バジル夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公はスキャッグスの逆さ数字の女の子。
ちょっと頭がおかしいコです。
内容:バジル夢。多少グロい。苦手な方は避けてください。
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『ハンプティ・ダンプティ、へ・い・の・う・えッ!
ハンプティ・ダンプティ、落っこちたーッ☆』
あたしは歌いながら歩いて、ソファーに座るバジル君の隣にどさっと投げ出すようにして腰を下ろした。
バジル君の迷惑そうにしかめられた顔があたしの方を向く。
その大きな水色の目を嫌そうに細めて、垂れ眉の根を寄せて、口を半開きにして、何か言いたそうにして、ジロジロとあたしを見る。
その不愉快そうな表情がたまらない。
今日もカッコイイな。
白いスーツが眩しいね。
クリーム色の髪の毛がサラッサラで。
イケメンですねッ☆
あたしはニコッと笑かけてみる。
ピクリと頬を引きつらせ、バジル君は無言でフイと顔を背けて、正面に向き直った。
難しい顔をして、カッコよく足を組んで座り、あごに手を当てて、じっと待つ姿勢。
だんまり。
つまりあたしは無視。
用がなーいってこと。
ただ待つよりしゃべったほうがいいと思うな。
時間が減ってくことに変わりはないんだから。
でも、あたしは気にしなーい。
だってバジル君の隣にいられるんだもん。
かまわず歌い出す。
『ハンプティ・ダンプティ、へ・い・の・う・えーッ』
バジル君、ジークさんの指示を待ってるんだよね。
仕事熱心さん。
ってゆーか、バジル君、ひそかにアンディ君を捜してるんだよねえ。
バジル君を壊して出てっちゃったアンディ君を。
スキャッグスの力でもってバジル君を壊しておいて、そのスキャッグスから逃げ出しちゃったアンディ君。
バジル君、全・否・定☆
アハッ。そりゃムカつきますわ。
バジル君くやしいよね、みじめだよね、許せないよね。
だってケンカして勝って手に入れた食べ物を『やっぱマズいからいらない』って放り出すみたいなマネされちゃ。
二重に敗けるみたいな、ね。
『おまえの欲しがってたもの自分は持ってるけどいらないよ』ってわけだもん。
地に伏せられた身としては、屈辱的な敗北に、怒りハンパないですよォ。
実際バジル君怒っちゃってるしー。
いつまでも気になるんだよね。
目の上のタンコブってヤツですか。
まァ、あたしはバジル君の味方なんで、あなたの宿願が果たされることを祈りますッ。
早く思い知らせてやれるといいねー。
どうでもいいけど。
あたしにできることがあればいいんだけどなッ。
機会があれば、あたしはいつだってバジル君のお役に立ちたいわけだしィ。
そうでなければ、そうできない今は、どーっだっていいことだけど。
うん、どうでもいい。
歌いながらバジル君の横顔を見る。
水色の目に光が当たって透き通ってキレイ。
どこか深い森の奥の泉みたい。
神秘的な感じ。
それでいて、ビー玉みたいでもあって、取り出して転がして遊びたい。
……でも、えぐり出したら、濁るよね。
そしたらもったいないなァ。
+++++
『ハンプティ・ダンプティ、へ・い・の・う・えッ!
ハンプティ・ダンプティ、落っこちたーッ☆
人をどれっ……だけたくさん集めても、
何をどれっ……だけたくさん集めても、
壊れてぐちゃぐちゃになった彼を元に戻すことはァ、
だあああれにも、できなあああああいッ!』
「うるさい」
上機嫌であたしが歌い終えると、バジル君が鋭い目をくれる。
わお。
さすがバジル君、目だけで殺せそう、しびれます。
「マイ、黙れ」
口を効くのも嫌といったふうに重たく言ってすぐに口を閉じる。
うんざりとした様子で。
……うーん?
あたしは隣のバジル君を覗き込む。
「バジル君はァ、こおーんなにカワイイ女の子が傍にいるのに、どーっしてワクワクドキドキ心がはずまないんですかッ?」
また嫌そうな目だけがあたしに向けられる。
……ムゥ。
つまり覗き込んだ瞬間に顔を背けたわけで。
あたしは頬をふくらます。
なんでこっち向いてくんないの?
