ウォルター夢(依理愛)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ(ウォルター高校生)。
主人公は普通の学生の女の子。
内容:ウォルター夢。
カレカノの間柄。甘々。乙女心たっぷり。
名前を変換しない場合『依理愛(いりあ)』になります。
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……何がキッカケだったかなぁ。
思い出せるのは……。
私はぼんやりとチラシを眺めていた。
傍には彼氏様が寝っ転がっていて。
『ダリぃー……』なんてぼやいてる。
カレシであるウォルターは人の部屋で炬燵に足を突っ込んで仰向けに両手を広げた状態で倒れて、時々駄々をこねるみたいにして頭を左右に振って赤い髪の毛を乱して、またピタッと止まると天井をにらんで『ダリぃー……』と言う。
『何してるの?』『何もしないをしてんの』というやりとりはもう済ませた。
人の部屋でそれは……とも思ったけど、今日はいろいろあって疲れてるのを知ってたから、許した。
会話をしなくても苦しくならないこのカンジが私も好きだったし。
ちょうどいい温度のお風呂に入って『ほぉー……』みたいなやすらぐ時間。
ふたりの間に流れる空気は張り詰めてもいなかったし、かといってゆるすぎもしなかった。
つまり、お互いがどうでもいいからかかわらない、とかじゃなくて。
『これでいい』ってカンジだった。
それで私は四角い炬燵の彼氏様の隣に……何故ならウォルターが横になって足を突き出してしまっているせいで向かいには座れなかったから……正座してチラシを手に取っては眺めてたわけで。
実は、お金にあまり余裕のないウォルターのために、近所のスーパーで特売かなんかやってないかなぁなんて、思って、チェックしていた。
本を読むっていう選択肢もあったんだけど。
そういうわけで、大量の今朝届いたチラシを片っ端から確認していた。
すると、『安い』がウリのたいていのチラシの中に、ブランド店どこそこにオープン、のチラシを見つけた。
それらしくフルカラー……主にゴールドとシルバーとショッキングピンクとを使った……キラキラした光の模様に縁取られたまぶしいそれは嫌でも目に入った。
ちょっと興味を持って見てみた。
ブランドのロゴくらいしか入ってないTシャツが6万、シンプルなカバンが10万、ただのサイフが5万円……?
何も宝石がついていないアクセサリーが3万円……!
高!!
その時ウォルターが起き上がった。
ウォルターは私の見ているチラシを覗き込むと、『依理愛、こういうの興味あんの? 欲しいとか?』と真剣に訊ねてきた。
……冗談じゃないっ!!
その口調は、なんていうか、いかにも『それなら俺が買ってやるよ』とでも軽く言い出しそうで……。
私は(大げさだけど)戦慄したと言ってもいい。
ちょっと待ってよ、そんなお金ないでしょ、何バカなこと言ってるの?
……ってことを、やんわりと伝えた。
「そりゃあ、可愛い服はいいなと思うけど、特にブランドにこだわりはないなぁ。こんな高くなくても、そこら辺のお店でも可愛いのいっぱいあるし、今持ってる服でじゅうぶん足りてるし……。それに、そんなことにお金かけなくても、もっと必要なことがあるじゃない?」
幼いこどもに言い聞かせるようにやさしく微笑んで言う。
じっと怖いくらいの真顔で私のことを見つめていたウォルターが、不意に険しい顔をして、プイッと顔を背けた。
……あれ?
「ああ、そうかよ」
納得したという返事だけれど、妙にムスッとしていて。
もう私のほうを見ようとしなかった。
……あれも、いや、あれが最初だったかもしれない。
+++++
それからある日のデート中。
カップルの特典は露店とかを堂々と見れるとこだよね。
女の子同士でも見られるけど、ちょっと恥ずかしいし、それに……。
ひやかしに見えるだろうし、実際『買いなよー』『えーでも』『似合うよー』『そっちは買わないのー?』『えー』『……やっぱやめとく?』みたいなやりとりになってしまって……買う勇気がいるから押しつけ合うのかな……、お店の人に悪いし。
その点、男の子といると、気後れがしない。
だからって、まぁ、カレシと一緒なら必ず買うってわけでもないんだけど……。
動物園での帰りに見つけた露店は、キレイなアクセサリーがいっぱいで、ウォルターに頼んで待ってもらって、立ち止まって眺めたけど、どれもものすごく高い。
材料だけじゃなくて、細工が細かいからかな。
こういう店にしては驚くほど高い。
花束がハート形をしていて下に小さい十字架のついたシルバーのネックレス、可愛いんだけどな。
自分のお財布と相談するまでもなく、とても手が出そうにない。
と、その時、彼氏様が横からひょいと顔を出した。
そして、その私の見ていたアクセサリーを、サッと手に取ろうとする。
「依理愛、コレ?」
ダメーッ!!
