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「アンディ、無事か!?」

 ガチャッ。

 チャイムを鳴らして家の主の応答も待たずに自分で玄関を開けて勢いよく飛び込んできたウォルターをバジルは不機嫌面で迎えた。

「よぉ」

「バジル! アンディは!!」

 ウォルターは投げ出すように靴を脱ぎ、バジルを押しのけるようにして家の中に入る。

「てめぇは……」

 バジルは不満をいっぱいに顔に出してその背中を追いかけて振り向いて腕をつかんで止めてにらみつける。

「挨拶も無しか! 失礼なヤツだな。ここが誰の家だと思ってる!?」

「あっ、ごめん、バジル! 悪い!! で、アンディは?」

 バジルは『はあぁ……』と大きくため息を吐いた。

 とはいえ、ウォルターが焦っているのには、バジルにも原因がある。

 ウォルターに電話をかけたアンディは、『あ、もしもし』『元気?』『最近どう?』『今何してる?』『別に用ってほどでもないけど……』となかなか本題に入らないので、もどかしくなったバジルが横からケータイを取り上げ『アンディが大変だ!!』とわめき散らしたのだ。

 最悪の状況を訴えた。

 『今すぐ来い、どうなっても知らねぇぞ!!』と。

 それからバジルはアンディに『吐くな、まだ吐くなよ……』とプレッシャーを与え続けた。

 今さらプライドを保とうとなんでもないフリをしようとしたアンディに『のんきにしやがって』と呪いをこめた目でにらみ据えてずっと。

 ガクガクしながらアンディは頑張った。

 もう限界なのも事実だ。

 だから、バジルはそれ以上の文句を言わず、しぶしぶとウォルターを『こっちだ』とトイレに案内した。

「ああ……ウォルター……うっ」

 げっそりとしたアンディが、それでもなんの感情もこめずにトイレの中から振り向いてウォルターを見て、それからまた口を押さえた。

「あれっ、わりと平気そう!?」

 慌てていたウォルターが平然とした無表情のアンディに一瞬びっくりしてすっとんきょうな声を上げる。

「平気じゃねぇよ」

 バジルは冷たい視線と言葉をウォルターに投げた後アンディに向ける。

 どこがだ、と。

 顔は青いし、眉根はきつく寄せられているし、目はうつろだし、苦しげにあえいでいるし、ぶるぶると震えているしで。

 それでも意地で立っているところは尊敬できるが。

 今さら見栄を張ってどうする、と、バジルは険しい顔になる。

 もうみっともないところは見ているし、これからウォルターにも見せるのだろうし。

 付き合っていられない。

 バジルはそう思って背を向けた。

 『大丈夫か』とさっそくトイレに入ってアンディの体を支えるように肩を抱いて背中をさすり出したウォルターを確認して。

「汚すなよ」

 振り向いて一瞥してそう言ったバジルに、振り返ったウォルターが不思議そうな顔で言う。

「なんだ、行っちまうのか?」

「は!?」

 バジルは驚いてガバッとそっちを向いて怒鳴った。

「なんなんだ、てめぇらは!? 見たくねぇんだよ!! ったく、アンディのせいでこっちまで気持ち悪くなってきてんだ!! 俺も吐きそうなんだよ、わかれよ!!」

 くわっと目を見開いて必死の形相なバジルに、アンディとウォルターが揃って『あ』と口をぽかんと開ける。

「……ごめん、バジル」

「……なんか、悪いな、バジル」

 呆然としていたアンディとウォルターが暗く沈んだ表情で申し訳なさそうに重く言う。

「そんな繊細なんだ……」

「もらいゲ*……」

「言うな!!」

 またふたりを大声で怒鳴りつけてキッとにらみ背を向ける。

「くそっ!」

 バジルは踵を返してドタドタと足音荒く大股で早足でその場を去る。

 居間に飛び込むようにして逃げ込んでキッチンに駆け込んだ。

 何も本当に吐こうというのではない。

 気持ち悪いことは確かだが。

 それを振り払うようにスポンジを手に取り洗剤をいっぱいつけて流しに置いておいた食器をガチャガチャと音を立てて洗い始める。

 ごしごしごしごしと皿の汚れをぬぐう。

 キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ、キモイ……。

 胸の中でそう繰り返しながら。

 潔癖症には想像するだけでぞわっとして耐えられない汚さだ。

 吐いているところを想像するだけで『うっ』となる。

 決してアンディが悪いわけではない。

 そこで、はた、と手を止める。

 いや、やっぱり、全面的にアンディが悪いか。

 そう思い直して、脳内の想像も一緒に消そうというように、キュッキュッと皿を一生懸命に泡立つスポンジでこすった。





(つづく)
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