「可愛い女……」
ふと不思議そうにつぶやき、バジル君の目がゆっくりと動いて右と左と正面を確認する。
「……どこだ?」
ハイハイハイッと手を挙げているあたしを視線は見事に素通り。
……キュウ。
パタン。
……もだえ死ぬッ。
キューン。
あたしは一度伏せてガバッと起き上がった。
「ひどぉぉぉい、バジル君、あたしがいるじゃーんッ!!」
またジロリと冷たい視線を寄越す。
「うるさい。黙れ。死ね」
「死ぬと黙るし、うるさくもないと思いますがッ?」
「じゃあソッコー死ね」
きゃあああんッ。
「バジル君、冷たぁぁぁいッ」
だからスキ。
遠慮なく吐き捨てるその冷たい言葉と低い声がステキ。
そういうところがたまらない。
これはただの事実で、だからなんでも、どうだっていいこと。
・・・・・・・・・・
*歌はマザー・グースからです。
歌詞(訳)は少し変えてあります。
参照・『マザー・グース(1~4)/訳:谷川俊太郎/絵:和田誠/監修:平野敬一/発行:講談社』
・・・・・・・・・・
+++++
あたしはゆっくりと手をバジル君に向けてのばした。
そして、ニーッコリ笑った。
「そんなあなたのハートに火をつけちゃうゾッ」
つまり、能力発動したあたしの手で、心臓わしづかみにしちゃうぞってこと。
まァ、武器の『無数針毛虫(ファイアー・キャタピラー)』は置いてきて、今は持ってないけど。
下から覗き込んでいるあたしをようやくまともに見下ろしたバジル君がチッと舌打ちする。
「……この(ピーッ)女が……」
放送できない用語を言うバジル君。
やった、やっと見てくれた。
あたしはただ嬉しい。
「ねェねェ、バジル君、あたし可愛いでしょーッ?」
「それはてめぇの頭がおかしいからだ」
……あう。
「あたしバジル君はカッコイイと思いますが、それもあたしの頭がおかしいからッ?」
「そうだ」
……あうう。
涙が出そう。
出ないけど。
「美男美女でお似合いだと思うけどな、あたしたち」
「……」
目をすがめてあたしを見ていたバジル君がふと考え込む。
……どうしたのかなー?
しばらくして、ゆっくりと口を開いた。
「……マイは、そうだな……。顔はいいのかもしれないが、可愛くはない。なんていうか、暑苦しい」
「熱いのは当たり前だけど」
あたしは能力を持つ自分の手『灼熱の掌(バーニング・パルム)』を持ち上げて見せる。
その名の通り熱くなる掌。
じっとそれを見たバジル君がうなる。
「そうじゃねえ……暑苦しい、いや、厚かましい。マイは可愛く思えない」
ずがーん。
ちょーショックなんですけど。
ってゆーか、いや、震える。
顔が熱くなるところからして、多分あたしは真っ赤だ。
嬉しくて震える。
あたしは力いっぱい言った。
「うっとうしいってことッ?」
「ああ、ウザい」
「……くあぁッ……!!」
きっぱりと言うバジル君オトコマエ。
女の子にそんなに冷たくできるところがステキ。
「バジル君、だぁぁぁい好きィッ!!」
両手で頬を包んで身もだえしてるあたしを、バジル君は今まで見たこともないグロテスクなイキモノを警戒しながら観察するような目でジロジロ眺めている。
ちょっと不安そうに、不気味そうに、怖そうに。
すっごく気持ちイイなー。
「だからそんなあたしにもうちょっとやさしくしてくれたっていーのにィーッ」
「マイにやさしくできるヤツがいたら、よほどの善人か物好きかただのヘンタイ仲間だ」
