ウォルター夢(フォリア)
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この章の夢小説設定設定:仲間。
主人公は図書館で働く女性。
内容:ウォルター夢。
名前を変換しない場合『フォリア』になります。
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いつもより少し人が多くて騒がしい通路をぶつからないように気をつけながら歩く。
別に何があったわけでなくとも……何って、たとえば街でお祭りがあったとか、ここで催しがあるとか、そうでなくても……不思議とお客が重なる日がある。
なんでなのかはさっぱりだけど。
たぶん、いつも行っているどこかが休みだとか、どこかで何かあってここに来る必要のある人が増えたとか……。
考えてはみるけれど、いつもここで忙しく働いている私には、見当もつかない。
休日以外はほとんど外に出ることもなく、ここで過ごしているから、外のことをあまり知らない。
お昼を買いに街に出たりはするけれど、それも少しの間だけで、すぐに戻るし……。
私でさえそうなんだから、上の人たちはたぶんもっと触れてないんだろうな、外に。
私は仕事場に閉じこもりっきりで書類とにらめっこしている先輩たちを思い浮かべる。
新人の人だってもう何日休めていないのか……。
……もっとも、その一番上の人間であるカルロさんは、度々抜け出しているようだけど……。
そんなことを考えていたら、急にガクッとして、体が傾いた。
前に向かって倒れていくのがわかる。
ひどくゆっくりと、スローモーションで。
ああ、私、転ぶんだなぁ……って。
ぼんやりと思う。
遅まきながら、何かにつまずいたことを理解した。
いったい何に?
私は何にぶつかったの?
足元には何も見当たらなかったのに。
うわぁ、何もなかったのに勝手につまずいて転……っ。
ガシィッ!
……床に激突することを覚悟して目を閉じたら、私の体の下に誰かの腕が入って止まった。
思わずその腕にしがみつく。
固く閉じていた目をおそるおそるゆっくり開くと、たくましい腕が私のおなかに回されて、小脇に抱えられるようにして支えられている。
当然、床にぶつからずに済んだ。
……でも。
私の肩にかかっていたバッグはその人が私をつかまえる前に肩から外れてしまっていたらしく。
見ている前で飛んでいって少し離れた床にガシャッと落ちて中身をまき散らした。
ああああああっ!!
……なんてこと。
蒼白。
こんなところでお店を開いてしまうなんて……。
ぐったりとする私の頭上で、『ぷっ、くくく……』と笑い出す、私をつかまえている誰か。
ハッとして私は顔を上げた。
真っ赤な長い前髪の間から見える目を面白そうに細めて、ニヤニヤしている口元に拳を当ててクックッと笑って、童顔をさらに幼くしてこどものような……それもいたずらっこの……顔をしているウォルター。
「ウォルター!!」
私はびっくりして悲鳴のような声を上げる。
私を転ぶすんでのところで助けてくれたのはウォルターだ。
……よりにもよって……。
こんなみっともないところを見られてしまうなんて。
しかもこんな一生そのことでからかいそうな相手に。
おかしくってたまらないというふうに大きく『あっはははははっ……』と笑い出したウォルターは、大きく肩を揺する動きで私を揺らしながら、楽しそうに言った。
「おいおい、フォリア。なんにもないとこで転ぶって、おまえ……! ドジだなぁ、ホント。ダメだ、笑えるっ……!!」
ムカッ。
遠慮なく笑ってくれちゃって。
なんて失礼な人なの。
ドジとは何よ、ドジとは。
それに『ホント』にって。
私だって別に転びたくて転んだわけじゃっ……。
ウォルターに笑われるためじゃありませんからね!
……っていうか。
「は、放してよ、ウォルター!」
私をまだ抱えたままで笑ってるんだから。
恥ずかしさと怒りで真っ赤になって怒鳴る。
「おっ、悪りぃ、フォリア」
その勢いにか一瞬きょとんとしたウォルターが手を放す。
私はしばらくぶりに床に足をつけて立った。
乱暴に抱えられていたせいで乱れた服の裾を直しながら、ウォルターを振り返る。
+++++
……う、顔が熱い……。
ずいぶんと軽々と抱えてくれちゃって、見ればもう片方の肩にはいつもの棺をかけて持っているじゃないの。
その状態で私を片手で……しかも転びかけて不自然な体勢だったのを……ひょいと軽くすくい上げるようにして拾ったってこと?
