バジル夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公はスキャッグスの逆さ数字の女の子。
ちょっと頭がおかしいコです。
内容:バジル夢。多少グロい。苦手な方は避けてください。
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*「『リージィー・ボーデン、斧を手にしてェ……』」
あたしは歌いながら通路を歩く。
スキップするように、はずんだ足取りで。
たんたたん。
「『お父さんを四十回打ったとさ☆』」
ふふふん。
「『彼女は何をしたかに気付くとォ……』」
ピタ、と足を止める。
歌もやめて。
口を閉じて、耳を澄ませ、前方を窺う。
正しくは少し離れたところにある部屋を。
……うーん、物音がしない。
いるかな? いるかな!?
静かなのはいつものことなので、それだけでいるかいないか判断することはできない。
この距離で止まったのは相手にバレないためで。
今までカツンカツンと音を立てて歩いていたけれど、ここからは足音がしないように……。
こっそり、ひっそり、ゆっくりとォ……。
反対側の壁にぴたりと背中をつけて、忍び足で目的の部屋の扉の前まで進み、キョロキョロと辺りを見回して、誰もいないことを確認、バッとそちらの扉まで移った。
え? 意味? ……ないですよ☆
ちょっと遊んでみただけ。
さて、と……。
スゥッ、と大きく息を吸い込む。
そして一気に勢いよくバタンと扉を開け放った。
「バジルくぅぅぅんッ!!」
両手をバンザイしてたっぷりの笑顔で元気な大声で。
……おや?
室内にいたバジル君と目が合う。
相変わらずなんっにもない部屋で、バジル君はたいそう見つけやすかったけど。
目に飛び込んできた肌色に黙り込む。
「……」
着替え途中のバジル君は不機嫌そうにあたしをにらみつけていて。
「……マイ、てめぇ……」
最低まで低められた声があたしを呼ぶ。
わお。
やっちまったってカンジですか。
「この痴女が!!」
バジル君がくわっと目を見開いて腹立たしそうに怒鳴りつける。
あわあわ。
ちょっと待って。
「誤解ですよ、バジル君。そりゃあマイちゃんはヘンタイだしィ、今だって着替え中だってわかってたとしても扉を開けてたけど、バジル君の上半身裸が見られてウハウハしてるけどォ、これっぽっちも悪いとか思ってないしィ、でもわざとじゃなかったんですよ、これは不可抗力です、同居における嬉しいハプニング的な……」
「死ね!!」
目をつり上げてバジル君が険しく吐き捨てる。
あれ? ハプニング逆か。
フツー、あたしが着替えを見られて『キャーッ!!』だよね。
まぁ、あたしだったら、バジル君に見られても嬉しい『キャーッ!!』ですが。
なんでバジル君がその立場なの。
なんだこりゃだ。
……っていうか、バジル君、別に怒んなくていいじゃんー。
手に持っていたシャツを床に叩きつけるように投げ捨てて、バジル君は机から新しいシャツを取る。
あたしに背を向けてそれを羽織った。
……ふゥん。
バジル君に痴女呼ばわりされちまったい。
どうせ罵られるなら『この痴れ者めが!!』とか言ってほしいなー。
ただの希望なんだけど。
で、どうせならやっぱりいつもの白スーツ姿で、上から見下げるようにしてお願いします。
……って、言ったら、気持ち悪がられるだろうなー。
ワクワク。
いまだそんなことを考えて戸口でぼんやりしているあたしを、シャツのボタンを留めながらバジル君が振り向く。
「……で、マイ、なんの用だ?」
嫌そうに細められた目があたしをにらみつける。
俺は忙しいんだよてめぇと違って暇じゃねぇんだよ大した用じゃないなら帰れよ付き合ってらんねぇんだよ。
視線が雄弁にそう語っている。
……っていうか『知って』いる。
忙しいってこと。
さっき、ジークさんに仕事もらったんだよね、バジル君。
あたしはニッコリとした。
「あたしも連れてって!!」
バジル君が思い切り眉をひそめて鼻の頭に皺を寄せて威嚇するように歯をむき出しにした。
「あ?」
険しくボソリと吐く。
訝しげに問うというよりも、はっきりと『何バカ言ってんだ、てめぇ、断る』で。
それ以上バカなこと言うなよ、この一言でわかれよ、もう言う気が起きねぇだろみたいな。
そういう冷たさで。
こっちが『ごめんなさいなんでもないんです忘れてください』と言いたくなるような。
あァー、わかるけどォ、でもォ。
あたしはバカなんだなッ。
+++++
・・・・・・・・・・
*『』内
参照・『マザー・グース(1~4)/訳:谷川俊太郎/絵:和田誠/監修:平野敬一/発行:講談社』
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「取り引きに行くんでしょォ? 武器を売りに行くんだよね? あたしもお供しますよっと」
軽く言ってバジル君の反応を見る。
どうせ断られるんだろうなーと思いながら。
だってマイは命令されてないし、指示されたのはバジル君だし、バジル君的には『俺の仕事を横取りする気か』ってカンジだし。
いや、徹底的にマイをバカにしているので、バジル君は自分の仕事をマイに任せるのとかは論外だし。
ありえなぁぁぁいってカンジで。
横取りもできないと思ってるよね。
だから『口を出す気か』ってことで。
また『厄介だなー』とか『めんどくせぇこと言い出したなコイツ……』とか『うるせぇな』とか、その程度だ、きっと。
……おや?
