ウォルター夢(依理愛)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ(ウォルター高校生)。
主人公は普通の学生の女の子。
内容:ウォルター夢。
カレカノの間柄。甘々。乙女心たっぷり。
名前を変換しない場合『依理愛(いりあ)』になります。
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デパートの前に設けられたあるコーナー。
商品の乗せられた棚が本屋のように並び、ケースは宝石店のようで、全部で大きな迷路のようになってしまっている。
その中を、さっきから、ぐーるぐるぐる……。
別に迷子になってるわけじゃない。
迷ってはいるけれど。
道にじゃなくて、どれを買おうかな、と……。
バレンタイン。
さっきから、どこを見ても赤やピンクや茶色ばかりで、それは飾ってある造花もそうだし、商品も……。
ホワイトチョコレートもあるけれど。
甘ったるいハートの山にめまいがしそう。
いや、本当にする。
すごい人込みのせいかも……。
お菓子の匂いのせいかも……。
っていうか、迷いすぎ、悩みすぎで。
頭が痛い……。
『バレンタインデー』の文字をにらみつける。
うーん……。
どうしようかなー……。
私が選んでいるのは当然彼氏様へのチョコなわけで。
家族や友達へのならもう買った。
肝心の……だからこそ……カレシであるウォルターへのチョコレートが決められない。
……やっぱり高いほうがおいしいよね……。
でも面白いほうが喜びそう。
ちょっとこどもみたいなとこあるから。
単純に多いほうが喜んでくれる?
でもそれじゃちょっとな……。
……どうせ他の女の子からもチョコもらうんだろうし。
ここはやっぱり高くて少ししか入ってない本命チョコで……!
……って言ったって、そんな高いのムリだし。
もしかしたらもっと高いの他の女の子からもらうかもしれないんだし。
っていうか手作り……。
……私は手作りは普段クッキーとか作ってあげちゃったりするから、それじゃ特別な感じしないし。
かといって、じゃあ、お菓子以外の物?
たとえばネクタイとか……。
ネクタイの贈り物の意味は『あなたに首ったけ』だったなぁ。
でも、しない物をあげてもなー……。
うーん。
……こういう時、カノジョなんだから、『私以外の人からもらわないで!!』とか言っちゃうのもアリなんだろうけど……。
でも、心が狭いっていうか、なんか余裕ないみたいで、束縛する女みたいに思われても嫌だなぁ……とか。
誰から何もらっても私のプレゼントが彼にとって一番よ!
……ってわけじゃないけど……。
ホントそんな自信持てたらいいな。
じゃなくて。
なんか信じてないみたいで……ウォルター他の人からもらうから私からはいらないよねー……なんて言ったらそれはすねてるみたいでそれもNG。
男の人はうっとうしくしか感じないよね。
他の人からもらってもいいよ、私ももちろんあげるけど、いっぱいもらったって大丈夫ー……くらいの、大人っぽいっていうか、余裕を見せたいっていうか。
……ああ、見栄っ張りだなー、私。
可愛くないよ。
本当は、そりゃあ、もらわないでくれたら一番いいんだけどね。
でも、ウォルターやさしいから、断れないだろうしなー……。
気持ちのこもった物ほど無下に断るとかできなさそう。
『絶対』って言われたら受け取っちゃう。
それが一番受け取ってほしくないものなのに。
……でも、しょうがないっかー……。
ってわけで、勝負なんだよ、女の子にとってバレンタインってのは!!
燃えるね。
男の子がのほほんとチョコ待ってる間に女の子はものすごい火花を散らし……。
教えないけど。
誰かに取られる前に自分がいいチョコを確保。
もう、いかに殺気立つか、鬼気迫るものがあるか。
ただ買うだけでもバーゲンみたいなことになるもの。
もう熱でチョコ溶けそうなほど。
洋服でもそうだけど、男のためじゃないの、女の子が敵だからなの!
……って、いうのもなぁ。
よーしっ!