瞬間、大声を上げそうになった。
私は慌ててウォルターの手を止める。
そしてぶんぶんと首を横に振った。
「あ、いいのいいの。高いからいいの。ホントに全然そんな……っ」
「遠慮すんなって」
「いやいや、ダメ、やめて。いいよ。いらないから」
「……なんで? だって依理愛、コレ欲しいから見てたんだろ?」
……なんでって、どうしてって、だって……それは。
「ウォルター、お金ないでしょ。ムリしなくていいよ」
一瞬にして彼氏様の顔が強張った。
あ……。
しまった、焦ったあまり、キツい言い方しちゃった。
ああ……と思っていると、案の定、ウォルターが死んだ魚のようなよどんだ目をして、つまらなそうにそっぽを向く。
「……ああ、まあ、そうだけどさ」
けどさ……と唇をとがらせてなんだか言いたそうにして、中途半端でやめて、口をつぐんでしまう。
私は後悔して下を向いた。
「あの……ごめんなさい」
「いいけど、行こうぜ」
スッと離れて行ってしまう。
待って、と言いたいけれど、追いついて腕をからめて、何か言って……。
この気まずい空気を直したいけれど。
そんな無神経なことできない。
女の私にもはっきりとわかる。
……プライド傷つけたんだー……。
そんなことが何回か続いたある日。
+++++
お休みの日のデートの待ち合わせ。
例によって……なんて言うと怒られるけど……不運に愛されてるウォルター君は遅い。
それは冗談として……。
たぶん、片付けが苦手で、部屋が散らかっていたり、カバンの中がぐちゃぐちゃだったりするせいで、出るのにも時間かかるし、財布ひとつ取り出すのでも時間がかかるから、何もハプニングなくても遅れてくるんだよね。
そう思って自分を落ち着かせる。
大丈夫、大丈夫、きっと来るから。
ここのところうまくいってなくてそのことでもちょっと心配。
急に来れないとかメール来たらどうしよう……。
泣いちゃいそうだな。
……って、重いか。
今から暗い顔してどうするの。
私は側にあったお店のガラスを覗き込む。
眉をぎゅっと寄せてうつろな眼をして口の両端を下げた可愛くない顔が映る。
ヤバい。笑顔でいなくちゃ。こんな顔見せらんない。
ふと落とした目にショーウインドーに並べられた商品が入る。
……ああ、宝石店だったんだ。
改めて商品を見て気付く。
ネックレスや指輪にまじって中にブレスレットが置いてあった。
やさしい淡いピンクの石を中心に銀の小さな花のついた細い可愛らしいブレスレット。
パワーストーンらしく、カードが添えてあって、意味は『おだやかな気持ちになれます』だって。
こういう宝石店……ネックレスや指輪なんかすごく高い……なのに、そのブレスレットは比較的安い。
うーん……。
でもな、こういうブレスレットって日常でするかな、だからってオシャレでするってカンジでもないし。
……可愛い、けど……。
迷って、しかめっ面で、ガラスの向こうのブレスレットとにらめっこ。
「悪い、依理愛! ごめん、遅くなった……!! ……ってか、あれ、何してんの?」
私はきょとんとしてウォルターを見上げた。
急いで走ってきたらしいウォルターは勢いよく謝ってすぐに興味津々、私の隣に立って、私の見ていたショーウインドーを覗き込む。
私もなんとなく考えに沈んでいたから、いつもみたいに『遅ーい!!』と怒ることも忘れて、ブレスレットに視線を戻す。
……ちょうどいいや。
どう思うか、ウォルターに訊いてみよう。
「ねぇ、ウォルター、このブレスレット……」
「欲しいのか?」
即座に……意気込んで……訊ねる彼氏様。
「うん、まあ……」
「ちょっと待ってろ」
言うなりお店に入って行こうとする。
えええっ?