しかも、その……決して軽いとは……言えない私を。
……すごい……。
抱えられた時に感じた腕の太さとか力強さとかしっかりした相手のおなかの感触だとか体の熱さだとか匂いとか思い出して戸惑う。
気まずい……。
しっかりと顔が見られない。
だって笑われたこと怒っちゃったし、それを抱えられているせいみたいなフリをしちゃったし。
本当は、転ぶところを見られちゃって、恥ずかしいのが一番だったんだけど。
だから、つい……。
助けられたことを怒ってるみたいな態度を取ってしまって。
そんなことないのに。
……うう、とっても言いにくいけど、きちんと伝えなきゃいけないよね。
どうしようかとにらむように見上げるのをやめて、私はウォルターにペコンと勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい! ありがとう、ウォルター。た、助けてくれて……」
どうしても顔をしっかりと見られなくて、目をさまよわせる。
だって恥ずかしいんだもん。
チラッと横目で見ればウォルターは、なんだかぽかんとしたような、目をちょっと見開いて、小さく口を開けて、私のことをじっと見ている。
呆気に取られたっていうふうに。
「いや……」
何か言いかけてやめて口を閉じたウォルターの目がさまよい出す。
右に、左に。
そしてその目を伏せて、赤くなった顔もうつむけて、もごもごと口の中で何事か呟いた後、思い切ったように顔を上げて、やたらキリッとしたいい顔で真っ直ぐに私を見て言った。
「フォリア、おまえ、意外とやわらか……」
「バカウォルターッ!!」
腕を引っぱたいてベチッと派手な音を立てさせる。
『やわらかい』と言おうとしていたらしいウォルターが、最後の『い』を『いっ』と悲鳴の高さに上げた。
……まったく、それで顔が赤かったんだ。
考えてみれば、私だって腕の感触とか感じてたんだから、抱えたほうのウォルターだって、その……私の胸とか腕に当たったわけだし。
でも、照れ隠しにしたって、真顔で言うことじゃないでしょ!?
いくら真面目な顔しても頬が赤かったし。
……こんのスケベが……。
感謝取り消し。
怒りで恥ずかしさがどこかへ吹っ飛んでいく。
「いってえなぁ……。俺は正直に言っただけだ!! 助けてやったってのに……何それ!?」
恨みがましい涙目で私をにらんで憤慨した様子で怒鳴るウォルター。
私はツンとそっぽを向いてフンと鼻を鳴らす。
やわらかかった、って……。
そりゃあ、女の子ですから、ある程度はやわらかいもんでしょうよ。
……い、『意外に』って……そう言われることが意外だし、心外だ。
ウォルターの中の私のイメージって……?
気に入らない。
「お、お礼は言ったでしょ!? ウォルターはね、デリカシーってものがないよ。女の子に対してどうしてそういうことを平気で言うの!?」
「いや、別に平気じゃねぇけど」
「じゃあどうして言うの!? その……やわらかかった、とかって……」
もじもじとして、またチラッと横目で見れば、ウォルターはもう赤くなった顔を元に戻して引き締めて、真剣な目できっぱりと言う。
「俺は言われてもいいぜ」
「……」
唖然。
えーっと……。
そう言われても……。
あなたのどこにやわらかい部分が?
えっ、いやいやいや、違う。
そうじゃないでしょ。
じゃなくて……。
振り向いてウォルターを見つめたまま凍りついてしまう。
だってその……自分が言われてもいいから相手もいいだろうなんて、男女平等に考えているのか、それとも私を女の子だと思っていないのか。
いやいや、赤くなっていたし、言う前にためらっていたし、きっとちゃんとわかってはいるのだと思うけど。
私の反応を、意味がわからなかったのだろうと捉えたらしいウォルターが、首を傾げて言葉を続ける。
「お返しに俺の体のこと、なんか言っていいぜ。かたいとか、重たいとか」
「……」
それって、別に言われてもなんでもないじゃん。
ウォルターが困った様子で頬をぽりぽりとかく。
言いにくそうに目はそらして。
「なぁ、フォリア。あのさ、一応言っとくけど、さっきのは……アレ、褒め言葉だぜ。けなしてんじゃねぇよ?」
「……いいよ、もう。ウォルター」
あー、ダメだ、その程度か……とちょっとがっかりする。
心のどこかで何かがぶくぶくと音を立てて水の底に沈んでいくよう。
しょんぼり。
まぁ、もちろん、仕事仲間なんだから、仲間の扱いでいいんだけど、もう少し私のことを女として見てくれてもいいんじゃないかって気がするけど。
いえ、そういうふうに見てくれてはいるのだろうけど、まったくこどもっぽいの。
女性は女性だけど、特別なひとりの女性とかそういうんじゃなくて、ただの異性。
がっくり。
力が抜ける……。
えっ、なんで?
