ウォルター夢(依理愛)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ(ウォルター高校生)。
主人公は普通の学生の女の子。
内容:ウォルター夢。
カレカノの間柄。甘々。乙女心たっぷり。
名前を変換しない場合『依理愛(いりあ)』になります。
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桜の匂いのボディミルクはもうやめた。
春の間はずっと使ってたんだけど……。
やっぱり季節に合った匂いのほうがいい。
それからはミルクの匂いのするものを使っていた。
……だけど、今日からはそれまでと違い、薔薇の匂い。
なんか自分がちょっとだけおとなになったみたいな気持ちがする。
お風呂上りにルームウェアを着ながら漂う薔薇の香りにうっとりしてしまう。
この匂いならウォルターも喜んでくれるかなーとか、ちょっとえっちなことを考えながら。
香水とはまた別なの。
お風呂上りにこの匂いがしたらどう思うかなぁ。
『いいな』とか、『おとなっぽいな』とか、……『色っぽいな』とか思ってくれたりして。
わあああ……。
想像するだけで顔が熱くなってしまう。
胸のドキドキがヤバい。
ミルクの匂いの時には特に何も言ってくれなかった。
桜の匂いの時は気付かれるようなことをしなかったから、それはいいの。
でも。
……シャワーを浴びた後にも会う今は少しは反応がほしいなーなんて……。
『おっ、いい匂いするじゃん、依理愛』なんて脳内でウォルターが笑って言う。
……うわぁ、想像するだけでなんか照れるっていうか、恥ずかしい。
こんなこと想像して真っ赤になって頬を押さえてひとりでもじもじしているなんて……。
あー恥ずかしい。
いや、寒いやつだなーとか、痛いやつだなーとか、自分でも思うけど!
だってわくわくするんだもん。
もし気付いてくれて、気に入ってくれて、褒めてくれたらって……。
やっぱちょっとは思っちゃうよ。
だって大好きな人なんだもん。
少しくらいこんなこと考えてもいいよね。
鼻歌を歌いたいほど上機嫌で部屋に向かった。
今日のデートも楽しかったし。
動物園の触れ合いコーナーのウサギやモルモット可愛かった。
他の動物もたくさん見られて。
……ああ、でも、昆虫館でのウォルターの行動は。
人が嫌がってるっていうのにゴキブリを『見ろよ』なんて喜んで言ってきたり、わざと嫌な虫の説明文を読んだり、芋虫のついた葉っぱを持って近付いてきたり……。
あれには本気で腹が立って腹が立って……どうしてくれようかと思ったけど。
イタズラ大好きなんだからなぁ。
こどもみたいでまったくしょうがないよね。
まぁ、そういうところも好きだから、仕方ない。
ニマニマして部屋に入って、すぐに机のところに行って、置きっ放しのケータイを手に取った。
当然来ている彼氏様からのメール。
髪の毛をタオルでふきながらそれを確認する。
「……ん?」
内容を見て、わたしは自然と首を傾げ、眉をひそめる。
『依理愛、大丈夫か? 無事に家に着いたかよ? 何もなかった?』
こんな感じで延々と……。
「んんー……?」
……あ、なんだろう、腹立つな。
ウォルターとは駅で別れた。
まだお日様の出ている時間だったのと、今日は家に家族がいるからカレシがいることを知られたくなくて、彼氏様が『家まで送る』って言うのを断ったんだけど。
その時にもさんざん『気をつけろよ』って言われて。
こうして帰っても、また……。
『迷子にならなかったか?』とか『変なやつに声かけられたりしなかったか?』とかって。
……うーん。
髪をふく手は止まり、困惑に口元を笑みの形に強張らせて、じっと画面を見る。
これは……ちょっとね……。
わたしはケータイの電源を切ってパチンと閉じてベッドのほうに乱暴に放り投げた。
ボスンと布団に埋もれるケータイ。
そのケータイに向かって腰に手を当ててぷんぷんとして言った。
「私はこどもじゃないのっ!」
ウォルターのバカッ!!
