バジル夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公はスキャッグスの逆さ数字の女の子。
ちょっと頭がおかしいコです。
内容:バジル夢。多少グロい。苦手な方は避けてください。
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白熱。
「『フラスグ・モ・クリー』」
ベッドに仰向けになったあたしは、自分の手を持ち上げて顔の前に掲げた。
その手をじっと見る。
スキャッグスの刻印のある手。
「……『私の心は焼けている』」
『てんとう虫 てんとう虫
おうちに飛んでおかえり
おうちが火事で燃えているから
子どもたちはみんな死んでしまった
だけどたったひとり……』
あたしは歌うのをやめた。
……くだらなあああい。
だって、この歌を歌って吹き飛ばせば想い人のところに飛んでいくっていうてんとう虫も、ここにはいないし。
『おうち』が火事だからって飛んで帰ってきてくれるようなバジル君でもないしィ。
ムダじゃん?
ってゆーかどうでもいいし。
「ヒマだなー……」
もし飛んで帰ってきてくれるっていうなら、あたしのこの『灼熱の掌(バーニング・パルム)』で、ここ燃やしちゃうんだけどなッ。
そんなことしても怒られるだけですよ。
バジル君が『俺のせいだ』とか言って一緒に罪を抱えてくれたら笑える。
まァ、でも、ありえないから。
「ふっ……」
震え出しそうになった体はすぐに固まる。
もう少しで笑えそうだったんだけど。
……つっまんないなァ。
「あーあ……」
……だから、あたしはひとり、身の内の熱にあぶられている。
だってひとりなんだもん。
『誰もあたしといない時、あたしはひとりぼっちです』って。
マザー・グースの歌にあるけど。
そうだよ、だからさ、自分で自分を焼くしかないじゃん?
バジル君がお仕事だって聞いた時、あたしはついて行きたいって言った。
それなのに……。
バジル君は『邪魔』って言った。
「マイ。てめぇは足手まといだ。今回は仕事の邪魔になる。おとなしくここにいろ」
「えーっ、あたし今までだって役に立ったじゃん! 邪魔なんかしないよ? ね、バジル君、連れてって!!」
「駄目だ。マイは使えない。使えないヤツを連れてく意味がねえ」
……って、そんなこと言うけどさ、でもォ。
あたしはわざとニーッコリ笑って首を傾げて言った。
これが一番可愛く見えるんだよねェ。
「ねェ、バジル君。マイね、役に立つと思うよォ。たとえばバジル君の身が危ない時にはかばってあげられるしィ。あなたの盾になりますッ。ねッ、使い方次第だと思わない? あたしたちは武器じゃん。バカとハサミは使いようって……」
「馬鹿が」
途中でバジル君が遮る。
……いや、だから、『バカ』ってあたし自分で言いましたが。
ムスゥッ。
もーッ、バジル君、他人の話まったく聞いてない。
ぷんぷんだ。
ってか、聞く必要もないよね、答えが決まっちゃってるから。
あたしだってわかってるけどォ。
それでも言いたい女心が、どーっしてわからないんですかッ?
ひどおおおいッ。
険しく吐き捨てたバジル君は、同じ調子で、あたしをにらみつけて言う。
「だからじゃねぇか。使える武器を使う必要のない時に出してどうする。もったいない。マイはここで待ってろ」
……きゅーんッ。
『俺の帰りをここで待ってろ』ってことですね!
了解ッ!!
バジル君イケメン。
けっこーヒドいこと言われてる自覚あるけどそんなことどうでもいい。
だって事実はそうなるもんねッ。
あたしファイト!!
