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新たに提案された指相撲はバジルが却下した。
リバーシは弱いアンディによって却下された。
結局、特に何をするでもなく、ふたりきりでまただらだらと飲みながら話し……基本一方的にアンディが話し……続けて、時が過ぎた。
「あれ? バジル顔赤いよ」
『あん?』と据わった目でバジルはアンディを見る。
不思議そうな顔をしていることを不思議に思い……これだけ飲み続けていれば赤くもなる……目の前の自分よりはるかに大量の酒を流し込みながら見た目はとにかく何も変わらない相手をにらみつける。
そしてムスッと不機嫌そうに言う。
「おまえだって酔ってるだろ」
アンディはきょとんとして首を傾げる。
「んー……。どうかな。わからないんだよね」
あっさりと吐かれた言葉に震え上がってバジルはケッと吐く。
「うわばみか」
缶を持ったままアンディは人差し指を立ててバジルに向ける。
「あ、ソレ知ってる。お金を家に投げ込んでくれるんだよね」
「何の話だ。ってか絶対に違う。そういう話じゃねぇ」
「知らない? 昔話でさ、旅人が……」
云々。
ぺらぺらぺら……。
物語を説明し終えてアンディは満足そうに息を吐く。
「幼稚園で聞いたんだよね。確か。あの頃は楽しかったなぁ」
顔を上向けて目を閉じてうっとりとしたように目を閉じる。
バジルは多少回ってきた酔いでぼんやりし始めた頭を必死に働かせる。
変なことを言わないようにしないようにと理性を総動員して堪える。
気を抜くとへらへらと笑って『そうだな』なんて言いかねない。
不満顔が変わらないように思い切り眉間に皺を寄せて返す。
「俺はてめぇの失敗談くらいしか覚えていないが」
アンディが呆れ顔を向ける。
「あのねぇ……」
「言ってやろうか? 予防注射の日に嫌がって先生を倒して逃亡して……」
「なっ……」
「遠足の日に山ではぐれて迷子になって山中に迷子放送され……」
「やめろよ!」
アンディがぶんぶんと首を振って慌てた様子で手でバジルの口を押さえようとする。
バジルはいったん口を閉じた。
悔しそうに顔を赤くして歯噛みするアンディを楽しくバジルは眺めて上から見下げるような目で見て言う。
「もっと言ってやろうか?」
「人がせっかく楽しんでお酒を飲もうっていうのにバジルはどうしてそういうことを……っ」
怒りに目を三角にして拳を作ってぶるぶると震えるアンディがとても面白い。
気分がいい。
バジルは満足げに笑った。
それはアンディの目にはせせら笑いに見えただろう。
ぷくっと頬を膨らませて涙目で恨めしそうにバジルをにらむ。
「うー……」
バジルが目を合わせてまたニヤリとすると、アンディはぷいっとそっぽを向いて缶の中身を勢いよく飲んだ。
ドンッと缶を置くと、すっかりすねた様子で、椅子の背を抱いてぶつぶつとぼやく。
「いいよ、いいよ。ボクだってバジルの弱点知ってるから。汚いのダメなくせに。人前でそういうこと言ったら部屋に生ゴミぶちまけてやるっ」
無視できない言葉にバジルはビクッとして眉を跳ね上げる。
「ああ?」
くわっと目を見開いてアンディを見る。
「なんだと?」
つーんとしてアンディは聞こえないフリで背を向けたままだ。
「おいコラ、アンディ! こっち向け!!」
怒鳴られても知らん振りで椅子の背もたれに抱きついて右に左にと体を揺らしている。
「……っ!」
イラァッとしてバジルは険しい顔でアンディをにらみながら新たな缶を取って開けてやけであおった。
アンディは寝ているかのようにぐったりとして動かなくなった。
ふたりの間を険悪な空気が漂い重苦しい沈黙が埋めた。
しばらくの後。
アンディが椅子の背を離して気怠げにゆっくりとした動きで振り向いて、バジルをジトッとした目で見た。
その何か言いたげな目線にうるさそうにバジルは顔をしかめてしぶしぶといったように訊いた。
「……なんだよ?」
真面目な顔で大きな丸い目でバジルをジッと見つめた後、アンディは急にまぶたを半分下ろして目を据わらせて、一気に顔を青ざめさせて苦痛に歪め引きつらせて、片手で胸を押さえ、もう片方の手で口を押さえ、苦しそうにあえいで言った。
「吐きそう……」
『はっ?』とバジルはきょとんとする。
何のことかといきなり過ぎてわからない。
アンディはそんなバジルにも構わず容赦なく続ける。
「気持ち悪い、うっ、吐きそう……」
前かがみになって、ガタガタと震えている。
いかにも苦しそうに、つらそうに、もどしそうに。
呆気に取られて見ていたバジルはようやく理解ができて同じくらい青ざめた。
「ちょっと待て、アンディ、おいてめぇっ……!!」
(つづく)