恋人同士がデートした後のメールだよ?
普通なら『楽しかったね』とか『離れて淋しいね』とか『今度いつ会える?』とか。
そうでしょ!?
いつものことなんだけど、本当いつものことなんだけど、だからムカつくっ!
私は駅から自宅にひとりで帰れないほどこどもじゃありませんっ。
っていうか、いくつだと思ってんの!?
本当に恋人だと思ってくれてる!?
ひどいよ……。
悔しくってバタバタと手を振り回す。
肩にかけていたタオルが落ちる。
もうっ……
サイッアク!!
イライラしながら髪の毛をドライヤーで乾かしにドレッサーの前に行く。
ケータイのほうを見向きもせずに。
……返信?
しない。してやるもんか。もう知らない。
勝手に心配でもしてればいいんだよ。
朝。
枕元からケータイを取り上げる。
友達からメールでも来てるかなとケータイの電源を入れてみた。
……本当は昨日のことがちょっと気になってたりして、それもあって。
すると……。
「えっ?」
何このメールの数……。
ちょっと異常だよ。
全部ウォルターだ。
「あああ……」
私はがっくりとして枕に突っ伏した。
だらんとケータイを持つ手をのばして。
後悔しきり。
しまった、放置するんじゃなかった~っ。
そうだよね、心配するよね、それはわかるんだけど。
でもさ。
チラと横目でケータイを見る。
……悪いことしたなぁと思うけど、でも、これはちょっとどうなの。
困るじゃん。
それも考えられないほど必死だったのかなぁ。
テーブルについて朝食を取っていたら、母の言葉にさらに驚かされた。
「依理愛ちゃん、昨日、男の子が家に来たけど」
「え、誰?」
「……わからないな。名乗らなかったわ。『依理愛、いますか』って言うから、『いるよ』って言ったら、『そうですか』って安心したように言って帰ってっちゃった。私は『呼ぼうか』って言ったんだけどね。『いい』って」
ぽろりと箸からソーセージが落ちる。
その内容だけで誰かわかる。
……へ。
変質者レベル!?
いやいやいや。
心配だったんだよね、そうだよね!?
母が怪訝そうに眉をひそめてジロジロと私を見て訊ねる。
「ねぇ、誰だったの? 依理愛ちゃん、わかる?」
「さぁ……」
「赤い髪してたけど」
あうう。
間違いない。
ウォルターってば私が無事に家に帰れたか返信ないから心配で来ちゃったんだ。
「さぁ……」
「そう……嫌な感じはしなかったけどねぇ。依理愛ちゃんがいるって聞いて、本当にホッとしたみたいだったし。そういえば昨日昼間一緒に出かけてたお友達って……」
「ご、ごちそうさま!」
私は箸を置いてガタンと席を立った。
部屋の中。
わたしはウォルターからのメールを読む。
最初は『どうした?』とか『何かったのか?』とか『返信しろよ』だけど……。
最後のメールは『依理愛、会いたい』だ。
会いたい……。
迷った末に私は『学校が終わったらウォルターの家に行くから』と送った。
+++++
ピンポンに応えて開いた扉から覗いた顔を見て私は『うっ』と短く声を上げた。
ウォルターってば、目の下の隈がいつもよりひどい。
ううん、それだけじゃなく、目も赤い。
しかもなんかやつれている。
昨日会った時とは別人みたいに憔悴している。
……一睡もしてないんじゃないだろうか。
「あの……」
もしかして私のせい?
私を見下ろす目が冷たい。
だけど光がないっていうか、死んだ魚みたいな目で。
その底に押さえた感情がどろどろとよどんでいて。
うわぁ……。
こ、怖いなぁ、なんか。
たじろぐ私に体を壁に寄せてウォルターが『上がれよ』と言った。
そしてふいとそっぽを向いて本人は奥に行ってしまう。
……ええい、仕方がない!
まさかここで『機嫌が悪そうだから帰るね』ってわけにいかないし!
