幼稚園ミニ1
幼稚園の赤組の教室の前の木製の低いが長いベンチの端に、金髪おかっぱ頭のアンディ君がちょこんとひとりで腰かけています。
他のこどもたちはみんな教室の中や外で楽しく遊んでいます。
それなのに、アンディ君はひとり、ぽつんとベンチに座っています。
みんなの遊ぶ様子を眺めるでもなく、その眼帯をしていないほうの目は、じっと己の足に向けられて。
少し首を傾げて、ほんの少し眉根を寄せて、困ったように。
すると、教室の中で先生のひとりをからかって遊んでいたウォルター君が、アンディ君のいないことに気付き、きょろきょろと捜し回った結果、窓の外にその小さな丸まった背中を見つけて、窓に駆け寄りました。
ちなみに、この幼稚園は一階建てで、教室には玄関から入って廊下を通ってと、庭に面した大きな窓から直接と、二通り出入りの方法があります。
「アンディ! 何してんの?」
教室の窓から顔を出して、ウォルター君がベンチに向かってそう声をかけると、ぴくっとしてさっと振り向いたアンディ君が、見開いた大きな目でウォルター君をじっと見つめます。
その目は、何か訴えたいことがあるんだけど、でも言いたくないな……というような、ためらいが見えています。
ですが、やがてあきらめのため息のようなものを漏らして肩を落とし、まぶたも半分おろして、ぽつりと言いました。
「足が痛くて」
『えっ』と驚きの声を上げて、ウォルター君は置いてあった靴を慌てて履いて、外に出て、アンディ君のいるベンチに急ぎます。
もう口に出した瞬間に世話焼きウォルター君がやってくることを確信していたアンディ君は、そちらを見ずに正面に向き直って小さくなっていました。
しょんぼり。
自他ともに認めるといっていいほど、良くいえば我慢強く、悪くいえば頑固……いうというより、悪い方に向けば、といったところですが……なアンディ君は、こうと決めたらそれを貫くところがあって、負けず嫌いでもあり、ついでにいえば自立心旺盛でプライドも高かったので、傷ついていました。
自分でなんとかできると思っていたのに、人の手を借りることになって。
まぁ、そんな意地を張る問題じゃないし、人の手を借りることが嫌なわけじゃないし、別にいいのですが。
『痛い』ということを認めさせられたことが悔しくて。
だって、他人のしわざでそうなったわけじゃない以上、自分のしたことでそうなったわけで、つまりは自分の失敗で。
自分のせいで。
そこまではっきり意識したわけじゃないけれど、なんとなく傷ついていて、またなんとなく自分に腹を立てていました。
……というわけで、ベンチに走り寄ってくるウォルター君が、アンディ君に恨みがましい目でジロリとにらまれたのも、道理なわけです。
言いたくなかったのに、目敏く見つけやがって、このお節介め……というわけで。
でも、そこには相反するようですが、嬉しさが、いくばくかの甘えがあります。
そう思ってもいいんだ……という。
他の相手だったら悪くてとてもそんなことできません。
恨みに思ったり、にらんだり、ましてや文句言ったりなどは。
ウォルターなら大丈夫、絶対に自分を嫌いになったりしない、きっと許してくれる……という、まるで家族に対する信頼のような、そこからの甘えがあります。
案の定というかなんというか、ウォルター君はにらまれたことなどまったく気にした様子もなく、気付きもしなかったという様子で……もちろん、本当には気付いていたのですが、アンディ君のそれといったら回数が多いので、ウォルター君にしてみれば気にする必要を感じないというわけで……ベンチのアンディ君の前にしゃがみこみ、その顔を覗き込みます。
(つづく)