目をキランキランさせてバジル君を見つめるあたしに、何かとっても迷惑そうにバジル君が目をすがめて投げつけるように言葉を続ける。
「使う時に使えるようにするために、何かあったら俺がてめぇを守らなくちゃいけなくなるだろうが。それは面倒だ。誰が連れて行くか。手間を取らせるな。それくらいわかれ、このピーマン頭が」
「はァいッ……でも、バジル君」
「なんだ、マイ。まだ何かあるのか」
出て行きかけていたバジル君が足を止めて本当にもどかしそうにゆっくりと振り返る。
わかってるよゥ。
ジークさんの指示がなければ本当はあたしは動きません。
『動くな』とも言われてないから今回は言ってみただけで。
バジル君が駄目って言うならそれは駄目だし。
あたしはスキャッグスが一番だしィ。
……でも。
あたしはニッコリ笑った。
「待ってる・か・ら・ねッ!」
「……」
不機嫌そうな顔をさらに嫌そうに歪めて、バジル君が無言であたしをジロリと見る。
そーんな顔したってェ。
だってバジル君が『待ってろ』って言ったんじゃん。
せめて『無事に帰ってきてね』なんて重たいことは言わないからさ。
あなたが帰ってくるのを待たせてよ。
それだけでいいからさ。
あたしは無言のままで踵を返すバジル君の背中を見送った。
というわけで、あたしは今、バジル君の部屋のベッドの上でごろんごろんしているのだ。
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参照:
*『フラスグ・モ・クリー(心が焼けている)』・・・『ケルト民話集(著者:フィオナ・マクラウド/訳者:荒俣宏/発行:筑摩書房)』より。
*『てんとう虫……』・・・『うたおう! マザーグース(上・下)』他、より。
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……ばふんっ!
仰向けだったのをうつ伏せに変える。
バジル君の枕に顔を押し付けて、ベッドに体を沈みこませる。
んーっ、バジル君のにほひ。
……って、あんましないけど。
あれだけ潔癖症だと匂いもあんまりしなーい。
残念。
でも、まァ、いっか。
くんくんくん。
微かな匂いをかぎながらバジル君の寝顔を想像する。
あの白茶色の髪に白い肌に薄い水色の目……全体的に色が薄い……いつも白いスーツを着てるってこともあって……寝ているところが想像しやすい。
そう、死んだように眠っているところ。
仰向けになって大きな目を閉じてお口も閉じて寝息も立てずに横たわっているところ。
白い顔をもっと白くさせて。
ピクリともせず。
……きっと、キレイだろうなァ。
はふー。
……まァ、見せてはもらえませんが、当然。
屍蝋化したバジル君の死体とか欲しい。
あの『白雪姫』のお話みたいに、あたしも相手が死んでてもかまわないなァ。
でもガラスケースに入った死体よりは、水の下に入った死体よりは……。
そう、『白雪姫』よりは、『雪の女王』。
悪魔の作った『人の醜いところが大きく映る鏡』が割れちゃって、その欠片が目に入って、人の醜いところ汚いところ悪いところばかりが目について、冷たい心になっちゃった男の子を雪の女王が自分の氷のお城に連れ去らうの。
雪に囲まれていて、何もかも真っ白で冷たくて、男の子はそれにふさわしく冷たくて、ひとりで『永遠』という文字を作ろうとパズルをやり続けるの。
幼馴染みの女の子が助けに来るまで。
……でも、あたしは、その幼馴染みの女の子よりも、女王様のほうになりたい。
男の子を助ける女の子よりも、男の子を閉じ込めて自分のものにしちゃえる雪の女王様になりたい。
……まァ、男の子は助けられちゃうから、カンペキに自分のものにはできなかったわけだけれどォ。
あたしだったら、氷の中に閉じ込めちゃうのに。
……そう、あたしは霧の女じゃない。
憧れるのは雪の女王様。
真っ白で冷たくすべてに焼けつくような痛みを与えて奪う、心のない六花(雪)のような女王様。
……でも、女王様は悪くないと思うの。
