とある店で
ざわざわざわ……。
集まった人々が思い思いにそれぞれその場を楽しんでいる。
自分たちのやり方で。
ここはある喫茶店兼酒場(バール)。
マスターはまだ年若い童顔の赤髪の男。
ウォルター君。
……さて、その働きっぷりを見てみましょう。
いくつかのテーブルから『ビール!!』だの『ピザ!!』だの声が飛ぶ中。
白いシャツを着て腰に黒いエプロンをしたウォルターは忙しく歩き回っています。
そんな中、カウンター席に一列に並んだ面々が、次々に口を開きます。
アンディ「<レッド・キャット>ひとつ」
ウォルター「トマトジュースでも飲んどけ、この未成年が!! まぎれて酒頼んでんじゃねぇよ、アンディ!!」
シルヴィオ「<ラクリマ・クリスティ>を」
ウォルター「教会に行って聖水でも飲んでろ!!」
コニー「私は<キャンティ>で種類は……」
ウォルター「悪いけど中に入って自分で好きなの取って!!」
カルロ「<カフェコルレット>……」
ウォルター「材料あるからコレで作ってくれ!!」
……こんな調子です。
ちなみにピザやパスタなどの料理は近所の店から取り寄せ。
その注文を取ることや注文することや配ることに忙しいのです。
ウォルター「ダリぃ……」
『後は勝手にやってくれ』というわけで。
「私は<ウイスキー>をストレートでもらえますか?」
「「「「「「!?」」」」」」
みんながびっくり仰天して相手を見ます。
発言者はモニカさん。
顔を赤くして首をすくめて照れ笑いをします。
モニカ「……冗談です。じゃあ、私も<キャンティ>を」
「「「「「「……」」」」」」
え、今のホントに冗談だったの……? の、場の沈黙。
マスターはそれでも一応客商売であることは認識しているらしく、視線を宙に向けて取り成すように言います。
「ああ、冗談ね。コニー、ついでに取ってやってくれ」
『なんで私が……』とぼやきながらカウンターの中に入って<キャンティ>を手に戻るコニー。
ちなみにグラスはさすがにみんなの前に出されています。
エスプレッソマシーンを使ってそこにリキュールを入れてさっさとモニカに<カフェコルレット>を作ってもらっていたカルロ。
女性ふたりの前には<キャンティ>の入ったグラス。
ぽかんとしているアンディとシルヴィオ。
自分の番を黙って待っているジョゼフをジロリと見るウォルター。
「……ご注文は?」
ジョゼフがあいまいに微笑む。
「……なんでもいい」
『口に合うものなら』。
ザワ……ザワ……。
アンディ「ジョゼフの口に合うもの……」
シルヴィオ「……沼色のアメをそのまま溶かしてはどうですか?」
コニー「本能的に人はマズいと感じるものを避けるけど、ジョゼフは毒でも飲みそう」
ウォルター「俺に毒杯を作れってか!!」
モニカ「アンディの頼もうとした<レッド・キャット>の沼色版ならいいのでは……?」
カルロ「じゃあ、アンディが作ればいいんじゃないか」
アンディ「え……」
ウォルター「アンディ、パス!!」
アンディ「ええええ……」
場所をゆずられたアンディ。
「沼色……沼……沼の色……」
沼:底が泥で藻なんかが生えてるところ。
アンディはごそごそと料理用の材料の中から緑色の物を取り出しました。
バジル、イタリアン・パセリ、ローズマリーなどのハーブです。
それをミキサーにかけました。
そして、なんとなく置いてある様々な瓶を取って中身をそのままグラスに投入、混ぜ合わせました。
トン、とジョゼフの前に置きます。
「どうぞ」
「おお」
ジョゼフが嬉しそうな顔をします。
「「「「「……」」」」」
見事な沼色……深緑で濁っていてなんか下の方が黒っぽい……に他のみんなは蒼白。
仲間が見守る中、ジョゼフがグラスを持ち上げて、中身を一口飲みます。
……うまいハズがない!!
みんなの心の声が重なります。
ですが、一口飲んだジョゼフは、満足そうに中身を飲み干しました。
「うまいな、コレ。アンディ、すごいじゃないか。ウォルターのかわりにおまえがマスターになれば?」
ウォルター「……え? 俺、クビ? マスター失格?」
アンディ「うん」
……しかし、当然のことながら、そのマズい沼色のお酒(名付けて<マーシュグラスストーム(沼草嵐)>以外は作れなかったのですぐにお役ご免になりました。
っていうか未成年だし。
(おしまい)
*未成年はお酒ダメです。
<レッド・キャット>・・・トマトジュースベースのお酒。
<ラクリマ・クリスティ>・・・『キリストの涙』という名前のワイン。というわけで『聖水でも・・・』云々。
<キャンティ>・・・赤ワイン。わりと有名らしい。
<カフェコルレット>・・・リキュール入りエスプレッソ。
<ウイスキー>・・・言わずもがな。
<マーシュグラスストーム>・・・そんなもんないわ。
すみません、適当に作りました、名前も。
探さないでください。
