ウォルター夢(依理愛)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ(ウォルター高校生)。
主人公は普通の学生の女の子。
内容:ウォルター夢。
カレカノの間柄。甘々。乙女心たっぷり。
名前を変換しない場合『依理愛(いりあ)』になります。
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それは、クリスマス数日前のことだった。
「ごめん、依理愛!!」
私はいきなり頭を下げられて戸惑う。
パンと手を合わせ、私を拝むようにして、いつも長い前髪のせいで半分くらいは隠れ気味の顔を完全に見えなくして真っ赤な頭だけを見せている相手……私の彼氏様……ウォルター。
軽く、なにげなく、ただ『クリスマスのことなんだけど……』と言ったとたんに、これ。
どういうこと?
謝られても……。
しかもそんな全力で。
「えっ、ちょっ……どうしたの? ウォルター」
「悪い、ホントにごめんな、依理愛。謝るからさ!!」
「え、いや、その……ええと……?」
道端で立ち止まったウォルターはそのままその場でひざまずいて土下座でもしそうな勢いで。
それも地面に額をこすりつけて謝りそうなほど。
これは……それくらい悪いことしたか、悪いことするか、どっちにしても許してもらいたいことなんだろうなぁ。
とりあえず。
「ねぇ、いいからさ、顔上げてよ。人が通りがかったら何かと思われるじゃん。恥ずかしいでしょ。それで、ちゃんと説明して。なに!?」
ゆっくりとウォルターが顔を上げる。
半分くらいで止めて、赤い前髪の間から、上目遣いにじっと私の顔を見る。
そして、言いにくそうにもごもごと言った。
「依理愛……怒るんじゃねぇかと思ってさ」
「言ってくれなくちゃわかんないよ、怒るかどうか」
「んー……。いーや、怒るね」
「だから言ってってば」
決めつけて、なんだかすねたみたいな笑い……鼻で笑うみたいな……を見せて、ウォルターは完全に曲げていた腰を戻し、真っ直ぐに立つ。
そして、その笑みを浮かべたことが間違いだったかのように申し訳なさそうな顔になると、そっぽを向いてぽりぽりと頭をかいた。
「あー……」
口をぽっかり開けて気の抜けた声での発声練習。
何をどう言えばいいのかまとめているみたいな。
私はなんだろうと訝しく思って待った。
……たぶん、クリスマスのことなんだろうけど……。
チロッと横目でうかがわれる。
私はなんとなくムッとして口をとがらせる。
「なに? もう、さっきから。どうしたの? 怒らないから、言ってみて」
さっとこっちを振り向いて、ウォルターは眉をひそめて悲しげな、まるで落ち込んだみたいな顔をして、小さく低く暗い声を出した。
「……クリスマス、なんだけど」
「うん」
うんうん。
それはわかってる。
でも、なに!?
ウォルターは落ち着かない様子で『あー』とか言いながらまたそっぽを向く。
そして、そのままで投げつけるみたいにして言った。
「俺、クリスマスイブは教会の手伝いがあってさ。夜にパーティーがあって、昼はその準備。翌日は後片付けがあって、……午前中に。それで午後は仲間と約束があったり……して……」
「……」
何を言えばいいの?
私は呆然。
つまりなに!?
クリスマスイブもクリスマスも全然ちっとも少しも空いてないってこと!?
「ええ~っ?」
「ごめん!!」
思わず漏れた非難げな声に、ウォルターがもう一度しっかりと頭を下げる。
いや……ええと、待って、24日は午後から教会の手伝いでクリスマスパーティーの準備、夜はパーティーで、25日の午前中はパーティーの後片付け、その後の午後は仲間とパーティー!?
クリスマスほとんど教会にいるってわけかー……。
……あ、ダメだ、これは。
呆れてうんざりとして黙りこんでしまった私に、顔を上げたウォルターが慌てた様子であたふたとして言う。
「あっ、でもさ、24日の午前中と、あと夜のパーティーが終わった後の時間なら……ちょっとは余裕あるぜ」
このぉっ……。
私はムスッとして恨みがましい目でウォルターを見上げる。
……24日の午前中、って……そんな早い時間の、しかも少しだけしか会えない恋人同士って……ううん、それもありかもしれないけど、ずいぶん、なんていうか……健全だなぁ。
早朝デートって、なんだかおじいさんおばあさんみたい、とかって(冗談だけど)。
……でも24日の夜って、教会のパーティーが何時までかわからないけど、とにかく夜なんだよね。
それから会うのって、今度は反対に、なんていうか……。
ク、クリスマスなんだしっ、とは思うけど!!
なんか大事にされてない感じ……。
なんか嫌だなぁ。
「クリスマスパーティー、何時までなの?」
一応確認。
「9時半までだけど」
あっさりと答えるウォルター。
9時半までだって。
それから会えるのはたぶん10時くらいで、って……。
しかも朝には予定があるからすぐ帰るってことで……。
ダメだよぅ。
私はがっくりと肩を落とした。
しょんぼりとうつむく。
『あっ』とウォルターが何かいいことを思いついたという風に声を上げた。
「依理愛、おまえも来ればいいんじゃねぇ? 教会はアレだけど、25日の仲間内でのパーティーにさ」
「ウォルターのバカッ!!」
「ええっ、何いきなり!?」
もうもうっ、バカーッ!!
何もわかってないんだから。
なんで仲間とひとまとめにするのっ。
ふたりっきりで会いたいに決まってるじゃないのーっ!!
ムカつくっ!!