上がるしかないか。
私は部屋に上がって扉を閉めた。
ウォルターってば、なんかいつもの数倍動きがのろくて怠そうに見えるけど、その実なんか腹には溜めていて、すっごく怒っていそうなんだけど……。
殺気みたいなものすら感じられるような空気で。
後についていくと、相変わらず生気のない目でぼんやりと辺りを見つめる。
「そのへん適当に座れよ」
余裕がないみたいで、いつもよりずっと冷たい。
いつもなら何か下に敷くものとか気にしてくれるのに。
私はテーブルの前の空いたスペースに座った。
「あの、ウォルター……」
おずおずと声をかけると、冷蔵庫にジュースを取りに行くウォルターは返事もせず、振り向きもしない。
「えっと、あのねっ、昨日はね……」
「依理愛、オレンジジュースでいい?」
「……あ、うん」
無表情でジュースのパックとコップを持ってウォルターが戻ってきた。
「……」
向かいに座ってふたり分のコップにウォルターは黙ってジュースを注ぐ。
それは私を拒絶するような無言で。
静かな怒りで。
「ごっ、ごめんなさい!」
私はぎゅっとスカートの裾をつかんでバッと頭を下げた。
ウォルターは心配してくれてたのに、私、こども扱いされたなんて怒って……。
心配されてるのわかっているのにメールを返さないとか。
本当にこどもだったんだ、私。
こんな自分のことしか考えてなくて。
ウォルターの気持ち踏みにじっちゃって。
小さくなってウォルターの怒りを待つ。
……どうしよう。
嫌われてしまったかもしれない。
「……」
視線を感じる。
私の頭を見つめるウォルターの強い視線。
何も言わない。
……もう何も言いたくないほど?
そんなに怒っちゃってるの?
今どんな顔して……?
おそるおそる顔を上げてみると、ウォルターはなんだかぽかんとしている。
「え、いや、あのさ……」
私と目が合うと、びっくりした様子で、目を真ん丸くしている。
「『ごめん』? なんでおまえが謝んの? あー……メールのことか? っていうか……だって、あれは」
ぼそぼそと言って、口を閉じると、わずかに顔を赤らめて、ぽりぽりと鼻を掻いて、今度は気まずそうに目を逸らして言った。
「え、依理愛、おまえ怒ってたんじゃねぇの? それで返信してくんなかったんだろ? なんか気に障ったんじゃねぇの? 昆虫館での嫌がらせのこととか」
「えっ?」
ええええ……。
そりゃ、まあ、昆虫館でのことは怒ったけど。
あれはもう済んだ話で……。
っていうか。
私は大慌てでぶんぶんと両手を前に出してぶんぶんと横に振って見せた。
「違うよぅ! 怒ってるのはウォルターのほうでしょ? 心配してメールくれたのに、私、返信しなくって……」
言うと、ウォルターがムスッとして、空をにらむ。
今まで悲しげで淋しげで不安そうだったのが嘘みたいなほど。
顔を赤らめたまま、口をとがらせて、すねたみたいにボソボソと。
「そりゃあ……ってか、なんにもなかったのか? あの後。返信できないような……。その、怒ってたんじゃなかったらさ」
「……」
うっわー。
『あった』って言っちゃいたいくらいの雰囲気。
でもこれ以上ウォルターに嫌な思いをさせたくない。
「……ありませんでした」
うつむいてポソリと言って、目だけ上げて相手を窺う。
向かいで胡坐をかいて腕を組んだウォルターは怖い顔をしていた。
裏切られたみたいな、別の意味で悲しそうで、また悔しそうな。
声が責める響きに変わる。
ギロッと私のほうをにらんで。
「……で? なんなわけ? 俺のこと怒ってたわけでもないし、なんにもなかったんなら、どうして返信してくれなかったんだよ? 依理愛」
「あの、それは……」
形勢逆転。
さっきまで、私が優位っぽい雰囲気で、ウォルターはしょんぼりしてたんだけど。
今や完全に私が下の立場になった。
あたふたあたふた。
おろおろ。
「あのっ、あのね? 怒ってたって言えば、怒ってたんだけど、そういうことじゃなくて、ね……」
ああ、でも、心配されて腹が立ちましたって言っても『何それ?』って感じだし……。
ウォルターは口をへの字にして黙ってツンとして私の言葉を聞いている。
助けてくれそうにもない。
「だから、あの、メールがね……。メールを見たらね、なんかムッときちゃって。だって……デートの後なのに、って、思って……」
ウォルターがふっとそっぽを向く。
「……だから無事に帰れたか心配したんじゃん」
明らかにそれは自分が正しいと言わんばかりで。
私はこれはハッキリ言わないと通じないなと確信を持った。
ギュッと拳を握りしめて勇気に変える。
顔を上げてキッと真正面からウォルターを見据えて。
がんばれ、自分!