「可愛い女の子にはやさしくするものでしょーッ?」
「だから、それが勘違いだって言ってんだ。てめぇは中身が可愛くない。頭が軽すぎるんじゃねえか」
「うーッ……」
あたしはうなる。
目を細くしてバジル君をにらみ上げるようにして。
確かにバジル君の言うことは正しい。
淡々と事実だけを述べてくれる。
あたしはそれが好きなんだけど。
口をとがらせて言ってみる。
「頭がいいか悪いかは大きさじゃなくてしわの数だなんて聞いたことがありますがッ?」
「ああ、じゃあ、しわくちゃになってこい」
「女の子にしわくちゃになれなんてひどぉぉぉいッ」
「うるせぇ」
バジル君がとうとうプイと横を向いてしまう。
「俺はてめぇが嫌いだ」
心底嫌そうにうんざりとした様子で吐く。
「……」
……そんなに嫌わなくても、どうせあたしに意味なんてないのに。
バジル君てばいつも真面目に相手してくれるよね。
こんなあたしを本気で罵ってくれるんだから。
だから、嬉しい。
あたしはニコッと笑った。
「いーよォ? 別に。それでもいいよ。ってゆーか、どーでもいいよ。あたしバジル君が好きだから、なんでもいいの。ねェ、どうしたら好きになってくれる? あなた好みになるからなんでも言ってッ」
「……」
バジル君がチラと目だけこっちに寄越す。
うーわ、嫌そうな目。
もう嫌どころじゃなく、死んだような目をしてる。
「……脳みそ取り替えてこい」
怒りを抑えた低すぎる声で静かに言う。
あたしはケラケラと笑った。
「残念だけどあたし頭カラッポだからそれはムリだと思うなッ」
「詰めてもらってこい。話はそれからだ」
「誰にィ?」
「あ?」
ピクリとして黙り込む。
「……」
きっと今、あたしの脳みそを詰めてくれる相手を考えてる。
あるいは、うまい言い逃れを。
そんなことはいいからさ。
「ねえねえ、バジル君。あたしの外見はとりあえずいいと思ってくれてるんだよね。じゃあさじゃあさ、嫌なとこ言ってよ、直すから。あたし頭カラッポだから簡単だよ。なんでもバジル君の言う通りにするよ。思い通りになるよ。ねェ、どんなコになって欲しい? どんなコが好み? バジル君の好みを教えて!!」
「……そういうところが嫌だ」
本当に疲れた様子でため息を吐く。
……あらら。
うーん、これ以上はマズいかなー?
押してダメか。
それにしても、バジル君、ちょっとヒドい。
あたし、全・否・定・ですかー。
つまんないな。
泳がせた目がこっちに近付いてくる人物をとらえる。
やった、ダリオさんだ、ラッキー☆
あたしはぴょこんと立ち上がった。
+++++
「お兄ちゃあああんッ!!」
そばまで来たダリオさんにひょいと抱きつく。
ぎゅう。
背中に腕を回して広い胸に顔を押しつける。
それから見上げると、ダリオさんニッコニコ。
あたしを抱き返してくれました。
「おー、よしよし、可愛いね、マイちゃんは」
えへっ。
本当の妹にするみたいにやさしく頭を撫でてくれる。
ニコニコ、ニコニコ。
微笑み合う。
チラとバジル君のほうを見ると、いかにも青天の霹靂といったショックを受けた様子で呆気にとられた顔をしている。
きょとんとしていると言ってもいい。
あたしたちの兄妹のフリに。
……いやいや、冗談ですから。
『お兄ちゃん』は嘘ですから。
あれで真面目なとこあるから本気に取っちゃったかな?