バジル君の顔から険しさが消えた。
浮かべていた嫌悪の情がなくなって、なんだか顔中の力を抜いて、呆けたみたいな顔をしている。
……なんだろ、めずらし。
そうやってバジル君はほんの数秒あたしの言葉にぼんやりとして、何かに気付いた様子で、それから何か企むような顔つきをして考えこんでいた。
無言で。
……どうしたのかなー。
それほど経たずにバジル君がニヤリとして口を開いた。
「……いいぞ、マイ。ついてこい。ちょうどいい。おまえが必要だ。呼びに行く手間が省けたな」
はへっ!?
「ホントにぃぃぃッ?」
バジル君は面白そうにニヤニヤしてあたしを見ている。
その水色の目はあたしを窺うように細められて。
皮肉げに唇をつり上げて笑って。
すっとんきょうな声を上げて呆然としているあたしの元へスタスタと歩み寄ってくる。
真っ直ぐに。
「ああ、本当だ。まったく、なんで自分で思いつかなかったんだか。てめぇと一緒のほうが都合がいい。今回は」
「……なんですか?」
さすがに不審に思いますですよ。
ってか、警戒します。
フツーに。
あたしはちょっと後ろに下がる。
ジリジリ。
今まで命令でふたりで仕事をすることはあったし、あたしの仕事にバジル君が見張りとしてついてくることはあった。
だけど、バジル君に任された仕事に、あたしがついていくなんて。
そんな必要がどこにあるんですか。
ジークさんの命令でもないのに。
バジル君が自分でそんなことを望むなんて。
どうしたのかなー?
いつもの『使わない武器はしまっておくもの』とかは言わないのかなァー?
っていうことは、マイが使えるってこと・だ・よ・ね!
そんなに大変な仕事なのかなぁぁぁ?
っていうか……。
『ちょうどいい』『必要だ』『都合がいい』?
それはたとえば戦う敵が多いとか強いとかそういう時に助力を願って使われる言葉じゃない。
じゃ、なくて、『便利な存在だ』ってことでェー。
いたらいたほうがいいなってゆゥー。
つまりそれはァ……。
「あたしを利用しようとしてるよねッ☆」
わざと明るく元気ににっこり笑って言った。
「ねッ、バジル君!! そうでしょ!? ですよね!!」
いやもういつものことなんだけどさ。
で、それにマイちゃんは一切疑問を感じないわけですよ。
利用というか使われる存在ですから。
そこにあたしの意志とか関係ないですから。
思考の放棄は人間としてイケナイことらしいのですが。
イケナイこと大好きですから、あたし!
