ウォルター夢(依理愛)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ(ウォルター高校生)。
主人公は普通の学生の女の子。
内容:ウォルター夢。
カレカノの間柄。甘々。乙女心たっぷり。
名前を変換しない場合『依理愛(いりあ)』になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は何度目かのため息を吐いた。
食べている最中のフォカッチャがあまりにもおいしいからじゃない。
学校帰り、カレシと待ち合わせての、ファーストフード店での軽い食事。
店内は制服姿の学生ばっかりで、同じ学校の生徒の姿もちらほらと見かける。
大声ではしゃいでいるたいていのテーブルに比べて、私たちの席はちょっと暗い。
原因は……私なんだけど……彼氏様のほうにも問題があるかもしれない。
それはまぁ、私からしてみれば、絶対に彼のほうなんだけど。
逆からだと絶対に私のほうなんだろうなぁ。
ホント、フォカッチャだって、味がわかんなくなりそう。
私はもう一回ため息を吐いて持っていたフォカッチャを下ろした。
「ねぇ、ウォルター……。機嫌直してよ。うれしくないわけじゃないんだってば。ただね? 私はバレンタインデーらしいバレンタインデーを過ごしたいっていうか……」
彼氏様……ウォルター……は、向かい側で『ずー、ずー』とまるで私の話が聞こえていないみたいに空になったカップのストローを未練ありげに吸っていて。
赤い前髪の間から覗く下にくまのある眠そうな目はジトッと空中に向けられていて。
そっぽを向いて不機嫌に壁をにらんでて。
私は小さくなってもじもじとした。
ああもう……。
ウォルターは自分の意見を通そうとかたくなになっていて、私の願いなんて聞いてくれそうにない。
……ケンカするようなことじゃないのに……。
互いに互いを思っていてどうしてこうなるのかな。
でも……。
ウォルターの提案はとうてい受け入れられるものじゃなくて。
「いいじゃん、チョコはあげるんだしー……」
小さな声で言うと、ウォルターがこっちに向き直り、カップをダンッとテーブルに叩きつけて、私のほうに身を乗り出して、にらみつけて言った。
「だからっ! 俺も同じなんだって!! バレンタインデーだろ!? だから依理愛にプレゼントしたいんだって!! 何がいけないんだよ!?」
私は慌てて人差し指を口に持っていった。
「しーっ……!」
「……」
またプイッと横を向くウォルター。
……完全にすねてしまっている。
私に断られたことで完全に頭に来てしまっているらしい。
「だから『いけない』とかじゃなくてー……」
……ああ、もう、ホント……。
疲れる。
私は思わず苦笑してしまった。
だって。
「そうじゃなくて、ウォルターのその気持ちもうれしいし、プレゼントもらえるのだってうれしいよ。でもさ、バレンタインデーはこっちでは女の子が男の子にチョコレートあげる日っていうか……。ううん、義理チョコとか、あと友チョコとか、自分チョコだってあるけど。でもせっかくカレシがいるんだから、あげるほうの気持ちを味わいたいっていうか。プレゼントはホワイトデーでいいから」
そうなんだ。
ウォルターはバレンタインにプレゼントをくれるっていう。
しかも一日付き合って……買い物デートして……一緒に選んで欲しいものをなんでも買ってくれるって。
そんな……そんなのって全然バレンタインデーじゃないっ!!
私はフツーの恋人同士らしいことがしたいのっ!
た、誕生日ならすごくうれしい……けどさ。
我ながらぜいたくな話だとは思うけど。
怒る要素なんかないじゃん、って。
だから困ってるんだけど。
去年だってウォルターは私にバラの花束をプレゼントしてくれた。
それだってとってもうれしかった。
だけど……。
今年は私からだけの贈り物がしたい。
そういうのがなんていうか……当たり前っぽくていいなぁって。
プレゼントをもらってあげてじゃ特別じゃないような気がして。
私があげたことがチャラになっちゃうみたいで。
私は『あげた』って思いたいの。
『お返しした』じゃなくてね。
そこのところをウォルターはなかなかわかってくれない。
「うーん……」
私は困惑顔でウォルターを見上げる。
腕組みをしてふんぞり返っているウォルターは絶対に引かないぞって感じで。
なんだか泣きたくなってくる。
バレンタインデー前のケンカなんてなんだかね……。
本当なら愛が深まる(?)はずのイベントでこれじゃね……。
私たちって合わないのかなぁ……って思っちゃう。
「えっ、おい、依理愛!?」
しょんぼりしてると慌てた様子のウォルターの声が聞こえる。
顔を上げるとこっちに向けててをのばしているウォルター。
その手は私の顔に近付いていて。
私はぎょっとして身を引いた。
えっ、ええ、なに突然!?
でも同じくらいウォルターもびっくしたように目を見開いていて。
「おまっ、なに泣いてんの!?」
……は?
