ウォルター夢(りら)
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この章の夢小説設定設定:学パロ(依理愛とは別)。
主人公は仲良しの女の子。
内容:ウォルター夢。
友情以上恋愛未満。
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「……!」
誰かに名前を呼ばれている。
うるさいなと私は思った。
耳元で声を出して。
うるさいな……。
誰だろう?
「……りら! おい、りら! 起きろって!!」
ぐいっと肩をつかまれて遠慮なしに大きく前後に揺さぶられる。
……大きな手だなぁ、なんて、私はその手の温もりを感じて思った。
でも、そんなことをじっくり感じている場合じゃなくて、手の持ち主は私を起こそうと容赦なく揺さぶり続ける。
……そう、現国の授業中にあまりに眠くて、机にふせって寝てしまった私のことを。
そこまで思い出して、私は自分が寝ていたことに気が付き、パッと目を開けた。
「りら!! ……あ、ようやく起きた。さっきからずーっと呼んでたんだぜ?」
鮮やかな赤が目に飛び込んでくる。
私の顔を間近で覗き込んでいるのは……ウォルター君……だった。
真っ赤な長い前髪の間から、黄色い目がちらっと見えて、それが喜びに輝いている。
ニカッと白い歯を見せてやんちゃな笑みを浮かべて私を見ている。
私はカァッと顔が熱くなった。
さっきから私を呼んでいたのはウォルター君だったんだ。
あんな近くで名前を呼ばれて、肩をつかまれて、寝顔を見られた!?
しかも今現在も顔を覗き込まれてる!!
「うわぁ……」
思わず漏らすと、ウォルター君が『くくっ』とおかしそうに笑う。
「なんだよ、『うわぁ……』って、その間抜けな声。りらってなんかちょっと抜けてるよな。あ、いや、いい意味で!!」
ウォルター君は力いっぱいそう言うと、顔を赤くして焦った様子で一生懸命続けて言った。
「可愛い……よ、りらの、そういうところ」
途中でふいっと顔を背けてしまう。
「俺は別に嫌いじゃないぜ?」
「ウォルター君……」
私はクラスメイトのわずかに見える赤い頬をぼんやりと見つめた。
……まさか、そんなふうに思ってくれているなんて、言ってくれるなんて。
嬉しいよ……。
私は恥ずかしくなってうつむいた。
きっとウォルター君は人の気持ちに敏感なんだな。
私を傷つけたんじゃないかと思って勇気を出して言ってくれたんだろう。
それでも素直になれずに照れて誤魔化してしまう女心。
「あ、ありがと。……起こしてくれて。それで、なんの用?」
ウォルター君は振り向くと普通に戻ってさらっと言った。
「ああ、授業終わったからさ、起こそうと思って」
『次、移動だから』と当たり前のことのように言う。
黒板のほうを見ると、確かに『次の授業は視聴覚室で行います』と書かれていた。
辺りを見回すと、ほとんどのクラスメイトが行ってしまったようで、もう残り少なかった。
……友達はどうしたんだろう?
まさか置いていかれた?
忘れられた?
ふと不安になって眉をひそめると、それがわかったのか、ウォルター君が視聴覚室の方向を指さしながらなんでもないふうにあっさりと言った。
「りらの友達なら先に行ったぜ。いくら起こしても起きないからって。だから俺が起こして連れてってやるって言ったら、じゃあ任せた、って」
……ああ、なるほど、そっかぁ。
まぁ、私の友達連中じゃあ、あんな乱暴な起こし方はできない。
寝汚い私を起こしてくれたウォルター君には本当に感謝だ。
うんうんとうなずいて、ハッとして、私は立ち上がった。
「うおっ!?」
私の机の正面に座っていたウォルター君がびっくりして尻もちをつく。
「どうした、りら?」
「早く行かなきゃ!!」
そうだよ、休み時間終わっちゃうじゃん、のんびりしている場合じゃない。
「ごめん、ウォルター君、ありがとうね! 待たせちゃってごめんねっ! すぐ準備するから、早く行こ……」
『行こう』と言おうとした、その瞬間に、横から遮るように割り込む声があった。
「ねえ、ウォルター君、一緒に移動しようよ」
……この声は。
振り向くとやっぱりウォルター君狙いの女子だった。
クラスメイトだけどグループが違うし、ギャルっぽくて合わないからあんまり話したこともなく、正直言ってちょっと苦手。
今もウォルター君に馴れ馴れしく話しかけて傍に寄ってベタベタとくっつこうとしている。
……こういうの嫌だなぁ……。
なんでかわからないけどその姿を見たくなくて、私は教科書とペンケースを出して持つと、急いで視聴覚室に行こうと去ろうとした。
「じゃっ、ありがと、ウォルター君!」
「おい、待てよ、りら!!」
ウォルター君がぐっと私の手首をつかんで走り出そうとする私を止めた。
「お前は俺が連れていくって約束したんだぞ!?」
怒ったように大声で言って、女の子のほうを振り向くと、軽く片手をあげて『ごめん』ときっぱりと言い放った。
私は手首をつかまれたまま動くこともできずに呆然としていた。
『お前は俺が連れていく約束』って……。
……友達としたんだよね。
私とじゃない。
それなのに、全身が熱い、心臓がドキドキして痛いくらい。
どうしよう……。
こんなに嬉しいなんて。
まるで『大切な人』みたいな言い方をされちゃって。
他の女の子を断って私と一緒に行くことを選んでくれた、そのことだって嬉しい。
死んじゃいたいくらい嬉しい。
本当に、どうしよう、たぶんきっとただの親切なのに。
好きになっちゃったらどうしよう。
こんなことされたら困るのに。
「さぁ、行こうぜ、りら。……どした?」
じんわりと潤んだ瞳でにらみつけていると、ウォルター君がきょとんとする。
その顔が『あれ、なんか怒らせるようなことしたかな、しまった』みたいな顔になる。
私はスッと目を逸らして、口をとがらせて、不機嫌そうに低い声を出した。
「……別に。早く行こう? 予鈴鳴っちゃうから……」
眉をひそめていたウォルター君が『ああ』と言って嬉しそうな笑顔になる。
……まったくもう。
変な勘違いしてくれちゃって。
肝心なことに気が付かないんだから。
自分だってじゅうぶんに抜けてるじゃんか。
私はいまだ握られたままの手首に目を落とした。
この大きな手が与える温もりと安心感がいつももらえたら。
……なんて、そんなことをふっと思ってしまって、後から気付いた。
まったく、もう、私って抜けてるなぁ。
もう惚れちゃってるじゃん。
(おしまい)