ぷいっとそっぽを向いて言う。
「25日、私は家族とお祝いするから」
チラッと見ると、あーなんだ、っていう風にウォルターがあからさまに安堵にホッと胸を撫で下ろしてる。
もーっ、バーカーッ!
……無理だよね。無理なんだ。
クリスマスイブ、一緒に過ごせないんだ。
ちょっとした憧れがあったんだけどなぁ。
でもまぁ……しょうがないよね……教会の手伝いって、いいことっていうか、大事っていうか、少なくともウォルターにとって大切なことだもん。
うーん、クリスマスを祝うなら、教会でクリスマスパーティーとかなんだよね。
あるいは家族そろって……みたいなのかなぁ。
恋人たちがロマンチックに過ごす日とかじゃなくて。
たぶん、きっと、だから。
仕方ないよね、私のほうが間違ってるよね、優先されたいなんてわがままだよね、と自分で自分を叱ってみるけど……。
やっぱりダメ。
許せない!!
そんなのヤだ。
ぷくぅっと頬をふくらます。
まぶたがますます下がってジトッとした嫌な目つきになる。
それを自覚する。
わがままなんて言いたくないけど、嫌われるのは怖いけど、そんな醜い自分も嫌いだけど……。
でも、やっぱり、怒っちゃってるんだ。
それはどうしようもない。
だって、だってさ、一緒に過ごしたかったんだもん。
楽しみにしてたんだもん。
諦めなきゃいけないなんて……。
「依理愛ー……」
なんとなく情けない声でウォルターが呼ぶ。
わかってるよぅ、でも、自分でもどうにもできないんだもん。
クリスマスに会えない恋人なんて……。
そんな淋しい思いしなくちゃいけないなんて。
ひどいよ。
しかめっ面で、目を嫌そうに細めて、怒りで熱くなった頬はたぶん真っ赤で、口はへの字に歪めていて……今、さいっこうに可愛くない顔してるから、私はウォルターを見ずに地面をにらみつける。
……ちょっと泣きそう。
怒ってないと、泣きそうだ。
涙が……。
泣いてたまるかって、グッとこらえる。
「なあ、依理愛」
ウォルターの手がぽんと私の頭に乗る。
それから、その手は私の肩に乗り、もう一方の手が腕をつかんで、引き寄せられる。
私は抵抗する暇もなくウォルターの胸にぽふっとおさまる。
ぎゅっと抱きしめられた。
「……ちょっ、ウォルター」
「ごめん、依理愛。けどさ」
よしよしするみたいにウォルターの手が私の背中を撫でて。
何すんのって、フツーなら、こういう場面ならふざけて怒ってみせたりするんだけど。
そんな気になれなかった。
私をなだめる手がやさしい。
低くておだやかな気持ちの良い声が頭上から降ってくる。
私の体を包み込むウォルターの温もり。
「ちょっとの時間しかいられないけど、会いに来るから。午前中と、あと夜もな。抜け出せたら、その他の時間にも会いに行くから。依理愛。だから、な?」
私は涙目でウォルターを見上げる。
「……うん」
うん、それなら、いいや。
ちょっとでもたくさん会えるならいいや。
涙でぼやけたウォルターに向かって微笑むと、ウォルターも笑う。
それはちょっと胸が痛くなるような、カッコイイ大人の笑顔で。
胸がキュッと苦しくなる。
「約束だよ、ウォルター」
「おまえもちゃんと俺のこと待ってろよ、依理愛」
「もっちろん!」
ふたりでニコッと笑った。
+++++
当日、あの後『お金がないからプレゼントも高いやつ買えないかも』なんて言ってたウォルターは、24日の午前中にケーキを持ってやって来た。
正確にはケーキじゃない。
ドン! と彼氏様がテーブルに置いたのは、『お菓子で家を作ろう!』みたいなこども用のおもちゃみたいなもので。
クッキーやビスケットやチョコレートを組み立ててお菓子の家を作るものなんだけど……。
「前にケーキ屋に飾られてたお菓子の家、可愛い、欲しいなぁ、っておまえ言ってたじゃん。ほら、食べてみたい、って」
だって。
ケーキは買ってくるからなんて言うから、期待半分、不安半分で待ってたんだけど。
これってクリスマスのケーキじゃないじゃん。
しかも作らなくちゃいけないんじゃん!
……まぁ、楽しいからいっか、って。
クッキーとかの家の材料だけじゃなくて、そのキットには、マシュマロやキャンディにデコレーション用のカラフルなチョコペンまでついてる。
それにしても、お菓子の家を作ってクリスマスを過ごすカップルかぁ……。
……うん、それも可愛くていいかな、なんて……。
照れる。
でも、必要な材料の別売りの生クリームを買ってないウォルターにがっかり……なんて、そういうこともあるかと思ってケーキの材料は一応用意してたのだ。
ウォルターがケーキ用意できなかった場合に備えて。
どうだっ!(えっへん)
……というわけで、その年のクリスマスは、ふたりで生クリームでべとべとになりながら、お菓子の家を作ってすごしました。
……で、夜だけじゃなく、パーティーの準備の間も抜け出して、25日も結局仲間に言われて早めに切り上げて会いに来てくれて、短い時間だけど5回も会えた。
幸せなクリスマスだったことは間違いない。
そう言える。
そうそう、クリスマスカードをもらったんだ。
そういう習慣があるんだなぁ……。
私、そんなの知らなくて、あげなかったんだけど。
サンタさんやトナカイの絵の書かれた可愛らしいカードで。
「メリークリスマス、依理愛」
たったそれだけが、とってもうれしかったんだ。
(おわり)