また驚いて自分の目元を手で撫でる。
涙……出てない。
「泣いてないけど……?」
あたふたとしてウォルターが空に手をさまよわせ焦った様子で早口で言う。
「いや、泣いてんじゃん!! 涙出てないけど!! でもなんか泣きそうだ……ってか、泣いてるよ、おまえ!!」
そのまま土下座でもしかねない勢いで謝り出す。
「悪かった!! そんなんじゃなくてさ……喜ばせたくて。だから……どうしても欲しいものをあげたいって思って……。だから別に依理愛を困らせるつもりとかなかったんだよ!!」
大声に周囲がびっくりしてこっちを見ている。
私は恥ずかしさに真っ赤になる。
私が叱られたように身を縮めると、ウォルターもそれに気付いたのか、私のほうに身を乗り出して声をひそめて言った。
その声に、あきらかに心配げな、気遣うような調子がある。
「怒ってるとかじゃねぇんだよ……。ただ、依理愛はいつも遠慮ばっかりだからさ……。また俺が金がないんじゃないかとか余計な心配してるんじゃないかって、思ったらなんか、頼りない男に見られてるような気持ちになっちまってさ。このために仕事して金も貯めておいたしさ、もっと素直に喜んでくれたらって思って……あ、いや、あの……」
結局私を責めるようなことになってしまったせいか、途中で口を閉じて、気まずそうに目をそらしてしまう。
「あ……そうなんだ」
気が抜けてしまった。
呆然とする。
その間に不安になったのか、ウォルターが私のほうをうかがいながら、おそるおそる訊ねてくる。
「あの……依理愛? 大丈夫か……? ってか、ごめんな……」
小さな声。
不安そうな声。
悲しげでさえあって。
私はプッとふき出した。
「なぁーんだ。そういうこと。そうだったんだ。ウォルターは私が遠慮してると思ったんだ。なんだ……」
そんなことだったんだ。
ウォルターが私の言葉にムッとして口をきゅっと結んでからとがった声で言う。
「なんだよ、『なんだ』って、なんでもないみたいに」
「ううん、私はね、遠慮とかじゃなくて……。私がそうしたいんだよ。私がウォルターにプレゼントしたいの。特別な日だから。チョコレートあげても、何かもらったら、ただのお返しになっちゃうでしょ? それが嫌で……。あ、でも、去年の花束はうれしかったよ! ホントだよ!? だけど今年はえっと……私があげるプレゼントをただ受け取ってほしいの」
ウォルターは黙って聞いていた。
それからまた腕組みをして『ううーん……』とうなり出す。
しばらくしてそれが止むと、一転して明るい顔になって私を見た。
「ああ! わかった! いいぜ、それで。俺のプレゼントはほら……ホワイトデーだっけ? それでいいんだろ? 依理愛」
「うん!」
ニカッと笑いかけられて、私もにっこりと微笑み返す。
ウォルターのこの笑顔好きだなぁ……。
こうして結局笑いあえるならそれでいいやって気になる。
私は安堵してフォカッチャを持ち上げた。
口元に持っていく前にもう一度にっこり。
「私からは大したことないけど……楽しみにしてるからね、ホワイトデー! すっごい高いの買ってもらおっと!」
ウォルターが派手に苦笑した。
「おいおい……。大したことないのかよ! そこはこっちも楽しみにしてるから」
そう言われると……。
「えーっ、ただのチョコだよぉ? 3倍返し期待してるだけだもん。あ、でも、じゃあ、私がウォルターの一日をもらうの希望とかは?」
ウォルターが不意に真面目な顔つきになった。
「一泊?」
「え?」
「……いや、だから、朝まで? って」
ニンマリして言うウォルター。
それはあきらかに私をからかっていて。
私は冗談とわかってても腹が立ってテーブルを叩いた。
「ウォルターッ!!」
+++++
バレンタイン翌日。
当日はチョコレート……一応有名店のそれなりに高いもの……をあげた。
その中に、『一日デート券』を入れて。
渡すだけで別れた後、ウォルターはすぐにケータイで、その件の翌日の使用を求めてきた。
私はもちろんそのつもりだったから、速攻で『はい』の返事を送った。
そして今日がその日。
一通り買い物やカラオケやゲーセンで遊んだ後。
(もちろんファミレスでお昼も食べたけど)
ウォルターは私を連れて教会へ行った。
中に入って、礼拝堂でお祈りでもするのかと思ったら、神父さんらしき人と話した後、私を庭のようなところへ案内した。
どういうことだろう……?
何もわからず、握った手に引かれるままに、ただついていく。
他に人がいないそこで、ウォルターは私に向かって言った。
「依理愛、なんでもいいから、花を集めてきてくれるか?」
「花……?」
「なんの花でもいい。神父さんに許可はもらってあるから。勝手に取っていいってさ」
明るくそう言い切るものだから、私はなんとなく押されて、うなずいた。
「うん……」
「じゃ、依理愛は向こう! 俺はあっち。摘んだら教会の礼拝堂の中で」
「……わかった」
ウォルターはそう言って離れていく。
花……って、誰かにあげるのかな。
お墓に供えるとかかな。
今日はバレンタインデー……っていうか翌日だけど……のプレゼントの日なのに。
私に花を集めてこいってどういうことだろう?
