ウォルター夢(依理愛)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ(ウォルター高校生)。
主人公は普通の学生の女の子。
内容:ウォルター夢。
カレカノの間柄。甘々。乙女心たっぷり。
名前を変換しない場合『依理愛(いりあ)』になります。
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私は自分の部屋の扉を開けて呆然とした。
片手に持った大きなお盆の上には、お茶やお菓子はもちろん、氷やタオルも乗せてある。
それを持ったまま唖然として前方を見て突っ立っている。
ベッドの上にウォルターの姿がある。
……存在自体は不思議でもなんでもない。
彼氏様はさっき家にやって来たところだから。
そう、ついさっき。
5分くらいしか経ってないよね……?
会った時からやたら元気に『疲れた!! ダリぃ!! 限界だ!!』とわめいていたウォルターは、でもその言葉は本当だったらしく、とりあえず部屋に入ってもらって、私が色々と準備をしている間に、寝ちゃったみたいだ。
たった5分の間に図々しくも勝手に人のベッドで……しかも私の抱き枕を抱えている!!……寝るなんて。
怒りたいところだけど……。
私は部屋に入り、扉を閉め、テーブルにお盆を置いて、そっと静かにベッドに近寄った。
そしてウォルターの顔を覗き込む。
家に来た時のウォルターの頬は赤く腫れ上がっていた。
口の中を切ったのか、唇の端からは血が出ていて。
シャツもしわくちゃで。
明らかにケンカの後だった。
理由を訊けば、ムスッとして、他校のヤツらと殴り合ったとかって。
……ケンカの後だからか、気がたかぶっているようで、なんだか怖いくらい険しい顔で、唾を吐き出すみたいに言った。
『女子を無理やり連れて行こうとしたから』って。
だから止めたんだって。
……それは立派だと思う。
でもあんまりにもひどい怪我をしていたから泣きたくなった。
本当のこと言うとちょっと怖いくらい。
それでも家に来てくれたのは、私を頼ってくれたからで。
遠慮なく『痛い』と言って騒ぐのも。
そう思って余計に悲しくなった。
切なくて、胸が痛くて。
それを我慢して『よくやったね』って褒めて。
部屋に通したのが約5分前。
もう眠っちゃった。
……思い出される。
帰ってきた私を家の前で待っていたウォルターは、私を見るなりムスッと気まずそうにそっぽを向いて、怒っているみたいに空をにらんで。
どうしたのかと覗き込む私に、いきなり照れたように真っ赤になってわめき出したんだ。
『依理愛、頼む、お願いだから助けてくれ!!』って。
それから『痛い』『疲れた』『ダリぃ』『限界』『もう駄目』って……。
……『助けて』って、怪我のことだと思ったんだけど。
眠かったのかな。
真上から見下ろすと横になって寝ているから顔が見えない。
よいしょとベッドの横にしゃがみこんだ。
……やっぱり赤い長い前髪が覆いかぶさって顔が半分くらい見えない。
形のいい鼻と、微かに開かれた唇だけが。
私の抱き枕を、嵐の海の中でようやく見つけた木の枝のように、しがみつくようにがっちりとつかまえて。
すー、すー、と微かな寝息を立てている。
怪我が痛いだろうに、それでも気持ち良さそうだ。
私はふうとため息を吐いて、頬杖をついて、そんなウォルターの寝顔を眺める。
ほっぺたとか、目の周りの青いところを冷やしたりとか、そう思っていたんだけど。
……なんか起こすのも可哀想なくらいだなぁ。
どうしよう。
あんなにイライラしていたのが、今は穏やかに眠っている。
気が済んだみたいに。
顔を見ていると、あの時の必死な顔が、言葉がよみがえる。
『助けてくれ』って……。
男の人がそんなこと言うなんて思わなかった。
……どうしよう。
少しためらってから、立ってテーブルに氷を取りに行く。
台所からだったからボウルに入れていた水の中の氷は少し溶け始めていた。
タオルの上に氷を取り出して乗せて、それを持ってウォルターのところに戻る。
私は自分の手を氷で冷やした。
そしてその手でウォルターの前髪を払ってそっと額に触れる。
ピトッ。
動かずにじーっとそのまんまでいる。
熱い。
……起こしたら悪いからと思ったけど、やっぱり冷たいタオルで冷やそうかな……そう思った時だった。
閉じられていた黄色っぽい目がゆっくりと開かれる。
「……依理愛」
その目がまぶしそうに細められてドキッとする。
唇も少し持ち上がって小さく笑って。
かすれた低い声が言った。
「気持ちいい……」
手をのばして、私の手の上に重ねて、きゅっと握った。
「依理愛、冷たくていい気持ち……ありがとうな」
私の手を引っ張って頬に当ててこどものように笑う。
私は頬が熱くなるのを感じた。
そんなことをされると恥ずかしくて照れてしまう。
慌ててさっと手を引き抜く。
そして立ち上がった。
+++++
「あっ、やっぱりっ、タオルで冷やそうね、えっと!」
これだけの氷じゃ駄目なのでボウルを取りに行こうと思って。
だけど途中でその動きが止められる。
見ると、ウォルターが私の腕をつかんで、引っ張っていた。
「行くなよ、依理愛。大丈夫だからさ、もうちょっと……」
「何言ってんの、冷やさないと……」
「ん……」
なんだかとろんとした眠そうな目で私を見上げる。
「……じゃあ、それでいいからさ、また触って?」
「なっ……」
カァッと顔が熱くなる。
たぶん耳まで真っ赤だ。
なんていうことを……!
