幼稚園ミニ1
シルヴィオ君はひとりで鉄棒で遊んでいた……『遊ぶ』というより、何か特訓をしていたといったほうが正しいような激しい運動(ぐるんぐるん回っていた)だった……のですが、周囲のこどもたちがベンチで騒ぐ3人に『なんだ? なんだ?』と注目し始めたことで気付いて、それが仲の良いグループの3人だったもので、他の園児たちのように遠巻きで眺めたりせず、さっさと真っ直ぐに3人のもとへやってきたのでした。
「どうしました? コニー。ウォルター。アンディ」
ベンチの前でピタッと足を止め、厳しいまなざしで3人を見つめ、静かに問います。
それは園児とは思えない迫力です。
眼鏡がキラリと光ります。
一応ケンカなら止めようというつもりのようです。
コニーちゃんはシルヴィオ君がそばに来た時点で普通に振り向いて笑顔を見せていて、ウォルター君は怒っていたそのまんまのムスッとした顔つきで振り返ってつい『あ!?』とまるでケンカを売るようにキツくにらみつけ、アンディ君はちょっと困惑したような顔で物言いたげにシルヴィオ君を見上げます。
アンディ君の内心はこうです。
なんかややこしいことになってるなーとか。
たんに足が痛いだけなのに。
コニーとウォルターはケンカに近い言い合いを始めるし、まったく足のことは無視されて、そのうえまた厄介な勘違いをしていそうなシルヴィオ君が寄ってきて。
シルヴィオ君を途方に暮れたような顔でじっと見上げるのはそういうわけです。
別に、なんでもないんだよ、ケンカじゃないし。
だからもういいから放っといてよくらいの気持ちになってきています。
なんか大騒ぎになっちゃった。
どうして、そして、どうしたら。
でも、もしかしたら、シルヴィオがなんとかしてくれるかもしれない。
ちょっとそんな期待を抱きます。
そして、それまでとは違った目で、じっと見つめます。
どうにかしてよ……。
コニーちゃんの誤解を解こうと……っていうか撤回させようと……して必死になってしまっているウォルター君。
アンディ君の足の痛みのことなど完全に忘れ去られてしまっています。
そのことも。
やってきたシルヴィオ君が訊ねてくれれば話をそっちに戻せます。
そういう期待もあります。
そんなアンディ君の内心を知らず、またまったく気付く様子もなく、シルヴィオ君は顔を動かさずにジロジロと3人を眺めて、ひとり納得した様子で深くうなずいて言います。
「なるほど。シンデレラの劇の練習ですか。感心ですね」
どーんっ。
アンディ君はがっくりしました。
ウォルター君はきょとんとします。
コニーちゃんはまだふたりが何をやっていたのか知らなかったので、『そうも見えるわね』とうなずきます。
シルヴィオ君は大真面目です。
「そういえばお遊戯会が近いですからね。先生も喜ぶでしょう。ただ、シンデレラの劇をやるとはまだ決まってないはずですが……」
眼鏡のフレームを押し上げて『でもやりたいなら俺も推薦しますよ』と言ってくれます。
しかも真顔できっぱりと。
本気です。
えええええー……。
アンディ君はあまりのことにどん引きです。
無言でのけ反ります。
……どうしてそうなるの……。
頼みの綱が……っていうか。
そんなことよりも。
シルヴィオ君にはアンディ君がシンデレラ役に見えたというこで。
シンデレラ役を希望しているように思われたらしいということで。
大ショックです。
確かに、ウォルター君がアンディ君の前にひざまずいて足を持っているその様子は、お城の従者がシンデレラにガラスの靴を履かせようとしているシーンにも似てますが……。
それはない。
アンディ君は顔を青くしてぶんぶんと首を横に振ります。
そしてがっくりとしてうつむきます。
落ち込んで。
(つづく)