お墓参りでもしたかったのかな。
首を傾げながら、花を探して回る。
でも2月のこんな寒い時じゃまだ花なんて……。
どの木を見ても花が咲いてないどころか葉っぱもない木ばっかり。
足元にだって……。
途方に暮れて周囲を眺めた時、ふとプランターの花が目に入った。
あ、これ……。
私は急いで建物のほうに駆け戻って、神父さんを捜して、許可をもらった。
理由もわからないから、説明も大変。
緊張もしたけど、神父さんはやさしく笑って、摘んでいいと言ってくれた。
もうっ、ウォルターめ、こんなことさせて~っ。
ちゃんとした理由がなきゃ許さない。
「摘んできた?」
教会の中で待っていたウォルターと、急いで摘んで駆け戻った私と、向かい合う。
「……」
私はちょっと怒っていて返事もなし。
だって、今日はバレンタインデーで、……私はあげる側だけど……、まったく関係ない人に花をあげるの?
せっかく私が一日付き合うって言ってるのに。
それじゃ嫌なの?
ああ……ウォルターといると、たまにすっごく嫌な気持ちになる。
醜い感情、可愛くない私、嫌なコ。
「依理愛」
わかっていたようにクックッと小さく笑って、ウォルターが私のほうに手をのばす。
「その花ちょうだい」
私は黙ってウォルターにその花を手渡した。
プランターから摘んできた、真っ赤なチューリップ、それを一輪だけ。
申し訳なくていっぱいは摘めなかった。
すると、私の手から神聖な口付けでもするようにうやうやしくウォルターが花を受け取り、かわりに後ろに隠していたもう片方の手に握られた花束を差し出してきた。
白いマーガレットと色とりどりのパンジーの花束。
ハッとしてウォルターを見つめると、ウォルターはこくっとうなずきかけてくる。
「依理愛……俺からだ。受け取って」
おずおずと花束を受け取る。
「ウォルター……これは?」
私の驚きっぷりにいたずらに成功したこどものように笑って、ウォルターは説明する。
「昔はこうやって、恋人同士が教会で摘んだ花を交換したんだってさ。それを知って、俺も依理愛と……と思ったわけ。それより、花束の茎のところ、見てみろよ」
そういえば……。
目を花束の下のほうに向けると、ゴムで止められていると思っていたそこに、キラリと光る物があった。
「え? これ……」
確かめてから、バッと顔を上げて、ウォルターを見る。
ウォルターはますます大きな笑みを浮かべて私を見ていた。
スッ……と手をのばして花束からそれを抜く。
私は花束がバラバラにならないよう束をギュッと握った。
片手で。
何故なら、もう片方の手は、ウォルターに取られて……。
「受け取ってくれ」
低い声が私の耳に届く。
私の指にスッと指輪がはまる。
赤い前髪の間から覗く黄色っぽい目が甘く輝いて。
「『真実の愛』ごとこの指輪をおまえに」
「……」
唖然としていた私はこらえきれずにふき出した。
ムッとすることもなく、わざと気障に振る舞っていたらしいウォルターが、やんちゃな笑みでニッとして曲げていた腰を戻す。
ふたりの間に柔らかい空気。
私はこどもだからまだわからないけど、これが『愛』……っていうのかもしれないな。
ウォルターは、『あーあ』というように背伸びをして、あくびをして。
「さぁーて、用は済んだし、帰るか、依理愛!」
そそくさと扉に向けて歩き出す。
片手に赤いチューリップを持って。
私にはそれが照れ隠しだとわかった。
花束を抱えて、指に輝く細い銀の指輪をして、私は駆けていって彼の隣に並ぶ。
そして横からウォルターを覗きこむようにして言った。
「これまさか給料の三か月分とかじゃないよね~っ!?」
「バッ……違っ! その時はもっと豪華だ! 今日のそれは……先約アリってことで!!」
真っ赤な顔で『ちゃんとしとけよ』って言う。
私はくすくすと笑う。
顔がニヤついてしょうがない。
「うん、わかってるよ。ところで『真実の愛』っていうのは?」
「白いマーガレットの花言葉……」
「ふーん、ウォルターって、意外と乙女チック?」
「依理愛! おいこら!! からかうなよ!!」
「だってー」
だってぇ……。
私だって真っ赤なんだもん。
ああ、もう……ドキドキしちゃうじゃん!!
(おしまい)
あとがき:持たせる花を間違えていたのを直しました。
すみませんでした。
ちなみにパンジーの花言葉は『もの思い』ですが、そこに意味はなく、指輪で止められるほどの花束ということで量的に・・・。
マーガレットもチューリップもまだですが花屋さんでは鉢植えが手に入ります。
昔のイタリアでこういうこと(花束の交換)があったらしいです。