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とある幼稚園の1日。~お絵描きをしよう! 編~




 トコトコトコ……。

 何も知らずに元気よくアンディ君は廊下を歩いています。

「待てって、コラ!!」

 アンナ先生が濡れたスモックを手に慌てて追いかけています。

 もう謝ることも済んだので、心置きなくアンナ先生を置き去りのアンディ君です。

 ひとりでトコトコです。

 その足が止まりました。

 教室の前に誰かがいます。

 むしろ誰かがいたからそこが教室であるとわかったのですが。

「あれ? バジル?」

 相手がアンディ君のほうを見て嫌そうに顔をしかめて舌打ちします。

 そしてしぶしぶといった様子でその後ろのアンナ先生に向けて言います。

「誰かさんのせいで置いてかれた。後から中に入れない。次の授業、ここで受ける」

 心なしか『誰かさん』のところに恨みがこもっています。

 どんよりどよどよ……。

 暗いものが背後からわき出しています。

 いくぶん途方に暮れた様子で。

 疲れた様子で。

「バジル、置いてかれたんだ」

 アンディ君がさらりと言います。

 カッとバジル君が目を見開きます。

 怒りに顔を歪めて怒鳴りつけます。

「だからそう言ってんだろーが、アンディ!! てめぇのせいだ!! うちはだらしなく生徒をベタベタと甘やかす緩み切ったアホばっかのおまえんとこと違って厳しいんだ!!」

 『ぬるめの温泉と万年雪積もる氷山くらいだ!!』と力いっぱいわめきます。

 アンディ君はぽかんとします。

 またチッと険しくバジル君が舌打ちします。

「うちもそんなに甘くないけどね……」

 アンナ先生は呆然としてつぶやきます。

 とんだ言われようです。

 赤組の先生として許しがたい暴言・で・す・が。

 ……バジル君がはじかれたのは赤組のアンディ君のせいです。

 ここは仕方ありません。

 アンナ先生は『はぁ』とため息を吐きます。

「いいわよ。次の授業までの間、うちで預かるわ。一緒にお絵描きしてましょう」

 当然だというようにフンと鼻を鳴らしてバジル君はガラリと教室の扉を開けて中に入って行きます。

 アンディ君とアンナ先生が続きました。





 アンナ先生はまずバジル君のことを説明して許可をもらおうと他の先生をさがして教室内を見回しました。

 すると、ひとつの机の前に、3人の先生がみんな集まっていました。

 どうやらアンディ君の机です。

 それを囲っています。

「ん……?」

 どうしたのでしょうか。

 疑問いっぱいでアンディ君とバジル君を連れてそこに近付きます。

 それに気付いた先生3人がハッとした顔をしました。

 ざわっ。

「魔王……」

「魔王だ……!!」

「魔王が来ましたね」

 これは一体どうしたことか。

 一様にアンディ君を見ておののいています。

 異様な目です。

 ゴミを出す日を間違えた時のご近所のおばさんたちの井戸端会議の話題に出されている時のような冷たい目です。

 『あー』とクレソン先生がゴホンと咳払いをして、アンディ君をちょいちょいと手で招きます。

 そんなことしなくてもどうせ自分の席なのでアンディ君はそこに行くわけですが。

 テコテコと歩み寄ったアンディ君の肩をがっしとつかんでクレソン先生は真顔をずいと近付け厳しい口調で言いました。

「いいかー? よく聞け、ガキ! 勇者はな、世界征服なんてしないんだぞ!!」

「……はぁ」

 いきなりなんだときょとんとするアンディ君たち。

「勇者を目指せ、勇者を!!」

 力説するクレソン先生に、みんなは微妙な顔をして、目を逸らしていました。





(つづく)
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