+++++
「私はこどもじゃないの!!」
「……は?」
こっちを向いたウォルターがぱかっと口を開けて目を見開いて呆然として私を見る。
いきなり何を言い出すんだって感じで。
もーっ!
ダメだ、こりゃ。
もっとハッキリ言わないと。
「だからっ、ウォルターは、付き合う前からいつも会った後には『無事に家に着いた?』ってメールくれるでしょ? でもそんなのは、メールの返信ができることでわかるじゃない! 昔は嬉しかったけど……私だっていつまでもこどもじゃないんだし、デートの後だよ? もっと他に何か送ることあるでしょっ!? どうしていつまでも『無事に帰れたか?』なのーっ!?」
「えっ、ちょっ、待っ、依理愛……、いや、わけがわからん。何怒ってんの? 心配したからじゃん。それだけだろ? 別にこども扱いとかじゃ……。そんなことで怒ってんの?」
「『そんなこと』って何よーっ!?」
……このダメ男!
思わず内心で怒鳴りつけてしまう。
口に出さなかったのはせめてもの良心で。
なんでもわかんないのもう!!
恋人同士だから甘いメールが欲しいんだよーっ!
ガッと頭に血がのぼった。
「おかしいのは絶対にウォルターのほう!!」
私は吐き捨ててサッと立ち上がった。
「ちょっと待てよ、依理愛! おい、落ち着けって!! なんかわからんが俺が悪かった!!」
ほぼ同時に立ち上がってウォルターが私の腕をつかんでくる。
その言動にまたカッと全身が熱くなる。
私はそれを振りほどこうと暴れた。
「放っといて!! もう帰る!! わかってくんないならもういい!!」
「いやいや、そういうわけにいかねぇって!! 話、聞いて!! 待てよ、おい……」
つかまれていないほうの腕でウォルターを叩く。
持っていたバッグでバシバシと。
頭に当たるそれをウォルターは腕でかばう。
「いてっ、いてっ、よせって!!」
ぐいと腕を引っ張られた。
「あ……」
どさっ。
バランスを崩してベッドの上に倒れこんだ。
その上にウォルターが覆いかぶさってくる。
私の腕をベッドに押し付けて、もう片方の手も手首をつかまれてそうされて、足を押さえるように体の上に乗っかられて。
黄色っぽい目が私を見下ろす。
私はそれをキッとにらみ返した。
「放して、ウォルター」
きっぱりと言う。
「……」
ウォルターがスゥッ……と目を細めた。
それはまるで獲物を捕らえた時のようにギラリと輝いて。
ゾクッとする。
「ウォルター……?」
ウォルターが顔を近付けてくる。
強い男の力で私の手首を握りしめて。
暴れる私を押さえつけていたためか息が荒い。
「ねぇ、ウォルター……?」
降ってくるような赤い髪がまぶしくて。
不安になって名前を呼ぶ。
間近で私を見つめていたウォルターがふっと笑って。
「……誰をこどもだと思ってるって、依理愛?」
口に触れると思った唇はそらされて私の耳たぶをやさしく噛んだ。
唇でもむようにされて、それからその唇は下に、首筋を通って、あごの下を舐めあげた。
ついで鎖骨の辺りをくすぐるようにされる。
私の反応を窺いながら。
べろりと肌を舐められた。
「やっ……」
話してるのに!
