幼稚園ミニ1
「アンディ。足あげて」
「うん」
靴下を脱がせようとしたウォルター君に応えてアンディ君が勢いよく足を振り上げます。
ぶんっ。
それはちょうど覗き込むように顔を近付けていたウォルター君のあごを蹴り上げます。
……ゴッ!
「っつ!!」
しゃがんでいたこともあって、ウォルター君は後ろにどんとしりもちをつき、あごを押さえてうめきます。
「……いってぇ!!」
「……ゴメン」
涙目でわめかれて、呆然としていたアンディ君は、ぽつりとつぶやきます。
わざとじゃなかったのです。
そんなことになるなんて全然想像もしていなかったのです。
アンディ君は『足あげて』と言われてその通りにしたに過ぎないのです。
不幸な事故です。
ウォルター君には災難でした。
「ったく、いきなりあげんなよ……もうちょっとゆっくり……」
アンディ君に悪気がないことは重々承知なので、ウォルター君はぶつぶつとぼやきながら、片足をあげたままぽかんとしているアンディ君の前に座り直します。
なんでぽかんとしているかというと、自分のしたことの思いがけない結果に驚いたからでした。
「大丈夫?」
「……じんじんする」
無表情なままで問うアンディ君に、いまだ険しい顔で……腹が立つというよりは痛みを堪えているためですが……ウォルター君は答えます。
足の当たったあごの部分が赤くなっています。
それくらいすごい勢いだったのです。
眉を上げて、目をつぶり、『くそっ』といまいましそうに吐いたウォルター君が、アンディ君のあげたままの片足をつかみ、靴下を脱がせます。
すっぽりと。
「靴下になんか石でも……」
言いかけた言葉を途中でやめます。
ウォルター君の視線は脱がした靴下からアンディ君の足に移っていました。
正確には足の裏。
「あれ? アンディ、けっこう足大きいな。あと、土踏まずがすごい」
つかんだままだった足をぐいと上にあげます。
アンディ君がベンチでひっくり返りそうになり、慌ててベンチの背をつかんで体を支えます。
そして、体をねじって、ウォルター君を見下ろします。
「うん。よく歩くからね」
「歩くのダルくねぇ?」
「……別に」
目の位置にアンディ君の足を持ち上げ、じろじろと足の裏を眺めているウォルター君にそう返して、アンディ君はいったん口を閉じ、考え込むようにしてから、続けました。
「歩ける距離なら、自分で歩いたほうが。バスや電車だと知らないとこに運ばれるでしょ?」
顔を上げたウォルター君が不思議そうな顔でアンディ君を見上げます。
そして、ぐりっと首を傾げます。
「……いいや? 俺は行きたいところに行けるけど」
「そう?」
アンディ君も不思議そうな顔をします。
ウォルター君と反対の方向に……つまり、同じ向きにということですが……首を傾けます。
「ボクは気付くといつも知らないところにいるけど」
「アンディ……」
ウォルター君が引きつった笑顔になって頬にたらっと冷や汗を流します。
『信じられない』といった目でアンディ君を見つめ、パチパチと瞬きをして。
「行きたい場所が決まってて、そこに行く乗り物を選んで、その場所で降りれば、ちゃんと着くだろ?」
「……」
えーと、と、アンディ君がゆっくりと目を逸らし、遠いところを見る目をして、じっと空を見ます。
当然のこと、と、なのに何か用心するようなおそるおそるといった口振りで言ったウォルター君は、黙ってアンディ君の返事を待ちます。
やがて、ふうっとあきらめのため息のようなものを吐いたアンディ君が、投げやりに言います。
「ちょっと気を抜くといつのまにか知らないところにいるんだよ」
「気を抜くな!! それ、ただたんに乗り過ごしただけじゃん!! ってか、どうせ寝たりしてんだろ!?」
「ぼんやりしててもそうだよ」
「自慢にならねぇからな!! なに、ちょっと得意げになってんだ!! 誇ることじゃない!!」
「怒ることないじゃん」
「心配してんだ!!」
テンション高くウォルター君は怒鳴ります。
まったく平然としているアンディ君に。
大声でツッコミの連発でウォルター君はハァハァゼェゼェしています。
「……ったく、のんきだからなぁ、アンディは……」
うつむいて地面に向かってうめくように言います。
アンディ君はすねてツーンとあごを上に向けています。
そこに、コニーちゃんがやってきました。
(つづく)