何も考えなくていいのは実は幸せです。
あたしにとって。
だって世の中くだらないことばっかりでェ……。
おっと、バジル君が笑ってるぞ。
いいカンジに腹黒い笑みで。
何か企んでますっていうふうで。
「そうだ、マイ。俺は信用しないほうがいい。汚いからな。ついてきたらヒドい目に遭うぞ」
「……」
あたしは真顔になって考え込む。
……言いたいことはわかるんですが。
それでも。
「バジル君、あのさ。信用するも何も、利用する側とされる側に、信頼も何もあったもんじゃねぇ気がするんですが」
まぁ、うまく使えるってことを信じているとか、うまく使ってくれるってことを信じているとか、そういうことはあるけれども。
『信用しないほうがいい』ってことはそういう一方的なことじゃなくて、『信頼』ってことでしょう。
信じて頼む、なんてものじゃないよ、利用する間柄ってのは。
両者には決定的な違いがあるのだ。
「あたしたちそういうシビアな関係でしょォ?」
バジル君の笑みが少し緩くなった。
ちょっとだけ目を和ませて。
なんだかやさしい笑い方。
「ああ。……だな」
そんな笑い方されると胸がキューッとなるんですが。
戸口から2.3歩下がったところにいるあたしに、バジル君の手がのびてきて、ガシィッと二の腕をつかまれる。
引っ張られてそのままバジル君の胸に倒れこんだ。
右手があたしの後ろ頭を支えるようにつかんで胸に強く押し付けられる。
うわ……。
バジル君はボタンを全部しめてないから黒いシャツから肌が覗いている。
惹きつけられるように目がいったのは逆さ数字4の文字。
「……」
片腕であたしを抱くバジル君。
それがたとえあたしをうまく利用するためだとしても。
その胸に逆さ数字が、そして手にスキャッグスの刻印があるからには。
あたしは従おうと思うのだ。
同病相哀れむに近くて他人からは嘲笑されるような情けない感情だとしてもだ。
愛と呼ばれることなんて必要としてないの。
目の前にバジル君の鎖骨がある。
ああ、鎖骨食べたい。
噛み付きたいなァ。
察したように……危険を察知したように……バジル君があたしを引きはがす。
そして水色の目であたしをじっと見つめた。
ニヤリ、と笑いながら。
「……ついてこい、マイ」
「イエス!」
+++++
*****
白い服を着た人たちが動き回っている。
白衣を着た研究員だ。
やけに静かに、葬式のように厳粛に。
時折上がるカチャリという音や、小さなささやき声が、妙に耳について。
あたしは黙って目だけ動かしている。
ベッドに横たえられた幼いあたしを大人たちは通る度に冷たい目で見下ろして。
サッと全身を眺めて目を他に移す。
存在を確認するだけでもういいといったように。
大したものではないといったように。
見るほどのものではない……。
あたしに価値はない……。
利用できればそれでいい……。
後はもう見たくもないというように、汚いものを見る目で、ひどく冷ややかな白い目で。
あたしの横に紙束を持った男が立った。
研究員のひとりだ。
紙束をもうひとりに差し出し、あたしを見下ろして、何の感情もこめずにただ言った。
「処分だ」
カッと目を見開く。
力の入らなかった手足に力がこもる。
これはここから逃げ出すためのものじゃない。
慣れ始めていた手の力を発動させる。
シュウウウウゥ……。
あたしの手のひらから熱が発せられる。
物体が燃えるほどの熱が。
『逆さ数字***・・・灼熱の掌(バーニング・パルム)』
あたしはその手で男をつかんだ。
ボッ……。
男の白衣が燃え上がる。
『うわあああっ』という悲鳴が上がった。
それはやがていくつも重なって、にわかに騒がしく、慌ただしくなって。
あたしは上半身を起こして、燃える人々を見ていた。
強い『力』。
それ故に弱いものを淘汰できる。
それならば。
……あたしはその『力』になってやろう。
あたしを捨てようとした力そのものになってやろう。
同化してやろう。
それをあたしのすべてにしてやろう。
……そう思った。
だから、別に、どォでもいいのだ。
思想だってキョーミはないし。
正しさなんてもっとどうでもいい。
ただ、あたしは『それ』でありたい、それだけだ。
*****
+++++
……つまんない昔のことなんて思い出しちゃった。
あーもうホンットどォでもいーいー。
手に入らなくて、負けて、失敗作が、正しくなんて生きられるわけないじゃなあああい。
失敗は失敗。
間違ってることも結果。
あたしの試験は終了しました。
あと何が残ってるっていうんですか。
あたし自身には何もないからスキャッグスです。
それってとっても単純明快ですねッ☆
枝葉末節取り除けばその程度のものですよ。
滑稽だね。
さてさて。
目の前の黒スーツの男に目を移す。
……こりゃまたキッツイなー。
ずんぐりむっくり……つまりチビのデブ……のハゲの中年男がソファーにそっくり返っている。
それだけならまだしも、その男の隣には、スーツのスカートちょーミニのセクシーなお姉ちゃんがいて、男の手はその女の太腿を撫で回していて。
……チビでデブでハゲの上にエロ親父かよ。
キッツイなー。
あたしは横目でチラと隣に座るバジル君を見る。
……バジル君、あたしがこういう男嫌いだって知ってるくせに。
うむぅ。
ヒドいですよ。
こんな男との取り引きに付き合わせて。
……まぁ、一応こんなんでもマフィアの幹部なら、頭のほうは悪くないんだろうけど……。
だからって、チビでデブでハゲはともかく、最後のォ……。
男の女の腿を撫でる手によって女がさかんに足を動かしてチョーミニの間からさっきからチラッチラと見えるものが……。
ほーほー、黒ですか、セクシーですねェ。
最初からはだけられていたシャツの間に男の手が突っ込まれて女が『あん』とか嬉しそうに言っている。
……。
キモい。
死んだ。
なんていうか、目が死んだ。
腐った。
どうしてくれんだコラ。
ああ殺したい!!