まだ怒ってるのに!!
許してないんだからっ!!
「ウォルター!!」
憤然として大声を上げると、ウォルターがそれをやめて、顔を上げた。
私の両手首は握ったまま、少しだけ身を離して、上から私を見下ろす。
その目が冷たくて、それでいて熱くて、じっと見つめてきて。
カァッと顔が熱くなる。
ベッドで仰向けにされている……。
服とか乱れちゃってるのに動くこともできない。
力で押さえられていて逃げられない。
今度ははっきりと悟って逆に青くなる。
やだ、こんな、どうしよう……!?
こんなふうにされたことない。
いつもやさしかったのに。
私の気持ちを尊重してくれていたのに。
逃がしてくれそうにない。
何をされるの?
怖い……!!
鋭く細めた目で私をじっと見つめていたウォルターが口を開く。
「……こどもだと思ってるとかそんなんじゃねぇよ。確かに前から『無事か?』のメールは送ってるけどさ、あの頃と今とじゃちょっと意味が違うんだよ」
「え……?」
「……依理愛、おまえは俺のだろ? だからさ……他の男にひどい目に遭わされてたらとかって考えるとたまらなくってさ……。嫌なんだよ、そんなの、絶対に!! ……つまり、アレだ、独占欲ってやつだよ!! 俺は依理愛を独占したいの!!」
きょとんとしていると、ウォルターが顔を赤くしてムスッとして言う。
私はもう今の状況も忘れてぽかんとしてしまう。
ウォルターがますます真っ赤になって顔を背けて言った。
「こんなこと言わせんな!! 恥ずかしいだろ!? もー家に帰さねぇぞ、依理愛!! そんなにそのメールが嫌なら一緒に住むしかないだろ!! 俺を安心させるにはそれしかない!!」
「もっ、バカ言ってぇっ……!!」
恐怖に冷たくなっていた体がまた一気に熱くなる。
私の彼氏様のバカは筋金入りだ。
私は『ふぅ……』とため息を吐いた。
なんだ。
ウォルターが心配性なのは変わらないけど、そういう心配だったんだ。
私をこども扱いしていたわけじゃなかった。
それどころか……『カノジョだから』だったんだ。
それはちょっと嬉しいかも。
「もう……わかったから、放して、ウォルター。もういいよ。怒ってない。ごめんね」
やさしい目に変えてウォルターを見上げて微笑んで言う。
すると……。
ウォルターがあやしく唇をつり上げてニヤと笑った。
うっ、嫌な感じ。
ゾクゾク。
「……『私はこどもじゃない』って言ったよな、依理愛?」
目がギラついてるよぅ。
やっぱり怖い。
ウォルターがゆっくりと顔を近付けてくる。
私の両手はつかまれたまま。
ちょっとっ……。
「この状態で好きな女を逃がすほど俺もこどもじゃねぇの」
「……サイテー」
唇を合わせてからの言葉に横を向いてボソッと言った。
(おしまい)
+++++
オマケ。
「あっ、ボディミルク忘れちゃった……。せっかく新しいの買ったのに」
シャワーを浴びた後、ベッドの上に座らされて、ウォルターはまだ未練がましく私を抱きしめていた。
私は一応ウォルターのシャツを借りて着ている状態なんだけど、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるものだから、ほとんど脱げてしまっている。
ウォルターが胸元に顔を埋めてスーッと匂いをかぐみたいに息を吸い込んでこんなことを言う。
「んー、好き。大好き。可愛い。依理愛、可愛いなぁ、おまえって。食べちゃいたいくらい」
その時に私はハッとした。
ああ、せっかく買ったのに……。
ウォルターが私のつぶやきに顔を上げて『ん?』と首を傾げる。
「ボディミルク。薔薇の匂いがするの。……ああ、使いたかったなぁ。すごくいい匂いなの」
「ふーん」
彼氏様はわかったのかわかっていないのか微妙な返事をした。
すごく興味なさそうにまた目を閉じて『んー』と胸に顔を埋めてしまう。