なんで私、こんなにがっかりしてるんだろう……。
そこまで気にすることじゃないのに。
なんか嫌だな……。
+++++
氷が溶けて水になるように体から力が抜けて呆然と突っ立っている私に、怪訝そうな顔をして、ウォルターが前方を指差して言う。
「ってか、いいのか? フォリア。あれ……」
「……え? なに、ウォルタ……きゃっ」
びっくりしてお猿みたいな悲鳴を上げてしまった。
ウォルターの指差す方向を見て。
私の転びそうになった時に肩からすっぽ抜けて飛んでいってしまって床に落ちたバッグ。
そこから飛び出て、床に散乱する、バッグの中に入っていた物たち。
それを不審げな様子でジロジロと眺めながら横を通っていく人たち。
……ああ、もう……!
私は慌てて荷物に駆け寄る。
後ろからウォルターがついてくる。
構わず拾い集め始める。
……私、荷物が多いほうなんだ。
ハンカチ、ティッシュ、手帳、書類、筆記用具、本、薬、飲み物、お化粧道具……。
げげっ、化粧ポーチまで衝撃でか開いて中身が出ちゃってる!!
恥ずかしい……!
軽く死ねるような気持ちになった。
化粧ポーチの中身まで見られていまうなんて……。
何を使っているのとかバレバレで……。
みんなに見られて……。
本当に最悪だ。
両手で顔を覆い隠してしまいたい。
でも、そういうわけにいかない。
とにかく急いで集めないと。
私はバッグを手元に引き寄せる。
そして散らばる荷物に手をのばした。
すると、私が拾い上げようとする手よりも先に、誰かの手が下りてきて、それをひょいとつまみ上げた。
「お。何これ? なんに使うんだ?」
「……ッ、ウォルター!!」
私はがばっと顔を上げて横を見上げて叫ぶ。
手の主は、いつのまにか私の隣に来ていたウォルターだ。
拾い上げた丸い小瓶を手の中で転がして不思議そうな顔をして眺めている。
「それは香水……じゃなくて、返して!」
「はい」
あっさりと私の手にそれを手渡したウォルターは、私の横にしゃがみこんで、今度は別の物を床から拾い上げた。
「何これ、ぬいぐるみ? ガキくせぇな」
「わあああっ!」
プッとか笑われて、おおいに焦る。
「いいから!! 手伝わなくていいから!! やめて、見ないで~っ」
足にすがりついたのに、気にした様子もなく、ウォルターは私のバッグにポイとそれを入れて……あ、いつのまにかそばに棺を置いて来ている……また新たな物を拾い上げる。
「あー、コレ、髪の毛留めるヤツ? フォリア、こんなの使うんだ。意外と女らし……」
「あああああっ!!」
ウォルターの手からそれをひったくる。
……だから、さっきから『意外と』ってなんなの。
っていうか、低い声でクックッと笑いをもらし続けているのも気になるし、興奮だか好奇心だかで目をこどもみたいにキラキラさせて、なんだかすごく楽しそうで……。
こどもみたいというより、獲物を見つけた野生の動物のような目のきらめき……。
そう、この機会を逃すまいというような、ものすごい熱心さ。
……どうして、そんなに手を出したがるの?
ただ親切心で拾うのを手伝うだけなら、いちいちじっくり見て感想を言うこともないのに。
私の荷物なんて見たって仕方がないだろうに。
興味ないでしょうに。
また、いったい、なんで?
「へーえ、お菓子もこんな可愛いのに入ってるのか……。さすが女の子だな」
飴玉の袋を眺めて顔をくしゃくしゃにして笑う。
そしてポイとそれを私のバッグに放り込むと、鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌な様子で、また新たな物に手をのばす。
あっ、それは日記……!
っていうか、メモみたいなものなんだけど。
それでも中身を音読でもされたらたまらない。
私は急いでウォルターより先に床のノートを拾い上げた。
それを胸に抱いて、しっかりとガードし、真っ赤になってウォルターに向けて怒鳴った。
「ちょっと、ウォルター! やめてって言ってるでしょ!? いい加減にして!! 手伝ってくれなくっていいってば! っていうか、いちいち見ないでよ……」
一瞬ぽかんとしたウォルターが、戸惑ったようにそのまま目をパチパチし、それからサッとその目をふせて、顔も少しうつむけて、申し訳なさそうにしながら、それでも口をとがらせて言った。
「だって、女の子のカバンの中身見られる機会なんてそうねぇからさ。いいじゃん、別に。減るもんじゃなし。見られて困るってもんでもねぇだろ」
『どんなの持ってるか知りたいんだもん』とすねた口調で言う。
それでなのね、納得。
じゃ、なくて。
……あああああ、もうっ……!