戦線離脱。
もういーやっ。
なんかバカみたい。
気にせずに自分らしいものをあげよう。
ちょっとしたことを思いついたし。
準備、準備。
私は何も買わずに売り場から離れた。
+++++
13日の夜。
私はケータイとにらめっこしていた。
意を決してメールを打って送信。
もちろんウォルターへ。
本文。
『14日の夜7時には必ず家にいること! 絶対、絶対にいてね!! いないと泣いちゃうからっ!!』
焦った顔の絵文字つきで。
よーし。
……これくらいのわがままは言ってもいいでしょう!
なんていったってカノジョだもん。
返ってきた返事を見てにんまりとする。
『依理愛、わかったけど、何?』
絵文字も何もないメール。
そのかわり早い。
うん、よしよし、いい食いつきだぞっと。
答えはもちろん決まってる。
私はニマニマと口元をゆるませながら返事を打った。
『それはねー、ナ・イ・ショ! 楽しみにしててねっ』
送信。
バレンタインデーだからある程度の想像はつくだろうけど、それでも、お楽しみなのだっ。
いっつもびっくりさせられてるから、たまにはこっちからびっくりさせちゃうぞっ。
『待ってる』
すぐに返ってきたメールの文面をじっと見つめる。
待ってる……って。
ホント、なんていうか、……好きだなぁ。
+++++
14日、バレンタイン当日。
私は家に帰って玄関を開けるなり、驚きで目を見開いて止まった。
「……え、なに、これ?」
玄関先に長方形の白い箱。
誰から誰あてかはわからない。
苗字は書いてあるけど、確かにうちあてだけど、あと……。
中身は花だって。
なんでうちにこんなものが……。
おそるおそる箱を開けてみれば、本当に花が出てきた。
淡いピンクの包み紙にくるまれ、赤い大きなリボンで結ばれた、真っ赤なバラの花のつぼみ。
それも数えきれないくらい。
「うわっ、すごい……!」
思わず持ち上げるとどっしり重たい。
あまりの数にこどもを抱えるみたいになってしまう。
きれーい……。
花を見つめて、ほう、とため息を吐く。
……でも、誰なんだろう、こんなことするの。
バレンタインデーにバラの花束なんて……。
カッコいいとは思うけど、ちょっと気障じゃない?
その時、花束につけられていたカードに気が付いた。
ぺらと指で挟んでひっくり返して見る。
すると、そこに書かれていたのは……。
『ウォルターより。依理愛へ。94本』
真っ白いカードにちょっと雑な字で。
私はびっくりして紙を凝視した。
……ウォルター!!
しかも私あて!?
花束を抱きしめる手に力がこもる。
ぎゅうっと胸に押しつける。
花束に顔を埋める。
……どうしよう、うれしい……っ!!
気障だなんて思ったけど、相手がウォルターなら、断然カッコいい。
他の人じゃダメだけどね。
ウォルターならすてきだよ。
うれしくないわけないじゃない。
バラの花束なんてもらったの初めてだもん。
もらえるなんて思ったこともなかったもん。
きれいに並んだつぼみの赤い色はちょっとウォルターの赤い髪の毛を思い出させる。
ああ、キレイだなー……なんて。
喜びでくるくる踊ってしまいそう。
……ん? でも、なんで94本?
100本じゃないのかな?
6本は自分で飾るために手元においてるとか?
……じゃあ、ないよね。
何か意味があるのかな?
まさか『(9)苦しんで(4)死ね』とかじゃないでしょうね。
お金が足りなかった……とか。
それになんでつぼみなんだろう?
そのほうが安いとか。
まさか!!
