「幼稚園の!」先生の観察日記。
……ふと、見ていると。
「俺、外で遊んでこよーっと。アンディは?」
「ううん。ボクは行かない。部屋にいる」
赤い髪の少年に訊ねられてぶんぶんと首を横に振る金髪おかっぱ頭の少年。
実はさっきから教室の床に堂々と座り……まぁ机のほとんど片付けられている現在はこどもたちはたいてそうだったけれども……本を読んでいるアンディ君の周りを赤い髪のウォルター君がうろちょろとしてなんとかかまってもらおうとしている図があったのですが。
たぶん『外で遊んでくる』もアンディ君を誘い出したいがための言葉だったようで、ウォルター君は立ち上がってからもしばらく動かないアンディ君を見下ろしてもじもじとしていたのですが……遊んでくると言ってしまった手前……諦めたのかひとりで外に出て行きました。
アンディ君が『ふう!』とため息を吐きました。
ひとりになれてホッとしたようです。
名誉のために言うと、ウォルター君がその世話好きの性格からほぼ半日近くアンディ君の傍にいてアレコレと手を出してくるので、アンディ君が『もういいよ』と思ったとしても無理はないのです。
本を読む時くらいひとりにしてよと思ったのかもしれないと先生は思いました。
しかし、まぁ確かに、ウォルター君は1日の半分近くアンディ君の傍にいますが、それはほぼアンディ君がかまってもらっているわけで、ウォルター君の気持ちを考えてみれば、さて授業の面倒もみたことだし今度は自分のほうをかまってもらおう、そう思ったとしてもなんら罪のないことなのですが。
そういうことがわからないアンディ君は『ウォルター、ウザい』とばかりにツーンとして、まとわりついてくるウォルター君を冷たく無視していました。
たぶん、面倒をみてもらったことも、訊かれれば『みさせてあげたんだよ』なんて偉そうに言うに違いありません。
嬉しいくせに。
……なんて、先生は見ていて思います。
実際、お互いがそれで助かっているんですから、なんの問題もありません。
行き過ぎてもいないので大丈夫です。
……というわけで先生は見ているだけです。
アンディ君は本を持ったままスッと立ち上がり、スタスタと歩いて、わずかばかり残されていた隅っこの机のところに行って椅子に座りました。
ずっと床に座っていたのでお尻が痛くなったのかもしれません。
すると、教室の入り口から、用心深く中を窺っていたバジル君がするりと入ってきました。
トタトタと真っ直ぐアンディ君のところに行って横に立ちます。
そしてアンディ君の頭を見下ろして言います。
「なに読んでんだよ」
もう最初からケンカを売るような調子です。
まともに答えれば絶対にそれがなんであろうとからかおうと思っていることがわかります。
先生はハラハラします。
アンディ君は顔を上げてチラとバジル君を見て、またすぐに目を落とします。
「……興味があるの?」
「あ? ねぇよ、バーカ」
「じゃあ訊かなければいいじゃないか」
……じゃあ訊かなければいいじゃないか。
先生もちょっとそう思いました。
バジル君が憮然として突っ立ちます。
彼の高いプライドではアンディ君の読んでいる本に興味があるなんて言うことができなかったのでしょう。
せっかくイジメようと思ってきたというのに、スルーされて、粉々。
素直じゃないので残念なことです。
アンディ君の見事な返しにやられました。
どうやらアンディ君はバジル君が自分をイジメに来たということに気付いているようです。
かまわずに本を読んでいます。
逃げ出す様子もありません。
いつしか悔しそうに少し顔を赤くして歯をくいしばって拳を握りしめてぷるぷると震えていたバジル君が、ガチャッとアンディ君の隣の空いた席の椅子を乱暴に引いて、そこにドスンと腰を下ろしました。
そしてズイッとアンディ君のほうに身を寄せます。
(つづく)