眠たそうな猫みたいにうっとりと。
ついでに言うと怠そうにぐったりと。
完全に私のほうに体を傾けてしまっている。
「ウォルター、重たいよー」
また『んー』と言って頬を寄せてすりすりして甘えてくる。
……もうっ、しょうがないな。
私はため息を吐いた。
無理やり引き剥がす気にもなれなくて。
そりゃ、ちょっとは、やっぱりうれしいし。
でも……匂いが気になる。
もちろん、シャンプーを借りたから、髪まで同じ匂いなんだけどね。
シャツだって彼のだし、全身ウォルターの匂い。
こういう時に使いたかったのに。
あーあ、せっかく買ったのにな、薔薇の匂いのボディミルク。
残念。
そう思っていると、ウォルターが動いて、脇に鼻を埋めるように押し付けてきた。
「ちょっ……」
さすがにそこは……。
まだ、なんていうか、洗ったばかりだけど、くっついていたから汗が……って。
私が身をよじると、顔を上げたウォルターが、とろんとした目で私を見つめる。
そしてゆっくりと顔を近付けてきた。
耳の上あたり……そこも汗が……をくんとかぐようにして。
「依理愛の匂い好きだぜ……」
そんなことを甘くささやいてくる。
「そのまんまでいいって。ボディミルクとかさ、いらねぇよ。依理愛の匂いがいい」
「……」
私はぎゅっとウォルターの鼻をつまんだ。
「ふがっ」
ウォルターの口から間抜けな声が飛び出る。
痛そうに顔を歪めて慌てている。
思わずクスッと笑った。
鼻を解放してやると、怒っているふりで、口をとがらして言う。
「今はシャワー浴びた後だからまだいいけど……、そういう匂いかいだりとか、感想とかっ、女の子は恥ずかしいんだからっ」
正直に言わないでよねー。
あうう、正直かはわかんないけど。
……何もつけなくてもいつも女の子がいい匂いだとは限らないんだからねっ。
これでも努力してるんです。
女の子は。
「いってぇ……」
赤くなった鼻を押さえているウォルターが涙目で言う。
私はツンとそっぽを向く。
知りませーんっ。
ついでにいい加減もう離れようと、ウォルターの胸を両手で押したら、逆にその手を取られてしまった。
驚いて振り向くと、私の両手首を男の大きな手で握りしめたウォルターが、もう片方の手で私のシャツを脱がした。
そして器用にぐるぐると巻きつけて手首をシャツで縛ってしまう。
「ちょっ、ちょおっとーっ……!!」
ウォルターはニヤリと笑った。
そして私を膝の上に抱え上げる。
縛った手首を持ち上げて肩に回すようにされて。
向かい合ってふたりの体がピッタリとくっつくようにされて。
片方の手は腰に、もう片方の手は私の頭をやさしく撫でるように動いていて。
見つめてくるうるんで輝いた黄色っぽい瞳。
「……依理愛、俺、昨日不安だったんだぜ? 嫌われたんじゃねぇかって。おまえが離れていっちまうんじゃないかって。今だって……。だから、なぁ……もっと安心させて? もっと依理愛を俺にちょうだい?」
かすれた低い声で耳に甘くささやいてくる。
熱い息が耳にかかって。
くすぐったくて。
なんだか……。
ドキドキが、伝わる。
ウォルターの顔が赤くて可愛らしい。
私はぎゅっとウォルターに抱きついた。
「いいよ。好きなだけ、あげる……。どうぞ食べちゃってください!」
冗談っぽく言うと、ウォルターが今度はクスッと笑った。
そして私をぎゅうっと抱きしめ返した。
うれしくてたまらないといったふうに。
「……ったく、大好き、依理愛!!」
(おしまい)
+++++
あとがき
リクエストいただいた作品で『ウォルター裏夢』です。
すみません、微裏で。
これがわたしの限界です・・・!!
赤面。
いやぁー、恥ずかしいものですね、こういうシーン書くのって・・・。
読んでくださってありがとうございました!