幼稚園ミニ4
「ギャーッ!!」
……その日、赤組の先生のひとり、アンナ先生の絶叫が幼稚園に響き渡った。
青い空の下、幼稚園のお庭で、お友達と遊んでいるアンディ君を見て。
ぷるぷると震える人差し指でアンディ君を指さして。
その指の先できょとんとしているアンディ君はといえば。
おかしなところなど何ひとつない。
……口の端からカエルの脚をはみ出させていることを除けば。
その数分前。
「買ってきたぞー!」
嬉しそうに袋を取り出したジョゼフ君がわくわくとはずんだ様子で言います。
幼稚園のお庭に、アンディ君、ウォルター君、シルヴィオ君、ジョゼフ君と、赤組の仲間たち数名で集まっています。
額を突き合わせるようにして、小さな輪を作っています。
ジョゼフ君は紙袋の中から2つの袋を取り出して得意げに掲げました。
周りから『おおー』という低い声が上がります。
驚嘆の声。
「これが『カエルグミ』だ!」
2つの袋はどれもカラフルなお菓子の袋のようでしたが、中身はちょっと違いました。
袋に詰まっているのはカエル、カエル、カエル。
片方は緑のカエルだけで、もう片方はそれより小さめの色とりどりのカエルでした。
ジョゼフ君が袋を破きます。
そして紙袋を下に敷いて中身を広げます。
お菓子の袋の中から転げ出すカエル、カエル、カエルの山。
緑色のわりとリアルなカエル。
それから赤や黄色や青のグミらしくゴムのようなカエル。
それでも、どちらも『食べ物』というより、『生き物』に見えます。
しかし。
「……これがグミなんだね」
じっと見ていたアンディ君がぽそっと言います。
無表情ながらもそれは感心しているようでした。
目を輝かせていたウォルター君も言います。
「……これがグミなんだぜ?」
それはちょっとわざと大げさにあきれたような様子でした。
黙り込んでいたシルヴィオ君が考え深げにうなずきます。
「……これがグミなんですからね」
そしてジョゼフ君を鋭い目で見ます。
「まさか本当に買って来るとは……」
ウォルター君は尊敬のまなざしでジョゼフ君に言います。
「これ店で買うって趣味疑われるよな」
アンディ君はウォルター君に近い目をしています。
「勇者だね」
ぼそりと言って、それからハッとして言います。
「……でも、そうか、ジョゼフはいつもくそマズい飴買ってるから」
これくらいは平気か、と。
さりげなく失礼な発言です。
それを聞いたウォルター君の頬を冷や汗が伝います。
なんてこというんだ、と。
幸いその発言はジョゼフ君は気にした様子はありませんが。
それにしても……とみんなは話します。
「発想がスゴいよな」
「ホントだね。よく思いつくよね、こんなの……」
「カエルでグミとは……」
ざわざわ。
……ところで誰もカエルグミに手を出そうとしていません。
ただただカエルを見て、それからジョゼフ君のほうを見るばかりです。
ジョゼフ君はそんなみんなの反応に『おいおい』と苦笑して言いました。
「買って来いって言ったのおまえらだろ? 俺が店で見つけたカエルグミの話したら『実物を見てみたい』って、そう言ったろ。俺はちゃんとこうして持って来たんだからみんな食べろよ」
アンディ君が『ええー』と引き気味で言います。
地面に広げられた(紙袋の上にですが)無数のカエルグミを見て。
ウォルター君も顔を歪めて散らばるカエルグミを見ています。
シルヴィオ君は無表情ですがやはりじーっとカエルグミを見ています。
ジョゼフ君が手を伸ばしました。
「さて、誰が1番に食べるか、本当の勇者を今から決めるぞ」
何故か嬉しそうです。
いたずら心です。
みんな食えないだろうということです。
アンディ君とウォルター君とシルヴィオ君は顔を見合わせました。
「……」
アンディ君が普通の顔で無言で首を傾げます。
「……いや、別に」
言いにくそうに、でもウォルター君も言います。
「食べられますが」
ハッキリとそう言ったのはシルヴィオ君です。
「まあ……」
そうだよなぁ、とジョゼフ君も言います。
本物のカエルというわけでもなく、もしそれでもハードルは高くないだろうし、これはグミだから余計に。
別にゲテモノ食いではないし。
ただ見た目がちょっとアレなだけです。
ひょい、ぱくっ。
アンディ君がカエルグミのひとつをつまみあげて口に入れました。
「ギャーッ!!」
その時です。
お庭に出てきたアンナ先生の悲鳴が響き渡ったのは。
アンナ先生はアンディ君を見て蒼白になって固まっていました。
(つづく)
*こういうお菓子が実在するかはわからないけどそれとは別物です。