そんなことないよね……。
その謎は、ネットで調べてわかった。
赤いバラの花のつぼみの花言葉は『愛らしい』。
数の9は『いつも思ってる』、4は『死ぬまで』。
合わせて『愛らしいとずっと思ってる』ってことなんだ……。
これが『愛らしいあなたとずっと一緒にいたいと思ってる』ってほうだったらいいんだけどな……。
それにしても、わざとさっさと書いたみたいな、めずらしく雑な字……。
しかも、誰から誰あてかっていうのと、数字しか書いてない。
本当ならもっと書くことがあるのに。
きっと恥ずかしくなっちゃったんだろうな。
バレンタインデーに女の子にバラの花束贈っといて、照れてカードはまともに書けない人。
……うん、可愛いなぁ。
カッコつけのくせに(笑)。
からかっちゃおうかなぁ。
あと、どっちの意味かも、言わせてやるぞ。
もちろん、私のプレゼントはちゃんと用意してあるから、ウォルターのとこに行く準備しないとね。
+++++
7時になってアパートを訪れると、約束通りちゃんと待っていたウォルターに部屋に入れてもらう。
来ることがわかっていたからか少しは汚くない部屋で、暖房器具のそばに椅子を置いてくれたので、そこに座った。
「ちょっと待ってろよ」
「うん」
飲み物を取りに離れていくウォルターを見送り、椅子からおりて、低いテーブルの前に座る。
そしてごそごそと鞄の中からお目当ての物を取り出した。
戻ってきたウォルターがきょとんとする。
せっかく椅子に座らせた私が床にぺったり座っていたから。
その目が室内をさまよった。
「座布団とかそのへんに……ヤベ、なかったかも」
「いいよ、別に。ウォルター、気にしないで」
「ああ、そこらへんの俺の服とか下に敷いていいから」
「大丈夫だってば」
そこらへんの服より自分のスカートのほうがまだマシな気がするっていうのは失礼だろうか。
だって洗ってなさそうなんだもん。
ぐしゃぐしゃになってるからそう思うだけなのかもしれないけど……。
たぶんいつもいい匂いだから洗ってるとは思うんだけど。
なんでちゃんと片さないかな……。
相変わらず収納スペースの少ないうえに妙に物の多いごちゃごちゃした部屋。
でも今なにに興味があるのかとかわかって面白い。
上に出ているから。
変わらないのはバイク雑誌とか。
生活感があるっていうか、人のぬくもりが感じられて安心できるっていうか、こういうところ嫌いじゃないよ。
……片付けたくはなるけどね……。
ウォルターの『人』がわかるからかな。
汚い部屋だけど全然かまわない。
しばらく戸惑った様子でおろおろしていたウォルターは、どしっと座り込んだまま動く様子のない私にあきらめたのか、ジュースのパックとコップをふたつ持って近付いてきてテーブルに置いた。
そして自分も向かいに腰を下ろす。
「依理愛、悪いな。座布団なくて。今度からちゃんと……っていうか、椅子に座っててくれればいいのに……」
「だって、ウォルター、渡したいものがあって来たんだもん」
「椅子に座ってでいいじゃん」
「ダメなんだよーっ」
……それじゃダメな理由があるんです。
渡しにくいんだもん。
ウォルターは照れたみたいに顔を赤くしてうつむいてぶっきらぼうに言う。
「渡したいものって、どうせバレンタインのチョコだろ!? そんなの、フツーに渡せば……ってか、こう……改まると恥ずかしいっていうか……」
そこまで言ってぷいっとそっぽを向いてしまう。
「あー、それで郵送なんだ!!」
私はぱんと手を打った。
納得。
どうして会えるのにわざわざ送ってくるのかなと思ってた。
直接渡すの恥ずかしいからだったんだ、やっぱり。
うかがうように少しこっちを見たウォルターが怪訝そうにする。
「な、……なんだよ、ニヤニヤして」
「ウォルター、可愛い!」
「なっ……」
バッと振り向いて顔を真っ赤にしてムッとした顔で固まる。
悔しそうにして。
ふっふふっ。
なんとなく『勝った』って感じ。
……なーんて。
いじめるのはかわいそうだからやめてあげよう。
私はにっこりと笑い直した。
「ごめん、からかって。うれしかったよ、花束。ありがとう! ちょっと高そうだから心配になっちゃったけど……。でも、本当に、あんなの初めてだよ!! 花束もらったのも初めてだし……しかもバラの花束なんて! すてきだもん。すっごくすっごくうれしかったよ」
ウォルターがホッ……と息を吐く。
本当は直接渡してほしかったけどね。
恥ずかしい気持ちわかるから。
「それで、ね。お返し持ってきた」
お返しっていうのも変なんだけど……。
順番的にそうなっちゃったから。
私は鞄から取り出していた包みをテーブルの上にちょこんと置いた。
+++++
「はい、コレ」
ウォルターがぽかんとする。
「依理愛……これ、何?」
「見ての通りだよ」
透明な包みで中が見えるから、何かわかるはずなんだけど……。
ウォルターが凝視するそれを私も見つめる。
小さな板チョコの形をした消しゴム。
そう、消しゴム。
それも小さなやつ。
ウォルターが震える指でそれをさす。
「……消しゴムに見えんだけど」
私はこっくんと勢いよくうなずいて肯定する。
「うん。消しゴム。匂いもチョコだよ」
「これを食べろってか……!!」
がっくりと肩を落とすウォルター。
両の拳をテーブルの上にどんっと置いて。
完全に頭を下に向けて。
シーンとして。
えええ?
