ウォルター夢(フォリア)
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この章の夢小説設定設定:仲間。
主人公は図書館で働く女性。
内容:ウォルター夢。
名前を変換しない場合『フォリア』になります。
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ちょうどこれから仕事のために出て行く2番目の執行人とばったり会った。
「……」
それを悟って黙ってしまった私に、彼はニッと人懐っこい明るい笑みを見せて言った。
「よぉ、フォリア。飯でも食いに行ってた?」
私は首を振ってなんとなく抱えていた紙袋を隠すように両手で押さえた。
「……ううん、ウォルター。ちょっと頼まれ事で……」
実は、頼まれた物はみんなの分の軽い食事……私の分も含めて……だったので、気まずい。
だってこれからウォルターは仕事なんだ。
……って、もちろん私たちもそうなんだけれど。
これはちょっとした休憩ってもので。
食べ終わったらすぐにまた仕事なんだけれど。
……でも、お気楽に見えるかな、と思って。
ウォルターはこれから過酷な任務に出るのに、命さえ危ないような仕事に行くのに、私たちはおいしい食事をみんなで楽しく食べるだなんて。
おろおろしている私に、すべてを見通したようにフッと笑って、ウォルターは言う。
「そういや、この辺にすげぇおいしいフォカッチャ売る店が出来たんだって? 俺、食べてみたいんだけど、どこにあるか知ってる? フォリア」
「えっ? あ、えーと、あそこかな……。わかると思うよ、ウォルター。あの、案内するね、今度……」
言いかけて『うっ』と詰まる。
『今度』。
……今度っていつ?
ちゃんと来るの? その時は。
ねえ、ちゃんと帰ってきてくれる?
嫌よ、そんな約束して、もし帰ってこなかったら……。
私は黙ってウォルターの顔を見上げる。
すると、ウォルターがくしゃっと顔を歪めて苦笑して……少し悲しそうに……それでも力強く言った。
ぽんっと私の頭に手を置いて。
「んな顔すんなって。絶対に無事に帰ってくるぜ。今回の仕事は楽だし。大丈夫」
「……」
何も言えなくて、ただ見つめていると、ぽんぽんと頭に乗った手が何度も軽く私の頭の上をはねる。
「しっかりしろって!」
……ああ、それは私のセリフ……。
『じゃあな』と言って去っていく後ろ姿を見送る。
できればいつまでも見ていたい背中。
でもそれはすぐに見えなくなってしまう。
ウォルターたち執行人は危険に身を置いて。
市民のために。
「……」
私は紙袋を抱えたまま動けなかった。
「フォリア……まだ慣れないのかい?」
ふと後ろから声がかかる。
振り向いて、そこに立っていた人物に、私は仰天した。
「……カルロさん!!」
え? ええ? なんでこんなところに。
カルロさんは何も気にした様子はなく、どうやらコーヒーの入っているらしいカップを手に微笑んでいる。
ウォルターの出て行った方を見つめて。
そのこどものように無邪気そうなキレイに澄んだ目を私の方に移した。
「まだ彼らを見送るのは慣れない?」
さっきの質問を丁寧に言い直した。
私は訊かれたことに答えていなかったことに気付いて慌てた。
「あっ、そうですね……。どうしても、その……心配というか……ちゃんと帰ってきてくれるかなって、思って、ちょっと……」
語尾が小さくなっていく。
……こんなこと言ってしまっていいのだろうか。
カルロさんはにこりとやさしく笑んだ。
「そうか」
でも、それしか言わなかった。
少し眉をひそめてコーヒーをすする。
私はなんとなくそれを眺めた。
何か言いたいことがあるような気がして。
少ししてから、カルロさんがゆっくりと、静かに口を開いた。
「フォリア、このコーヒー、2番目が淹れてくれたんだ」
2番目……ああ、ウォルターが。
カルロさんの目が今ウォルターが出て行ったばかりの扉の方を見る。
「ついでなんだけどね。彼のことだから、塩でも入ってるんじゃないかと思ったが……」
微かな苦笑を口元に浮かべる。
私は戸惑ってもごもごと言った。
「え……塩……ですか? あ、なんで……? あ、いえ、いくらなんでもそれは……えっと……」
言っている途中でウォルターの性格を思い出し、今度はフォローをしようとあたふたした。
まさか、裁判官相手に、コーヒーに塩を入れて渡すいたずらをするとは考えにくい。
横でハッハッハとカルロさんが朗らかに笑っている。
「いやいや、徹夜でまた仕事に出すわけだから、『カルロの鬼ーっ!!』って涙ぐんでいたし、それくらいはされるかな、と。されなかったわけだけど」
その明るさに私はふと疑問を持つ。
「……心配じゃないんですか?」
訪ねてから『しまった』と思う。
訊いていい質問じゃなかった。
たとえ心配していたとしても、これは仕事なのだから、彼の役目なのだから。
「あの……」
謝ろうと思った。
心無いことを言ってごめんなさい、と。
それより早くカルロさんが口を開いた。
「なぁ、フォリア」
なんだかおだやかな優しい目をして私を見ている。
それは、晴れた日に野原に咲いた小さな花を見守るような、温かでまぶしげなまなざしで。
私はなんだかとても恥ずかしくなってうつむいた。
耳に落ち着いた低い声が届く。
「『心配』より『信頼』かな。これが難しいんだけどね……。彼らが安心して帰って来られる場所でなくちゃいけないから、ここで待っている私たちが揺らいでいたら、彼らが困るだろう? 相手を強いと思い続けていられるほど、こちらも強くなければね。そうだろう、フォリア?」
そう言い切ってニッコリと笑う。
よくわからずにぽかんとしていたら、カルロさんは笑みを濃くして、かわりに口調を軽くして言った。
「たとえば私がみんなのことを心配して始終メソメソ泣いていたら」
「……ぷ」
くすくすくすっ……。
それは可笑しい。
カルロさんがメソメソしてるなんて。
「それじゃ仕事になりませんね、カルロさん」
「だろう? 私は腹黒いと言われるくらいでちょうどいいんだよ。鬼で結構」
肩をすくめて言い放ち、それからわざとらしいキリッとした顔つきを作り、怖いように声を低めて言う。
「さ、早く戻りなさい。午後も忙しいんだ。せっせと働く!」
「はい」
ビシッとして真面目な顔をしてうなずく。
……私も、強くいなくちゃ。
ここにいるからには仲間だもの。
しっかりしなくちゃ。
私は『うん、よし!』と拳を握る。
ふと気づくと、またカルロさんがまぶしそうに目を細めて私を見ている。
そして、そっと肩に手を置いた。
それは親しげな感じで。
「……それに、こんなところにずっと立っていたら、風邪を引くからね、フォリア」
あ……。
促すように少し肩を引くようにして、すぐにその手は離れ、カルロさんは去っていった。
まるで家族のように温かい手と言葉だった。
温かい微笑みだった。
「……だから、君は泣いてもいいんだよ」
私が強くいるから、君たちは本当に辛い時には、泣きなさい。
微かに聞こえた声。
野原を吹き抜ける風が草花を揺らして作ったささやきのようなそれは、静かに切なく私の耳を通り抜けていった。
悠然と歩み去っていく広い背中。
ハッとしている私を取り残して。
心にその言葉を種のように落として。
(おしまい)