平気な顔で恥ずかしいことを……っ。
……いやいや、半分寝ぼけてるのかも?
「ええっ、あのっ、別にっ、いやっ、いやじゃないけどっ……」
ウォルターがぶっとふき出した。
口元を拳で押さえてクックッと苦笑する。
おかしくてたまらないといったふうに、身をよじって、とうとう抱き枕に顔を埋めた。
「依理愛、サイコー! そんな意味じゃねぇよ! くっ……いや、嬉しいけど。そういう意味でも大歓迎だけど。可愛いっ……!!」
ムカッ。
「……別に、私だって、そんな意味じゃありませんから!」
ぷいっと顔を天井に向けてツンとして言う。
ひーっひーっと笑い声は止まなかった。
ウォルターはベッドの上でごろんごろんしている。
笑い転げるってこういう状態か。
……もうっ、本当に腹立つ!
私がふくれっ面で黙っていたら、ようやく笑いをおさめたウォルターが、涙の浮かんだ目元を指でぬぐいながら起き上がった。
「あーっ、笑った。あーっ、ヤバい、面白かった。依理愛、すげぇな、おまえって。直った。うん、ってか、癒されたわ。もう大丈夫かも」
「……え?」
……ど、どういうこと?
私、何もしてないよ?
っていうか、怪我、治ってないよ……?
きょとんとしてウォルターを見ると、ベッドの上にあぐらをかいて座ったウォルターが、二カッと笑いかけてくる。
やさしい目で私を見つめて。
「機嫌が直ったぜ。依理愛って名医だよ、ホント。なんかイライラしてたんだけど、それなくなったもん。助かった。なっ、サンキュ!」
そんなことを言う。
その笑みは見ているこちらを安心させるような笑みで。
たぶん強がっているのと変わらないんだろうけど。
確かに張っていた気が緩んだ様子だった。
そんなふうに気を遣えるくらいには回復したんだと。
……そう思えた。
私はわざと仁王立ちで腕組みをして真正面からウォルターをにらんで言う。
「じゃあ、その名医から忠告です! ケンカはあなたの体に悪いから極力避けるように!! 周囲の人も悲しませます!!」
「……まぁ」
ウォルターの目がつーっと横に逸らされる。
あいまいに微笑んで。
私はずいと怖い顔を近付けた。
それを両手で遮られる。
慌てた様子で。
「ああ、はいはい! 善処します!!」
「よろしい」
ふむ、と偉そうに言って、途中になっていたボウルを取りに行くことに戻った。
氷水の入ったボウルの中にタオルを入れて濡らしてしぼる。
じっと私の行動を見ていたウォルターが、少し残念そうに言った。
「……で、もう触ってくんねぇの? 依理愛」
ペシッとその顔に濡れタオルを投げつける。
「冷てっ!!」
(おしまい)
→オマケ。
+++++
その後。
懲りないウォルターが口をとがらせて言う。
「依理愛、じゃあ触ってもいい?」
「……やだ」
ぽそりと言う。
「だって恥ずかしいんだもん」
頬を赤くしてふくらませて唇をとがらす。
ウォルターが苦笑した。
「本当はおまえを抱いて寝たかったんだぜ、依理愛。匂いだけで我慢したけどさー。あの時、押し倒したかった」
「バカ」
「それで一緒に寝られたらなって」
……。
ニヤニヤして言われて反応に困る。
もうどうしたらいいやら。
添い寝くらいなら構わないけど……。
わざとムスッとした顔を作って黙っていると、ウォルターがちょっと真面目な顔になった。
「嘘。しねぇよ、そんなこと。イライラをおまえにぶつけるとか最低だろ。嫌われるじゃん。俺はそういうことはしないの!」
私は驚いて目を丸くしてウォルターをじっと見た。
みるみる彼氏様の顔が赤くなっていく。
腫れた以上に耳まで赤い。
真っ赤になってうつむくウォルター。
やけみたいに言い放つ。
「だからぁ! そんだけおまえが大事だってことだよ! わかったか、依理愛!!」
えええええっ。
ちょっ……そんな。
うれしいことをいきなり言ってくれちゃってっ……。
赤面対決だ。
顔の熱さを意識しながらこくんとうなずいた。
「……はい」
(おしまい)