……オイオイだぞ。
そこまでがっかりするもの!?
「ちょっとウォルター。食べろなんて言ってないよ」
「それはそうだけれども……!!」
ようやく顔を上げたウォルターは目の前の板チョコ型消しゴムをにらみつける。
恨みがましい目で。
本気で悔しそうに。
……そんなにチョコ食べたかったのかな?
そりゃ……食べられないけど、でも……。
これは作戦失敗かな?
ええい、まだまだだもん、やってみなきゃわかんないや。
「そ、それでね……」
私は勇気を振り絞って鞄からある物を取り出して手の上に乗せてぐいと差し出した。
「……は? 何これ」
今度はスティック状の何か。
きっと男性にはあまり馴染みのない物だろうからパッと見にはわからないかもしれない。
今度はチョコの匂いのノリかとか思われたかな?
私はそれをもう片方の手の人差し指と親指でつまんで、持っていたほうの手で先のほうをくるりと回した。
中から出てきたのは……薄いピンク色の細長いもの。
そう、色つきリップ。
でも、このリップ、それだけじゃないんだ。
私はウォルターの見ている前でわざとゆっくりそれを自分の唇に塗る。
……見ている前じゃないと意味ないんだよね……。
ウォルターは驚きに黙ったままじっと私のすることを見ている。
ちょっと恥ずかしい。
私はリップを塗り終わった自分の唇をちょっと突き出して見せた。
「ん。このリップ、チョコレートの匂いがするの」
「え? は!? ……ええと、依理愛……?」
「だからぁ!」
もうっ、鈍いなぁ!
戸惑った様子で私の肩をつかんで止めて首を傾げるウォルターにリップクリームを突きつける。
どういうこと? ってこういうことだよ!
「チョコレートの匂いの消しゴムと、チョコレートの匂いの唇、どっちがいい?」
欲しいほうをもらってよ。
これを言うの、すごく恥ずかしいんだからねっ。
女の子にここまで言わせて、どっちも嫌だって言ったら……泣いちゃうぞ。
すごくドキドキして、うるんだ目で相手をじっと見る。
だって、うう、ここで断られたら……どうしよ、悲しすぎる。
一生懸命考えたんだよ。
チョコレートだってあげたいと思っていろいろ選んだんだよ。
でもやっぱりあげられる特別なものは……これしかなかったから。
お願い、選んでください。
私を。
「依理愛……」
しばらくして、両肩にただ置かれていた手に力がこめられる。
包み込むように私の肩を握って。
ぐいと引き寄せられる。
「……いいのか?」
怖いくらい真剣な表情のウォルターが傍にいて。
「うん」
私は見つめてくる黄色っぽい目を見つめ返してうなずく。
そのうっとりと甘く細められた目の放つ強い光にドキッとしたりして。
まるで獲物を狙うような熱のこもった目。
チョコレートの匂いよりも強く彼の匂いを感じて。
傾けられた顔がゆっくりと近付いてきて……。
最初はそっとやさしく触れるだけのキス。
確かめるように、そっと。
それから、離れては、またくっついて。
次第に長くなっていく。
私からキスすれば、ご褒美のようにやさしいキスがすぐに返ってきて。
「依理愛……」
キスの合い間に名前を呼んでくれる声がすごく甘くて。
「依理愛、好きだ……」
「私も……ウォルター大好き」
……最高のバレンタインになりました。
+++++
その後。
「何個もらったの?」
「ん? んー……」
テーブルの前で隣に並んで座って私の持ってきたチョコ……本当に断られたときのために一応持ってきていた……をもぐもぐと食べているウォルターを問い詰める。