なーんて、そんなわけないか。
ダリオさんが嬉しそうに言う。
「森の女神(オフィーリア)の兄なら俺はレイアーティーズかな。そしたら、バジル君がハムレットか」
バジル君の大きく丸く見開かれていた目のまぶたが下がっていくのを見る。
すぐにバジル君は呆れを通り越して見事な仏頂面になった。
そしてそっぽを向く。
あごを手で支え、どこでもないどこかを見て、口元に皮肉げな笑みを浮かべる。
まるであたしたちは目に入りませんというふうに。
いーもーんッ。
ダリオさんにかまってもらうもん。
あたしはダリオさんにすりすりする。
「お兄ちゃん、バジル君が冷たいのお。あたしのこと可愛くないって言うんだよォ? 暑苦しいって。厚かましいって。あたしのこと嫌いなんだってェ」
『ウザいって言うんだよォ』と口をとがらして訴える。
ダリオさんは笑顔でこくりとうなずいた。
「ああ。確かにマイちゃんはウザいところがあるね」
「ひどーいッ、ダリオさんまで! あたし、ショック!!」
「ははっ、でもマイちゃんは可愛いよ」
「ホントッ?」
「ホントホント。ブリオッシュ食べるかい? 買ってきたんだけど」
ニコニコとそう言って、片手に持っていた紙袋を差し出すダリオさん。
「やったーッ!! 食べる! 食べます、ハイ!!」
腕を放してダリオさんを解放してその場でバンザイをする。
紙袋ごと手渡された。
「好きなの選んでいいからね」
「ホントにィ? ダリオさんやっさしー!! 大好き!!」
目の端にピクリとするバジル君が映る。
あたしは紙袋を抱えて歩き出した。
「コーヒー淹れてきまあすッ」
「俺の分も頼むよ」
「はーい!」
去っていくあたしの後ろで、バジル君がダリオさんと話してる。
「なんであんな実戦で使えもしないヤツを生かしてるんだか……」
「拷問と実験のためじゃない?」
「……俺に対する拷問か」
「またまた、バジル君てば、そんな冗談を」
……ぶー。
いいもんね。
なんて言われてもキョーミないしィ。
コーヒーを3人分持って戻り、ブリオッシュをダリオさんと食べて(バジル君はコーヒーは飲んでくれたけどブリオッシュは食べなかった)、そのおいしさに『ダリオさん大好き!!』を連発して。
「マイちゃん、そんなに俺のこと好きなら今晩部屋に来る?」
変わらぬ人の好さそうなニコニコ笑顔で冗談っぽく言われる。
「行きまあーすッ!」
と元気よくお返事して。
バジル君が信じられないというようにちょっと目を見開いて、それからその目を半眼にして頭の痛そうなしかめ面をして。
ダリオさんが『気が変わらなかったらおいでよ』と言って去っていくと、それまで黙っていたバジル君が口を開いて。
「……マイ。おまえは本当に頭空っぽなのか?」
それは、多分、『どういうことかわかってるのか』ってことで。
あたしはニーッコリしてうなずく。
「うん」
でも、だって、大したことじゃないでしょ。
誰かと寝るくらいなんでもないことだし。
そんなことに意味はないもん。
「俺が好きなんじゃなかったのか?」
「……うーん?」
好きだけど、好きなんだけど、もっと。
……違うんだよねえ。
どうでもいいことなんだけど。
「節操ねぇな、てめぇは。頭も軽けりゃ尻も軽いか。ダリオさんのところに行くなんて正気か?」
「あのねえ、マイねェ、わかんないんだ」
ダリオさんのことは好きだけど、バジル君のことはもおっと……愛してるよ。
でも、『愛してる』なんて言ったら、重たいじゃん。
ウザいし、キモいでしょ。
『大好き』程度でちょうどいい。
バジル君でなきゃどうでもいいことだもん。
誰と何したって平気。
意味なんてないから。
だからわかんないだよ。
「何がいけないの?」
不思議そうに問うと、バジル君が額を押さえて大きなため息を吐く。
「てめぇなぁ……ホントに頭の中身入ってねぇなぁ……ったく」
「うん。だからそう言ってんじゃん」
「ハァ……ならいい。マイ、今夜は俺のとこに来い。仕事がないみたいだから、暇つぶしだ。ちゃんと風呂に入ってキレイにしたなら、俺が可愛がってやる」
「えっ……」
ゆっくりとソファーから立ち上がるバジル君。
蔑む目でジロリとあたしを見る。
「頭が空っぽならちょうどいい。余計なこと考えないんだろ。深い意味なんてないからな。期待しないだろ?」
「……うん。うん!!」
「マイ、てめぇのこと好きでもねぇからな。わかってるだろうな?」
「うん! いいよ!! 全然OKです!!」
……やった。やったあ!
バジル君からお誘いをもらいました。
バジル君、大好き。
バジル君に限ってはあたしの『大好き』は『アイシテル』と読むのだ。
ナイショだけど。
言ったりしないけど。
(おしまい)