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 マンションの部屋の中で一番大きな部屋……居間……に戻って、テーブルを見てバジルはまた呆然として立ち尽くす。

 小さなテーブルの上に酒の缶やら瓶が林のように並んでいる。

 ご機嫌の様子のアンディがビニール袋から次々と酒を取り出して置いている。

 トンッ、トンッ、トンッ。

 見る間にテーブルが埋まっていく。

「何してんだ? てめぇ……。ってか、何かあったのかよ」

 肩を落としてうんざりとしてバジルは疲労を声ににじませて言う。

 何をしているのかは聞かずともわかる。

 問題はその次だ。

 っていうか前。

 振り向いたアンディはきょとんっとして目を丸くして言った。

「え? 何も。ただお酒飲もうと思って。バジルと」

 当然のように言われたそれにバジルは頭痛を覚えて顔をしかめた。

「『何も』って……。何もないのにこんだけ大量の酒買ってきて他人ん家に断りもなく上がりこんで他人巻き込んでここでこれから飲もうってのか!」

「何か悪い?」

「悪くない要素が何もねぇわ!!」

 とぼけた顔に向かって思いっきり嫌そうな顔で低い声で脅すように言えば、アンディはしばしバジルを真顔でじっと見た後、ぷいっと顔を背けた。

「あ?」

 その行為にますます険しい空気を噴出したバジルに、アンディは酒の缶に人差し指を置いて右に左にと傾けた後で、目だけ上げてチラッとバジルを見てすねたように言う。

「いいじゃん、別に。暇してたんでしょ? 誘ってあげてるんじゃないか、一緒に飲もうよって。たまにはさ。コレ全部ボクのおごりだから」

 顔を上げて振り向いて、まだ突っ立ったままのバジルを目を半眼にして、じっと見つめる。

 物言いたげに。

 これで断ると本格的にすね始める。

 バジルはそう直感した。

 そうなると面倒だ。

 やれやれとわざとらしく大きなため息を吐いて、しぶしぶと歩き出し、付き合うためにテーブルの近くまで行って、少し離れたソファに埃が立たないよう静かに腰を下ろした。

 そんなことをしなくてもいつもきれいに掃除しているが。

 それを見たアンディが不満そうに眉根を寄せる。

「ねぇ、このテーブル退けて、床に座って飲もうよ」

「それだけは断る」

 断固として首を横に振ると、アンディがムスッとして、恨めしそうな目でバジルを見る。

「一緒に飲んでる感じがしないよ。そのソファ一人用じゃん。せめてこっちに来てよ」

 はぁ……とため息を吐いた。

 計3度目のため息。

 バジルはゆっくりと腰を上げた。

「いいか? 床には座らねぇぞ。テーブルも動かすな。まったく、他人ん家で勝手しやがって……それ以上は許さねぇからな! わかったか? アンディ!!」

 人差し指をアンディのほうに突きつけて怒鳴ると、バジルの剣幕に構わずまったく平然として、アンディがこくこくとうなずく。

「わかったよ。飲めればなんでもいいよ、もう。でもこっち来て座って、ほら、どうぞ」

 椅子を差し出されて目線だけで殺せるんじゃないかというほど腹立たしさをこめてバジルはアンディをにらみつける。

「俺・の・家・だ!! だからそれが『勝手』っつぅんだよ。学べ!!」

「わかったわかった」

「誠意がこもってないな」

 こくこくうなずくアンディを咎める。

 なだめるような返事にイラァッとくる。

 眠っているように目をほとんど閉じてあごを上向けて見下ろすようにして、アンディは手でテーブルの上の酒を示し、変わらぬ調子で言い放った。

「ほら、ボクはお酒を提供したから、バジルは部屋を提供するってことで。オタガイサマってことで」

 バジルは目をカッと見開いた。

「この世の理のすべてを支配した気ででもいるのか!?」

 胸倉つかまんとばかりにずいずいと近寄って目を据わらせてアンディをにらむ。

 たじたじと後ろに下がったアンディは手を前に出してバジルを遮った。

「えっ、ちょっ、そんなつもりは……。ってか、よくわからない怒り方するんだね、バジルって。何が気に入らなかったの?」

「てめぇの上から目線だ、バカ!! なんでてめぇが決める!? 自分が一番偉いってのか!?」

「いや、待っ……違う、そんなんじゃ……」

「じゃあなんだ!!」

「……急に来たのは悪かったけど……バジルならボクのことよく知ってるし、大丈夫かなって思って……。他の人に迷惑かけたくなかったから……。あの、学校の課題に取り掛かる前に遊んでおきたかったんだけど、じゃないとやる気が出ないから、だけどみんな忙しそうだなって」

 伏せ目がちに、言いにくそうに、少し恥ずかしそうに言うアンディに、バジルの体から一気に力が抜ける。

 強引だったのは断られると後がないからか。

 甘える相手を間違えている。

 ……が、アンディが弱ってることに、バジルはとんでもない喜びを感じる。

 それぐらいいいかと思えてくる。

 自分しか頼れる相手がいないとは。

 なんとなく気分がいい。

 気が緩んでついでに頬も緩ませてニヤリと笑ってスッとアンディの前から退く。

 そしてバジルは椅子を引いて座った。





(つづく)
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