ウォルター夢(茜)
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この章の夢小説設定設定:学パロ(依理愛とは別)。
主人公はウォルターの隣の席の女の子。
内容:ウォルター夢。
友達になりたい。
ほのぼの?
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授業の休み時間。
私は横目で赤い髪を眺めていた。
その髪は窓から射し込むまぶしい日の光に当たっていっそう鮮やかに赤くつやつやとして。
沈む前に最後に強い光を放つ夕日が作る赤い空のような。
そんな目を細めたくなるほどの美しさで。
私は目が離せない。
持ち主はといえば、眠たそうに少し顔をうつむけて、長い前髪でそのくまのある目を隠し、形のいい鼻を見せているだけだから、大丈夫、私が見ていることはバレないはず。
ぱかっと少しだらしなく口を開けて、体だって斜めになっている。
熟睡とまではいかないものの、きっとたぶん気付かないくらいには寝ているはずで……。
「茜」
急に呼ばれてビクッとした。
「なっ、何!?」
声は隣からだった。
バッと勢いよくそっちを振り向く。
寝ていると思っていた彼……ウォルター……が起きて顔を上げて私のほうを見ている。
赤い前髪のすきまから覗く黄色っぽい目をきらきらと輝かせて。
すごく真剣な顔で。
私がかちこちに固まって『なんでどうしてバレた!?』と焦っていると、向かい合ったウォルターはいきなり大きなあくびをした。
「ふわ~ぁ」
見られていることなんてまるで気にしない様子で思い切りあくびをすると、目に浮かんだ涙をぬぐって……それで目がきらきらしてたんだ……もう一度しっかり私を見た。
「次の授業、なんだっけ」
「……え、数学……」
私はウォルターの動きでともに揺れる耳の十字のピアスを夢中になって目で追っていた。
「数学か。ダリぃな」
ぼそりと言って、『あーあ』とまたあくびと、背伸びを同時にする。
大きな体の動きにビクッとする。
髪の毛は赤いし、ピアスはしてるし、不良っぽいところがあるし。
……でも嫌な感じはしない。
ちょっと怖いけど。
むしろ、男だったらこうだったらなぁ……って、憧れるというか。
友達に言ったら『変人』呼ばわりされたけど。
普通の女子ならそこで『恋人になりたい!』と思うものなんだって。
私……、私は、友達になりたい。
もっと気軽に話せるようになりたい。
席が隣になってずいぶん経つけどいまだに緊張しっぱなしで。
私は地味で無口で目立たない面白くないもちろん美人でもないなんにもないから、こんなに派手で元気な時は明るくて面白くてものすごい美形であるウォルターと接点なんてない。
関係がなくて当然だ。
こんなにまったく違うんだから。
だからこそ憧れるともいえるんだけど。
少し真似してみれば……たとえばピアスを開けてみるとか……すれば、仲良くなれるかな。
指で耳たぶをいじってみる。
「なぁ、おい、茜」
ハッとした。
ウォルターが隣の席から身を乗り出して私のほうを覗き込んでいる。
「俺、数学の教科書、忘れちまったみたいなんだけど」
真面目な顔で内緒話のようにひそひそと言う。
私は慌ててどうにかしようと頭を働かせた。
何かいい案はないかな。
彼の役に立ちたい。
教科書、教科書……。
「あっ……誰か他のクラスの人に借りれば?」
思いついたことを何故か自分も小声になって言えば、ウォルターが嫌そうな顔をする。
「他のクラスの奴……」
机に肘をついてあごを手で支え、『うーん』とうなり、難しい顔で悩み出した。
「……怒られるからなぁ……」
やがてぽつりとそんなことを言って、ガタッと椅子を背で押して立ち上がる。
肩に鞄をかけて。
勢いよく。
「えっ……」
唖然としている私に向かって、ニッとやんちゃないたずらっ子のような笑顔を見せた。
「悪い、茜。俺、早退するから。っていうか逃げる。いや逃げないけど。パスさせてもらう。先生には適当に言っといて」
「適当って……」
「腹痛とか。茜に任せる!」
「そんな……」
去ろうとしたウォルターは、どうしようかと困っている私を振り向いて、今度は申し訳なさそうな苦笑を浮かべて言った。
「ごめんな。真面目な茜にこんなこと頼んじまって。今度お詫びする。なんかおごるからさ。考えといて、食べたいものとか、欲しいものとか」
両手を合わせて言われたそれが不満を出そうとした私の口を閉じさせる。
ウォルターと仲良くなるチャンス。
これもいわば『共犯者』で。
それはとても魅力的。
断れるわけがない。
「うん、わかった」
私はこくんとうなずく。
ウォルターはまだ傍から離れずになんだか楽しそうに言う。
「茜は何が好き?」
えっ……。
驚いてウォルターを見上げる。
日の中にいる彼は温かく笑って私の答えを待っていて……。
私はきらきらと輝く彼の赤い髪から目を離せずにいた。
頭では必死に考える。
おごってくれるから好きなもの訊いてくれてるんだ……。
ああ、早く答えないと。
私の好きなもの……。
なんでもいいのに。
でも、でも……。
ここで好きなものが重なれば仲良くなれるかも?
だけどウォルターの好きな食べ物なんて知らないし……。
なんて答えたらいいんだろう。
数学よりも難しいよ。
仕方がない……。
目にはまぶしい赤が焼き付いていて。
私はギュッと目を閉じて意を決して言った。
「苺パフェ!!」
きっぱりと言い切ってキッとにらむようにしてウォルターを見上げる。
先に私を知ってもらおうと。
それから彼を知ろうと。
「苺パフェでお願いします!」
彼はクッと笑いを漏らしてそれを堪えるようにして唇を噛んで横を向いた。
「なっ……何?」
私は本当にムッとして思わずにらむ。
「……茜、可愛いとこあるんだな」
クックックと笑いをこぼしてウォルターが言う。
私は真っ赤になった。
恥ずかしい……。
「せ、先生来ちゃうよっ!? ウォルター君、早く行かないとっ……」
「ああ、サンキュ。じゃあ、茜、今度『苺パフェ』な」
「う、うん……楽しみにしてる」
手を振って去っていくウォルターが、ぼそりと言った私の小さな声をちゃんと最後まで聞いていて、『俺も楽しみにしてるぜ』と笑顔で返してくれたのを。
私がどれほどうれしいと思ったか。
……彼は知らないだろうけど。
その後、思い出しては頬を緩めてニヤついていた私を不審に思って問い詰めてきた友人たちには、情けないことに全部知られてしまった。
そして、『そういう時には教科書を見せてあげないとー』と、私は友人たちに鈍感呼ばわりされることになったのだった。
(おしまい)