バジル夢(マイ)
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この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公はスキャッグスの逆さ数字の女の子。
ちょっと頭がおかしいコです。
内容:バジル夢。多少グロい。苦手な方は避けてください。
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きらきら輝く小さな星よ……
あたしはマザー・グースの『Twinkle,twinkle,little star』を口ずさみながら、隣を歩くバジル君を見る。
この詩の続きは、『How I wonder what you are!』なんだけど……。
あたしにはバジル君が『wonder』ですよ。
とっても『wonder』。
いっそ『wonderful』。
もちろん、<すばらしい>のほうです。
<不思議な>でもいいけどォ。
あんまり男って不思議だとか思えないっていうか。
女の子よりは。
いやいや、女であるあたしは、女の子を不思議だって思ったことなんてそうないけどォ。
たぶん、男からすると、そうなんじゃないかなッ?
『男の子ってなんでできてるの?』なんて詩もあったっけ。
それはともかく。
『wonderful!!』ってバジル君に言いたいなァ。
学校帰りだから制服姿。
あたしもだけど。
バジル君は……。
黒いズボンに、上は夏だから半袖の白いシャツを着て、それでいて夏なのにキッチリとボタンを上まで留めて、シッカリと黒いネクタイを締めて。
フツーはみんな自由だからシャツの上に茶色や紺色のセーターとか着てるんだけど、バジル君はそれも着てない。
唯一肩にかけた革の鞄が明るい茶色ってくらいで。
なーんかお葬式みたい。
その白と黒にハッキリ分けられた姿を見ると……。
とっても禁欲的で、かえってそそられますねッ☆
乱したくなるっていうか。
わんだほー。
……とか言ったら怒られるだろうな。
また、黄色っぽい髪の毛が、お日様の光に白っぽくキラキラと輝いて……。
バジル君って意外と菊の花とか似合いそう。
埋めてみたいな。
そのまるでビー玉みたいな澄んだ水色の大きなお目々を閉じさせて。
顔も、肌も、服も、何もかもが白くて。
静かに横たわる体。
それを、その周りを、いーっぱいの白や黄色の菊の花で飾って。
ふう。
キレーだろうなァ。
……なんて考えていたら、バジル君があたしの熱い視線に気付いてか振り向き、訝しそうに眉をひそめた。
その汚らしいものでも見るような目つきが、ああ、またたまらない。
「バジル君はなあああんてステキでしょうッ!!」
思わず詩の言葉を変えて言ってしまった。
……ボカッ!!
あう。
「……あの、痛いんですが、バジル君」
「バカマイ。痛いように叩いたんだよ」
あたしの頭をはたいたバジル君が面白くなさそうに『ふん』と鼻を鳴らして、あたしをジロッと見て、足を速める。
「あッ、あッ、待ってェー!!」
置いてかれたらたまんない。
せっかく一緒に帰れてるのにィ。
こんなことで機嫌を損ねられて別れたくないです。
あたしは慌ててバジル君の後ろにピッタリと張り付く。
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*マザー・グース
『Twinkle,twinkle,little star』
参考・『マザー・グース(1~4)/訳:谷川俊太郎/絵:和田誠/監修:平野敬一/発行:講談社』(訳は自分)
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走ったことでちょっとスカートが気になった。
清潔そうな水色と黒のチェックの制服のスカートはかなり短くしてあるから、上に着ているダボダボの白いセーターの裾を引っ張って下ろす。
セーターで隠すように、押さえるように。
ついでに水色のリボンもちょいちょいと向きを直す。
肩にかけた鞄はバジル君とおそろいってとこが気に入ってる。
白いポンポンつきのゴムで止めた自慢の長い茶色の髪の毛のツインテールもどうなってるか気になるけど、そんなことしてたらホントにバジル君に置いていかれちゃう。
……ご機嫌はどうかなー?
ひょいっと斜め後ろから覗き込むようにすると、バジル君はあたしを横目で見て、不可解そうな顔をして言った。
『だいたい……』、と。
「なんでマイはそんな歌をうたってるんだ?」
「だって七夕じゃん」
また隣に並んであたしは『当然』と胸を張って答える。
そう、もうすぐ、あと数日で七夕!
……ってわけで、星の歌。
なんか変かな?
今度はあたしが不思議そうに首を傾げる。
「七夕が近いからだよォ。そういう気分なんだよッ。キラキラーッて」
すると、バジル君は、ますます怪訝そうな顔になった。
眉を寄せて、大きな目をすがめて、あたしをじっと見る。
「それならもっと他にそれらしい歌があるだろうが。えっと……」
少し考えるみたいな素振りをする。
あたしはわからないフリでわざと黙って待った。
だってもしかしたらバジル君が歌ってくれるかも……!!