だって、『人の醜いところが大きく見える鏡』を作ったのは悪魔だし、それが男の子の目に入ったのはただの偶然だし、それで悪ばかりが男の子の目に映ったってことは、もともと小さくても人の心には悪があったってことだしィ。
そんな醜い人間が嫌になって拒絶したのはその男の子だもん。
あたし雪の女王様はただ淋しかったんだと思う。
雪のようでも、心のない雪とは違うから。
自分と同じだと思って男の子を連れてったんだよね。
それをかわいそうだと思って取り返した女の子のなんて独善的なことだろう。
そしてまた、それが正しいのだ。
なんて残酷。
たったひとりの孤独は、愛の前に敗けますか。
氷のような冷たい心も温かい涙で溶けますか。
女王様のためには誰が泣いてくれますか。
誰かひとり傍にいてくれればと願うのは罪ですか。
「……よくわかんないけどォ」
あたしは冷たいバジル君が好きです。
何故ならそれは冷たいからです。
あまりにも淋しいことだからです。
「『永遠のパズル』を解くのは難しいよォ……」
だって、あたしバカですからッ。
きっとピースが足りないんだ。
だからいつまで経っても完成しないの。
ふたりなら解けるとかですか。
だけどね、でもね、変わらないものなんてなあああいッ……の。
「どォッ……でもいい」
あー、ホントどうでもいい。意味がない。ただの戯言だもん。
あたしは別に雪の女王様なんかじゃないし。
どっちかっていうと森の女神(オフィーリアあるいは蛾)だし。
暇つぶしに歌い出す。
『あかちゃん おやすみなさい
父さんはうさぎの毛皮をとりに
狩りに行ったのよ
あかちゃんをくるむ毛皮をとりに行ったのよ
あかちゃん おやすみなさい……』
……もし、あたしがオフィーリアなら、バジル君には白いヒヤシンスをあげたい。
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*『あかちゃん……』・・・『うたおう! マザーグース(上・下)』他、より。
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「……ぎゃんっ!!」
突然ものすごい激痛。
脇腹、次にお尻。
あっと、背中も痛いよ。
ドンッ、バンッ、ガンッ……ってカンジ。
「イタタタタァッ……」
あたしはうめいてうっすら目を開ける。
目を開けるってことは、閉じてたってこと。
あー、あたしいつのまにか寝ちゃってたんだ。
ぼんやりと細く開けた目で見上げるとバジル君が映る。
特徴のある垂れ眉の根を寄せて、鼻の頭に皺を寄せて、歯をむき出しにして、こめかみをぴくぴく引きつらせ、大きな目をきつく細めて、険しい顔つきであたしを見据えている。
ベッドの横に立って見下ろして。
あ、わかった。
あたしバジル君にベッドから蹴落とされたんだ。
さすがバジル君、容赦ない。
「てめぇっ……マイ。なに人のベッドで寝てやがんだ」
バジル君はかなりお怒りのご様子。
っていうか、怒り通り越して呆れ返ってるみたい。
苦々しげに吐き捨てる。
「この変態が」
あたしはぴょこんと立ち上がる。
「バジル君を待ってました!!」
ハイハイハーイッ。
いいコでおとなしくちゃんと待ってましたとも。
だって『待ってろ』って言ったもんねッ。
「マイ、てめっ……」
バジル君の目がカッと見開かれる。
信じられないものを見る目つきで、顔を青くして、震える指をあたしに突き付けて。
大きな声でわめく。
「てめぇっ、なんでシャツ1枚なんだ、服はどうしたっ!?」
「脱ぎました!!」
「平然と答えてんじゃねぇぇぇえぇっ……」
肩を落として拳を握りしめてうつむいてぶるぶると震えている。
…ヤだなァ、バジル君てば。
そんなにびっくりしちゃって。
あ。
「大丈夫!! これバジル君のシャツだから!! 他の人のシャツなんかじゃないからねッ!」
マイ、浮気はしてなかったよ。
額に青筋立てたバジル君があたしをにらみつける。
わお。
「こっ……の、バカ女がぁっ!! 汚ねぇだろーが、今すぐ脱げぇっ!! いや、そのまま出て行け、マイ!! 嬉しそうに脱ぐな、キモい!! そのシャツもういらねぇ!!」
