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意地の張り合い






 カツ、カツ、カツ……と階段を慎重に下りる。
 むきだしのコンクリートの階段は地下へと続いている。
 すべって転んだらかなり痛いというのもあるが、なるべく相手に気付かれないよう足音を立てたくなかったのだ。
 そのために、そっ……と右足を下ろして、またそっ……と左足を下ろして。
 アンディはゆっくりだが順調に階段を下りていく。
 だが、途中で人の話し声に気付いて、ピタッと止まる。
 誰かが地下にいる。
 いや、『誰』が地下にいるか知っているけれど、それ以外の誰かが。
 耳を澄まして地下の様子を窺う。
 その話し声よりも先に時間帯を考えてそこにいるであろう人物に思い当たってアンディはハッとした。
 そして別にもうひとりそこにいるだろう人物に見当をつける。
 と、同時に、咎められるだろうかということを考えて眉をひそめる。
 3人目の人物はまず確実にいい顔をしなさそうだ。
 でも、まぁ、ここまで来ちゃったんだし。
 なんとかなるだろう。
 楽観的に考えてアンディは止まっていた足をまた動かした。
 今度は音を立てない遠慮も配慮もせずタンタンと軽く。
 階段を下りていく。



 どうせ元から歓迎されるわけじゃないんだし。





 案の定、3人のうち、ふたりはいい顔をしなかった。
「また来やがった」
 地下牢のバジルは顔を大いに歪めて嫌そうに言って不機嫌そうににらみつけてきた。
 とくに時間帯が悪い。
 間が悪いというか。
 それをアンディは素知らぬ顔で受け止める。
 そして残りのふたりに目を向ける。
「ねぇ、ボクも入っていい?」
 ほとんど無視に近いそれにバジルが怒りの声を上げる。
「おい、まず俺に訊けよ」
 うなるように言われたソレに、アンディはちょこんっと首を傾げて、不思議そうな顔をして返す。
「なんで? 別にバジルの『部屋』ってわけじゃないでしょ? それとも、そんなにここが気に入った?」
 『嫌味か!』と声を荒げるベッドの上に座ったバジルの頭上で、残ったふたりが困惑げに顔を見合わせる。
 皿の乗ったお盆を片手にフォークを握りしめているモニカ秘書官と、そのふたりの傍に立ち監視をしているシルヴィオと。
 鋭くにらみつけ厳しい言葉を返してきたのはシルヴィオだった。
「アンディ、何度も言っていますが、そう度々ここに来ては……」
 アンディはこくんっとうなずく。
「うん、わかってる。しめしがつかない、でしょ?」
 真っ直ぐにシルヴィオを見つめ返して真面目な顔で言うアンディに、シルヴィオが苦い顔でため息を吐く。
 わかっては、いる。
 だが、何故ここに来るのかということを、相手もわかっている。
 それを禁止するわけにもいかないことを。
 少なくとも牢の主ではなくモニカとシルヴィオに訊ねるあたり、アンディは本当にわかっていることを示しているし、そこのところはきちんと筋を通している。
 やれやれとシルヴィオが首を振って壁につけていた背を離してゆっくりと入り口に近付く。
 鋭い目線で背後を見つめたまま。
 その視線の先のバジルがひょいっと肩をすくめる。
 そしてモニカを見上げて言った。
「もういい。いらねぇ。食欲が失せた」
 『誰かの顔を見たら』と嫌らしくつけ加える。
「え? でも……」
 モニカがちょっと残念そうに皿を見つめる。
「まだ少ししか食べてないじゃないですか」
「うるせぇな。こんな人数に囲まれて食事なんかできるか」
「せめてもう少し……」
「しつこいな」
 てめぇも、とバジルは険しく吐き捨てる。
「何食べてるの?」
 その間に牢の中に入って、渋い顔をしたシルヴィオを背後に引きつれて、ふたりのところに近付いたアンディが皿を覗き込む。
「あ、おいしそうだね。いらないんなら、ソレ、ボクにちょうだい」
 慣れた様子で皿を指さして無愛想にボソッと言って『あーん』と大口を開ける。
 フォークにエビを刺したモニカが言われるままアンディの口にそれを近付ける。
 とたん、ぐいっとアンディを肩で押しのけるようにして、バジルがそれを口に入れた。
「あーっ、ボクの……」
「うるせぇ」
 非難げな声を不機嫌に遮って、バジルがムスッと黙り込む。
 必死に口をもぐもぐと動かして。
 ごくんっと飲み込んで、おとなしく待っていたアンディをギロッとすごい目でにらみつけて、責める口調で言う。
「汚ねぇだろうが、俺が今まで使ってたフォークだぞ」
「ボクが言うならわかるけど……」
「使えなくなるじゃねぇか!」
「……もう食べないんじゃなかったの?」
 モニカとの会話を聞いていたアンディは呆れ顔で指摘する。
「気が変わった」
 ぷいっといったんそっぽを向いてから、そのやりとりを見てホッとした様子でにこにこしているモニカがエビをフォークで刺して差し出すのを見て、明らかに不本意にしぶしぶといった体で顔を向けて口を開ける。
 じっと見られていることが気まずいことはわかるのでアンディはわざと横を向いた。
 ベッドに座るとまたバジルがムッとして言い合いになるので立ったままで。
 なんとなくぼんやりと、たまにチラッと横の様子を見て。
 そしてバジルが食べ終わるのをじっと待つ。





(つづく)
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