しばらく『あー……』と口を開けて声を出していたバジル君は、急に口を閉じて、肩を落とした。
『やっぱ』、と。
「ねぇな」
「ええーッ!? 期待させといてそれはないよーッ!! バジル君ヒドいよーッ!!」
「何がだよ、マイ」
わめくあたしに、ちょっと困惑気味になる。
少しだけ申し訳なさそうな、情けなさそうな、そんなカワイイ顔をしてるのは、たぶんきっとあたしの『期待』が七夕にピッタリの歌を教えてくれることだと思ったから。
うーん、ゴメン、違うんだけどォ。
あーッ、でも、バジル君にもてあそばれたァ。
ぷんぷんだ。
……なァーんて。
そのいい声での歌が聴きたかっただけなんですけどねッ。
言うと怒られるから言わない。
いいんだもんッ。
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「ねえ、バジル君。七夕祭りさァ、一緒に行こうよ」
「あ? 七夕……祭り?」
「うん、そう! お祭りィ!」
バジル君が見事な仏頂面になる。
プイ、と、あたしに顔を背けて。
「嫌だ。汚れるから。ってか、興味ねぇし」
「何故だーッ!? ねェねェ、バジル君。お祭りだよ? 飾りがキレーだよ? おいしいもの食べられるよ? 楽しいと思うよッ!?」
バジル君があたしを振り向く。
道の端で足を止めて。
……すっごく嫌そうな顔をして。
「マイ、てめぇなぁ……ちょっとは考えろよ。人混みだぞ。絶対に汚れるだろ。それに食い物売る店が出るなら、ゴミが出て汚くなるだろ、道も。飾りだって……俺がキレイだと思うとは限らないじゃねぇか。勝手なことばかり言ってんじゃねぇよ。っていうか」
一緒に立ち止まっていたあたしはバジル君の口の近くに人差し指を持っていって遮った。
「バジル君にはみんな汚いんだもんね」
わかってる。
にっこり笑って言う。
バジル君は憮然として、あたしをじっと見た。
そして、ゆっくりと首を横に振って、なんだかがっかりしたように言った。
「……そうじゃねぇよ。なんで俺がおまえと行くって決まってんのかって話だ。ったく、常識ねぇな、マイ。普通、誰かと約束があるかとかまず訊くもんだろ」
最後は地面に吐き捨てるみたいにして言う。
……ぶー。
頬がぷくっとふくらむ。
……そんなこと想像したくもないのに。
「……7日、誰かと七夕祭りに行く約束がありますか、バジルさん」
ぶすっとして、あたしは口をとがらせて、嫌々訊ねる。
でも手はもじもじとセーターの裾をいじって。
目も見られなくて、うつむく。
バジル君の答えを待つ。
決まっちゃってるけどねッ!
わざわざそう言うってことは、あるってことだもんね。
それくらいあたしにだってわかる。
だから、ホントは、耳をふさいじゃいたいくらい……なんだけどさ。
でも訊かなきゃ。
あたし、死にそうだよ、バジル君。
でも聞かないと次にバジル君が誰と行くのかも訊けないし。
それは乙女としてどうしても気になるのですよ。
できればダリオさんとかだといいなーなんて。
……なァんて。
なんてね。
んなわけないじゃん、女の子だよね、お祭りに一緒に行く相手なんて。
バジル君のイジワル。
しょんぼりしてるあたしの耳にバジル君の気持ちのいい低い声が届いた。
+++++
「ねぇよ」
ひとこと。
「えッ!?」
パッとはじかれたように顔を上げてバジル君をぽかんと見ると、わずかに頬を赤くしたバジル君が、気まずそうに言葉を続ける。
「ねぇっつったんだよ、マイ。約束はない。もちろん、一緒に行く相手もいないぞ」
……はァ?
それってどういう……。
あ、そもそも行く気がないからか。
納得してポンと手を叩きそうになる。
改めて断られたってことかァー。
うー、バジル君、やっぱイジワル。
だけど、バジル君は少しあごを上向けるようにしてあたしを見下ろすようにして、そのくせ目を細めて、いつも困っているように見える垂れ眉をさらに垂れさせて、照れたみたいに少し赤い顔で、怒ったようにボソッと言った。
「……マイ、てめぇもだろ。相手がいないのは。一緒に祭りに行く約束くらいならしてやってもいいぞ。どうなるかわからねぇけど、それでもいいなら……」
「イイッ。イイです、ハイッ! それでイイです!!」
こくこくこくとうなずく。
バンザーイと両手を上げて。
抱きつきたいくらい。
バジル君、よだれもんだよ。
理性を保っていられる自分に驚きだよ。
「……そうかよ」
バジル君は大きなため息を吐いた。
なんだか疲れたみたいにやれやれと肩を落として、『やってられねぇ』みたいにゆるゆると首を横に振って、ポケットに手を突っ込んで、さっさと歩き出す。
その背中は『もう用は済んだ』って言いたげなカンジ。
わーい、気が進まないがしょうがないからしぶしぶ言ってやった、みたいなフリしても今さらなんだけどなッ。
あたしははずんだ足取りでバジル君の後ろをついて歩く。
「あたし浴衣着てくから楽しみにしててねッ」
「どうでもいいわ」
「あ、でも、たこやきとかはバジル君が買ってねッ」
「ふざけるなよ」
「射的とかどっちが上手いか賭けしてやろうねッ」
「絶対俺が勝つ」
あたしの後ろからの声に、うるさそうにしながらも、バジル君はきちんと返してくれる。
すごい嬉しい。
大好き。
とりあえず約束だけだけど、七夕祭り、ホントに一緒に行けるといいなァ……。
それに。
その後も。
一緒に……。
「バジル君。あたし、どうなってもいいからねッ!!」
「そういう意味じゃねぇ!!」
本気の怒声が返ってきました。
(おしまい)