立場的にあたしは笑顔でいなくちゃいけないんだろうけどォ。
っていうか、むしろアレをやるべきかもしれない。
バジル君といちゃいちゃ……
殺されますよ。
だからバジル君うずうずしてるんだろーなー。
こういう汚い大人大嫌いだもんねッ。
……たぶん、あちらさんは、バジル君のイライラを誤解してるだろーけどォー。
ああやって、男の情欲あおって、交渉を有利に進めようだとか。
笑止千万。
そんなことで劣情あおられてうずうずしたりむずむずしたりするバジル君なら今頃マイはキャッキャッムフフなわけでして。
まったくのムダ。
っていうか別の効果がある。
あー、バジル君、イライラしてんなー。
焦ってるんじゃないんだな。
あちらさんには残念ながら。
隣から感じられる冷気ってかもろに殺気がひしひしと感じられて痛いですよ。
殺っちまいてぇなっていう。
いやご同様なんですがマイも。
それでもたんたんと武器の説明を続けるバジル君。
+++++
「こちらはスキャッグスNO.***『無情なる暴食魚(クグィカス)』といって、体内に入り込んだ弾丸が不規則に動いて肉体を破壊します。その名の通り暴れ回る魚です。一発当たれば相手のダメージは相当大きなものになる」
うわお。
さらりと言ってるけどけっこーエグいですね。
説明する時のバジル君のわざと下手に出て使っている敬語がなんか優等生っぽくてステキ。
あたしも大抵そんなことしか考えられないけど。
「そして次に……」
NO入りふたつもか。
コモノの説明はもう済ませてある。
コモノっていってもスキャッグスだけど。
バジル君の説明を聞いているのかいないのか、男は相変わらず女といちゃいちゃしてたけど、途中からチラチラとこっちを見ている。
不思議そうな顔で。
……そりゃあまぁ、バジル君が冷静なので、解せないんだろうなァ。
下品な男には。
男はきっとバジル君が『うらやましい』とか『自分もまぜてくれ』って言うのを待ってるんだよね。
それがいつまで待ってもノーリアクションなもんで、不審がってるのかな。
なんだかだんだんと不機嫌そうになり、気味悪そうになり、それから何か急に納得がいったというようにパァッと顔を明るくした。
……あ、オジサン、それカンチガイ。
親切で教えてあげたくなるような派手な勘違いですよ。
困ったなァ。
でも男はあたしの焦りなど気付かずにニヤついて口を開いた。
「いやァ、まだお若いから、こういったことにはあまり興味が持てないのかな。どうですか? お貸ししましょうか? 私の秘書を」
ああー……。
それ秘書ってマジですかどこがですか何か仕事できるんですか物は言いようですね的なアレですかってそれどころじゃなく。
あたしの脳内のバジル君が思いっ切り眉をひそめて鼻の頭に皺を寄せて歯をむき出しの険しい顔で『あ?』って地獄の底から響くような低い声で言うのを見た。
でも、実際のバジル君は、大人っぽくちょっと苦い困惑の笑みを浮かべて、軽く頭を下げただけだった。
「……どうも。結構ですよ。今は仕事中なので」
あっさりと断って書類に目を落とす。
サラーッ……。
……仕事ができる男ってカッコイイッ!!
ってかバジル君ステキッ!!
相手の手に乗らないでスルッとかわした!!
ちょークールー。
イケメン。
男、ざまァみろ。
唖然としていた男……女もだけど……が、ゴホンと咳払いして、こちらに身を乗り出す。
「なるほど。お若いのに仕事を任されているわけだ。たいそう優秀ですな。実に好みだ」
は!?
思わず声に出してしまうところだった。
あたしはぽかんと口を開けて男とバジル君のことを凝視する。
男はバジル君のほうに体を傾けて嫌らしく目を細めてなめ回すようにしながら下品な笑みを見せて言った。
「どうです? 仕事だけして帰るんじゃつまらんでしょう。少し遊んでいきませんか? なんならそちらの知らない気持ちの良いことを今度は私が教えてさしあげても……」
……コイツッ!!