もちろんバレンタインにもらったチョコレートの数を。
空をにらむようにして口にチョコレートを詰め込むウォルター。
いかにも『食べてるから話せません』といったように。
上から見下ろすような冷たい目で私はウォルターを見る。
「あ。……ごまかす気だー?」
「いや、違う。そうじゃなくて。……断った、ような……」
「ん? ウォルターが? 断ったの? 全部?」
「あ、いや……えっと」
「んんーっ!?」
「え、あの、ゴメンナサイ……」
「んんんーっ!?」
笑顔を顔に張り付けてずいと近付ける。
それを手で遮ってウォルターは赤い髪を揺らして頭を何度も下げた。
ついには『勘弁してくれ!』と涙目で言われる。
「依理愛からのプレゼントが一番だから!」
「ふーん」
私はぷいとそっぽを向いて口をとがらせて言った。
「まぁ、いいけど。もらっちゃうと思ってたから。そのチョコにどんな熱い思いがこめられているのか、ウォルターはわかってるのかなぁ?」
「いや……だから断れねぇんだろ!?」
「そのチョコはコンビニのだけど……チョコレート買うのも大変なんだよ? 女の戦争だよ? チョコレート売り場は。なんで飾りのハートが赤いと思ってんの?」
「血しぶきか」
そんな冗談に付き合ってくれて、少し不気味そうに自分の食べていたチョコレートをじろじろと見る。
「じゃあ、チョコレート売り場で女は髪の毛つかんで引っ張り合ったり、殴り合ったりしてんのか」
「女は脚力だよ」
「……じゃあ、蹴り合ってるわけ?」
冗談だってわかってるよね?
「うん。後ろに並んだ人の顔面に振り向きざまに肘を食らわせ、素早く体を回転させてその勢いで脇腹に蹴りを入れて、足を下ろすと同時に身を沈めて下方から顎に掌底を……」
「ノックアウトする必要はねぇだろ!?」
目を見開いて『信じられない……』とウォルターが愕然とする。
「女って怖えぇ……」
いや、だから、冗談だってば。
信じちゃってない!?
どうしてドン引きなの。
「あの、ウォルター、冗談……」
私が近付くとびくっとする。
口が笑った形のまま硬直している。
チョコレートを食べる手が完全に止まってしまっている。
「冗談だからねっ!?」
「……うん、でも、そういうことを言うおまえがちょっと怖かった……」
あら。
「小説で読んだんだよー。そういう描写があったの! それを覚えてただけで……」
嘘ですが。
「それより、ねぇ、ウォルター。聞いてみたかったんだけど……あの94本の赤いバラの花のつぼみの意味は?」
このタイミングだ。
チャンス。
私は聞きたくてたまらなかったことを、さりげなく『別にそんなに気にならないけどちょっと』を装って訊いてみる。
なんでもない時に真剣に訊くのは恥ずかしかったから。
案の定、訊かれたウォルターもパッと顔を赤くした。
「あ、あれは……」
「うん、あれは?」
気になっちゃってるんだ。
どんな意味でくれたのか……。
私の出したふたつの答えのどちらが正しいのか。
『私のことを愛らしいとずっと思って』くれてるのか、『愛らしい私とずっと一緒にいたいと思って』くれてるのか、どっち?
少しうつむいて目をさまよわせていたウォルターが怒ったような顔で口を開く。
「それは……」
答えの続きはチョコレート味のするキスでした。
『依理愛とずっと一緒にいたい』
離れた唇がそう動いた。
(おしまい)