私は頭を抱えてうめきたくなった。
「ウォルター!! 私は恥ずかしいの!! 見られたくないんだってば!!」
確かに減らないし、どうして見られたくらいで困るのかって言われると困るんだけど。
とにかく恥ずかしいの。
嫌なの。
まったくっ、わからないのかな、もうっ。
……これで平気な顔して『俺の棺の中も見ていいぜ』とか言われたらどうしよう……。
はっきり言って、見たくない。
何が入ってるのかは知ってるし……。
パッと顔を上げたウォルターは、予想に反して、少し顔を赤らめてぼそりと言った。
「……下着とか?」
「えっ!?」
いや、持ち歩いてません。
「ううん、違うの!! そうじゃなくてっ……。ち、違うけど、見られるのはとても恥ずかし……」
「あ、コレ、なんだ? アクセサリー? ずいぶん大きな飾り……」
「ウォルター!!」
人が話している途中だっていうのに聞きもせずにまた新しいものを拾い上げる。
おかげで残り少なくなっていたけれど。
ウォルターが興味を持って次から次に拾ってくれるおかげで。
でも、次に拾い上げたものは、よりにもよって、一番見られたくないものだった。
つけるのも恥ずかしいから外してバッグに入れてあったのに。
銀色のペンダント。
それもただのペンダントじゃない。
中に写真を入れられるタイプの、いわゆる『ロケットペンダント』。
ペンダントトップの表面つやつやの銀のかたまりの大きさと何も模様のないことからウォルターもすぐに気付いたらしい。
ハッとした顔をして、次にニヤリという悪童のような笑みを浮かべ、ちょっと意地悪な目つきで私を見た。
「写真? フォリア。さーて、誰の……」
バッと私はその手からペンダントを奪った。
「これは、ダメです!!」
「え、いいじゃん、別に……」
「見せられないの!!」
きょとんとしているウォルターをにらみつける。
ウォルターがちょっとしょんぼりとした。
つまらなさそうに、残念そうに。
その顔に胸が痛む。
ちょっときつく言い過ぎたかな……?
うっ……でも、ダメなものはダメ。
私は抱えていた日記とともにそのペンダントをバッグに入れた。
そして残っていた物もバッグにおさめて毅然として立ち上がる。
ダメなものはダメ。
座ったままのウォルターが未練がましい目で私を見上げる。
「なあ、フォリアー……」
「なに? ウォルター」
ウォルターはあごに手を当てて黙って口を閉じる。
問いかけたくせに、しばらく黙ってじっと考えこんで、それからゆっくり立ち上がって、どうしても抑えきれない好奇心といったふうで、私をまじまじと見つめて言う。
「……その中に入れてんの、誰の写真かだけ、訊いてもいい?」
自身、そんな写真の相手に心当たりがあるのか、後ろめたそうに言う。
……そう、普通、とても大事な相手の写真だから。
ペンダントに写真を入れて持ち歩くなんて、大切な相手に決まってる。
父親……母親……兄弟……伴侶……恋人とか。
だから、訊いちゃってもいいのかって感じで、ウォルターは遠慮がちだったんだろう。
私の沈黙に、ウォルターは慌てた様子で、『あ、無理にとは言わねぇけど!』と両手をぶんぶん横に振りながら言う。
……別に、無理、じゃないんだけど。
私はちょっとした悪戯心が芽生えて、妙にすっきりとした気持ちになって、おかしくなってクスッと笑った。
よーし、ちょっとからかってやろう。
ウォルターに向かって秘密めいためくばせをして、小さな声でぽそっと言う。
「……目の前の、赤い髪した誰かさんの、写真だよ?」
「……えっ」
びくっとして目を見開いて固まったウォルターの顔がみるみると赤くなっていく。
「……あー……」
真っ赤になてうつむいてぽりぽりと指で頬をかく。
「えーっと……」
ふせたその目を床にさまよわせている。
「その……」
ええっ!
何その反応!?
……やだ、こっちまで顔が熱く……。
「そっ、そういうことで! 拾うの手伝ってくれてありがと!! さよなら!!」
「お、おお……」
私は急いで背中を向けてその場から逃げ出した。
……もうもうっ、何あれ、なんなの!?
あんな反応されちゃ……。
ちょっと嬉しそうにされちゃったら……。
もう、通路に転がって足をバタバタさせたい。
どうしよう!
どうしたらいいの?
あんな可愛いところ見ちゃったら……。
もう、どうしよう……。
全身が熱いのは恥ずかしいからだけだよね。
きっと……。
ああ、言えなくなっちゃったな。
……本当は、実家の猫の写真です、なんて。
(おしまい)