私はウォルターの服の端をがっしとつかんだ。
ちょっと待った!
「どこ行くの、ウォルター?」
「どこって……そのブレスレット買ってくる」
店の中を指差して平然とそう答えるウォルター。
えーっ、でも、それはちょっと……。
私は慌てた。
「いいってば。私でも買える値段だし。っていうか、迷ってて……」
……あ。
ぐいっ。
急にウォルターが振り向いて、私の両肩をつかみ、強い力でその場に押しつけるようにした。
眉間に皺を寄せて、目をつり上げて、威嚇するみたいに歯をむき出しにして。
ジロッと私をにらんで、きっぱりと言った。
「依理愛、いいか、ここにいろ」
そして自分はスタスタと店の中に入って行ってしまう。
……もうっ、なんだよぅ……。
私は言われた通り、店の前で待った。
やがて出てきたウォルターが、店の紙袋を私に突き出す。
「ハイ! 受け取れ、依理愛」
有無を言わさぬ強い調子にしぶしぶと袋を受け取って中を見ると、箱に入って見えないもののそれはやっぱりどうやらあのブレスレットで。
どうしよ……。
だってこれ……。
私が欲しいとかつい言っちゃったから……。
「……ウォルター……」
ちょっとしょんぼりして見ると、怒ったように口をへの字に曲げていたウォルターが、キッと鋭い目つきで私を見て大真面目に言う。
「依理愛、あんま男に恥かかせんな!! カノジョに欲しいもんのひとつも買ってやれないようじゃ情けねぇだろ!? 大丈夫だからそんな顔すんなって。その……気にしないでうれしそうな顔してりゃいいんだよ、依理愛は。おまえのためなら破産したっていいぜ、俺は」
「バカ言うな」
「えっ、何いきなり、冷たい!!」
……だって、だって、他に何を言えばいい?
もうっ、こんなバカ見たことないよー。
私はキャバ嬢じゃないやい。
「こ、これはともかく、高いものはダメッ。私、そんなムリしてもらっても、うれしくないから」
「俺からプレゼントもらっておまえはうれしくないわけ?」
「う、うれしいよ。それはうれしいけど、でも……っ。ウォルターにムリしてほしくないの。だって私もつらいもん。それだけ!」
わざと口をとがらせてツンとそっぽを向く。
「依理愛、こっち向けよ」
うーん……。
実はちょっと怒ってたり。
だって全然わかってないんだもん。
でも気になって目だけ向けると、ウォルターがニヤニヤ笑ってる。
うれしくてたまらないというように。
「それ、貸して」
袋を指差して言うから、なんだろうと思いつつも、差し出した。
……やっぱり、お店に返すのかな……。
残念なような、ホッとするような……。
鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌な様子のウォルターは、紙袋の中から箱を取り出して開け、中からブレスレットをつまみ上げると、私の左手を取って、それを手首にはめた。
私はびっくりしてそれを眺める。
あ、ぴったりのサイズだ、よかった……なんて、ふと思ってしまった。
そんな場合じゃないじゃん。
ウォルターの手がまるで王子様がお姫様にするように私の手を乗せたままで。
「ウォルター、なに……?」
戸惑って彼氏様を見上げると、なんだかまぶしそうに細めた目で私を見ている。
目が合うと、二カッと笑って。
「依理愛、よく似合う」
ドキッとした。
……あ、そういえば、忘れていた……。
最近ちょっとウォルターはカワイイなとばかり思ってたんだけど、カッコイイんだよね。
男らしいとこあってさ。
こどもっぽいとこあるから、ついつい母性本能くすぐられちゃって、母親がこどもにするように『ハイハイ』ってやっちゃうけど、こういう時、男の人なんだ……って。
手に触れられてる、っていうか、傍にいる。
それだけなのに……それだけでも……。
ドキドキ。
心臓がヤバい。
私は真っ赤になってうつむいた。
たぶん熱いから耳まで真っ赤。
その耳にからかうような笑いを含んだ低い声が届く。
「今度は指輪のサイズ教えろよ、依理愛」
(おしまい)