思い切りよくシャツのボタンを外そうとした……ちなみにパンツははいてるけど……あたしをバジル君が手をバッと前に出して止める。
ひっどいなー。
「彼シャツは男女共通のアコガレだと思いますがッ?」
ぷんぷん。
頬をふくらませて言うと、バジル君が片手を突き出したまま……あー、黒い手袋してる、仕事で使わなかったのかな、それとも使って取り替えたのかな……痛そうにもう片方の手で額を押さえた。
「てめぇなぁ……帰ってきたら自分のベッドに毒のある毛虫が横たわっていたヤツの気持ちになってみろ。これっ……ほど気持ちの悪いことはねぇだろ。っていうか、ありえねぇぞ、このストーカー女!!」
……ぶー。
バジル君の武器のが『デス・ストーカー』じゃないですか。
っていうか、ありえますゥ。
「カノジョが部屋で彼シャツ1枚で待っててなんで嬉しくないかな、バジル君はッ?」
「怖いわぁぁぁっ!!」
狂乱。
頭を抱えるバジル君。
うーん、傷つくなァ。
「えーッ、フツーそのまま襲うでしょォ? 据え膳だよ? 食わないのは男の恥……」
『汚ねぇ!!』とわめきながらバッサバサとシーツを引っ張って剥がしていたバジル君がムッとして返す。
「毒のある毛虫なんか食えるか。ってか、カノジョでもない女が何を抜かす。そんなことより、マイ、どうやって入った? いや、いい、鍵をつけ替えてもらう。ホント厚かましいな、てめぇは。入るだけじゃなく寝るか? しかも喜ぶとか思うか? おぞましいわ!!」
「そんなに嫌わなくてもォ。いーじゃん、待ってろって言ったのはバジル君だしィ。ちゃんとお風呂にも入ったしィ。子守歌歌ってたら眠くなっちゃったの。ちゃんと起きて待ってようと思ったんだよ? でもね、退屈すぎた」
バジル君いないとヒマすぎた、と口をとがらせて言ってみる。
はたして返ってきた反応は疲れたため息だった。
「……バカは平和でいいぜ……」
やれやれと首を振ってぼやく。
皮肉げな笑みに口元を歪めて。
そういう笑い方もカッコイイ。
ステキッ!
あたしはニッコリ笑ってシーツが剥がされたばかりのベッドに座り込み、とたんにしかめ面になったバジル君を見上げて首を傾げる。
「何か、あったの?」
「あってもてめぇにゃ言わねぇよ。言うだけ無駄だ。その空っぽのお飾りの頭じゃ何も考えられねぇだろ。俺は報告に行く。てめぇはさっさと服着て部屋出ろ、マイ」
「……ハァーイ」
ぷんぷくぷんっ。
でもいーもん。
たっぷりバジル君を堪能しましたし。
しぶしぶお尻を上げて床に投げ捨てちゃった白いワンピースを取りに行く。
バジル君、部屋の鍵開いてたし、不審には思ったんだろうに、このワンピースにも気付かずベッドに不用心に近付くなんて、らしくないなァ。
まァ、どうでもいいけど。
怪我もしてないみたいだし。
血の匂いはするけど。
それはいつものことだし。
どうでもいい。
「化粧つけやがって……」
シーツを広げて見ていまいましげなバジル君をあたしは振り返り見てはずんだ声で言う。
「スッピンがいーならそう言ってッ。あたし今度から化粧やめるッ。バジル君がいいならそうするかっ……あうっ」
言葉の途中で『バフンッ!』と飛んできた布に遮られる。
視界が真っ白ですよ。
まっしろしろ。
「……その布も持ってけ。もういらねえ。使えない物はいらない」
……ハイ、ハイ。
あたしはシーツをつかんで引っ張り出して、そのままずるずると引きずって歩く。
「じゃーね、バジル君」
戸口で振り返ると、スーツを脱ぎかけていたバジル君がチラとこっちに目を寄越して、フンと小さく鼻を鳴らすのが動きでわかる。
キョーミなし。
出て行ってくれるならそれでいい。
……ですか。
ふぅーん。
わかるけどォ。
あたしはわざと小さく笑った。
「あはっ、また後でねッ」
バタンッと扉を閉める。
……いーけどォ。
冷たくなった心で死体のようにあなたを待ち続けるから。
白い世界が広がれば、あなたを待つ場所も増えるかな。
……って、それじゃ逆だけど。
ねェ、雪の女王様。
あたしだったら冷たくなった彼に涙を流したりしない。
そっとくちづけして、ずっと一緒に氷の城にいるのに。
真っ白な世界で。
(おしまい)