。
暴き出されたかのような。
おまえの本当の姿はこうだろう? と突き付けられたような。
圧倒的な力にうっとりとする。
とにかく汚い目的を汚い手段でこれまた汚い欲望で動く他人を貪り切ったろくでなしのクズどもはいなくなったんだし。
それを上辺だけ飾り立てておきれいな面しておすましていた連中は消えたんだ。
金で作られてきたものがなくなれば本人たちには何も残らない。
金に集まる虫ども。
クソッタレ。
その程度でマフィアなんて名乗るなっての。
なんにもないくせに。
守るものなんて何も持っていないくせに。
欲しい欲しい欲しいそれだけで動くなんてケダモノと一緒じゃん。
いっちばん嫌いなんだよねェ。
そういう……原始的な欲だけで動く連中ってのが。
吐き気がしますよ。
あたしが歪んでることなんて知ってるの。
……ほら、あなたを焦がした、あたしの胸の内は冷たいよ。
黒い肉片に視線を落として心の中で話しかける。
どれほどあたしの掌が熱くたって関係ない。
あたしを温かいイキモノにさせるのは、たぶん……。
「マイ」
戻ってきた彼があたしを呼ぶ。
あたしは顔を上げて問いかけるように彼……バジル君……を見る。
淡い金色の髪、水色の空のような瞳、黒いシャツと。
真っ白なスーツ。
そこについた赤い血が。
あたしの唇を皮肉げな笑みに歪ませた。
可笑しい。
なんだかたまらなくこの状況が。
あー、なんか……歌とか思い出すなぁ。
なんか、そこらの人がよく口ずさむ、流行歌ってやつ?
白いドレスと赤いワインがどうとか……。
あれは男に自ら純潔を捧げた女の歌だっけ。
くっだらない。
なんでこんなこと今思い出してんの。
笑っちゃうじゃん。
「あっはは……!」
あたしは身をのけぞらせて笑った。
「マイ? おい、どうした」
困っているように見える垂れ眉の根を不審げに寄せてバジル君が近付いてくる。
「はっ……」
あたしは前に頭を垂れて笑いをこらえようとした。
「べェーつゥーにィィィい?」
なかなかおさまらないから、肩がビクッビクッと震える。
バジル君はあきれたように言った。
「……なんでもいいが」
顔を上げると、踵を返すバジル君が目に映る。
それは呆気なく、そしてさりげなく。
くれた一瞥も言葉も素っ気なかった。
「行くぞ、マイ」
あたしがついてくることを少しも疑わない様子で。
当然で、いつものことで、何も変わりなくて。
あたしの前を行く血まみれだけど白い背中。
それを見ていたあたしはふと……
本当に突然……
その背中に向けて……
……武器を振るいたくなった。
その白さを自分で捨てるなら、あたしにくれてもいいよね。
……くれてもいいのに。
あたし何も持ってないんだから。
ソノ白ヲアタシノ手デ汚サセテ。
アナタノ血ヲ浴ビサセテ。
アタシノ物ニナッテ。
ゆっくりとバジル君が振り返る。
「マイ? 何をしてる。とろいな、てめぇは。置いてくぞ」
あたしはソファーから腰を上げる。
そしてその背中を追いかけた。
「はァーい、待ってバジル君ッ、今行くからー!」
そう、このあちらこちらに散らばる、もとは人だったものと同じ。
……あたしを温かくさせるものは、たぶん……
……なんにもないの。
(おしまい)
*参考:『マザー・グース(1~4)/訳:谷川俊太郎/絵:和田誠/監修:平野敬一/発行:講談社』