バジル君になんてことをッ!!
バッとスカートの下に手を突っ込んだ。
いつものピッチリしたワンピースと違い、緩めのスカートの広がったものを穿いている。
太腿につけていたホルダーから銃を引き抜きつつ立ち上がる。
安全装置を外し、サッと男にそれを向けた。
「マイ」
引き鉄に指をかける前にバジル君に手で制される。
片手を挙げて、ジロリと鋭い目をくれて。
「よせ」
周囲を見ろというように。あごをくいと軽く上げて、目を辺りにぐるりと向けて。
「……」
言葉ではない指示にあたしも黙って目を動かして周囲を見る。
油断なく銃を構えたまま。
まずギョッとした様子の男が映る。
それから銃を構えた黒スーツの護衛の姿。
最後に驚いて床に落ちた女のみっともない姿。
……ふむ。
ここで撃つとあたしの死体もみっともなく床に転がるか。
それは嫌だなァ。
「銃をしまえ、マイ」
言われてスッと目を細くする。
……チッ。
あたしはおとなしく銃を元通りしまった。
男をにらみつけながら。
バジル君は両手を開いて肩をすくめてみせた。
ニヤリと笑って。
「……連れが失礼をしてしまって大変済みません。彼女はカッとなりやすい性質で。そう……こういうことに慣れてないんですよ。冗談も本気にとりかねない」
そんなことを言う。
つまり、冗談にして済ませてやるから、もう馬鹿なこと言うなよってこと。
それはもちろんマフィアの男に対して。
男がヒュッと息をして、ハッ、ハッと笑うように吸う。
「……」
バジル君……。
マイにいつもの武器を持たせなかったのは、商談を成功させる気があるから。
そしてそれでいてふわりとしたスカートを穿かせ、銃を忍ばせたのは……こういうことか。
あたしはソファーにドスンと腰を下ろした。
「……さて、話の続きを、しましょうか?」
そして値段の交渉が始まった。
+++++
「なーるほどォ。嫌な相手、ねェ。ふーん。ちょっとした問題、ねェ」
相手がホモ……っていうかバイ……なのが『ちょっとした問題』ですか、バジル君。
事前に情報を手に入れてたわけだ。
そんでもってマイを己の身の安全のために使ったわけだ。
まぁ、あそこでマイが撃ったり撃たれたりしてもバジル君にはダメージないよね。
バジル君のせいじゃないし。
いやまぁその時点で交渉は決裂だし、その場からいったん逃げる必要はあるけれども。
男だってマフィアの幹部のひとりってだけだから、他の人と交渉し直せばいいだけだし。
あれをマイが勝手にやったことにして。
面倒はあるけどね。
それくらいやってのけるでしょう。
なにしろお互いの利益が最優先だから。
っていうかスキャッグスにはスキャッグスの目的があるんだけども。
それはそれとして。
「それでマイはお役に立ちましたかッ?」
帰り道。
腕を後ろに回して、上半身を前に倒して、下から覗き込むようにバジル君を見上げて。
隣でバイクを押してるバジル君はあたしをジロッと見て、ハッと笑って。
「上出来だ、マイ」
ぷーんッ。
当然ですとも。
ツンとしてそっぽを向く。
まぁ、バジル君とバイク乗れたからいーかな。
それくらいで許してあげますよ。
「ほら、マイ、これ」
ふわ、と頭に何かが乗せられる。
目に入る白いもの。
頭にバジル君の白い帽子。
「うわ……」
驚いてパッと横を見ると、バジル君が目を細めて笑っている。
あたしを見つめて、少し可笑しそうに。
そしてなんでもないように軽く言う。
「やる。てめぇは頭が軽いから、飛ばないように押さえておくものが必要だろ?」
あう……。
あたしは帽子を両手でつかんで深く被る。
うつむいて。
その動きと手で顔を隠す。
……これバジル君の帽子……。
バジル君の帽子をもらった。
わあああんッ……!!
ただのご褒美でも嬉しいよゥ。
顔のニヤつきがおさまらない。
頬はたぶん真っ赤だ。
顔なんてあげらんない。
どうしよ……。
えっと。
「バジル君ッ!!」
あたしは思い切って顔を上げた。
顔が赤くてもいいじゃん。
目がキラキラウルウルしてたっていいじゃん。
「ありがとうッ!!」
『フンッ』といってバジル君が前を向く。
あたしはその隣を跳ねるようにして歩いた。
バジル君にもらった帽子を両手で押さえて。
(おしまい)