とある幼稚園の1日。~お絵描きをしよう! 編~
アンナ先生に連れられて、アンディ君は幼稚園の廊下を歩きます。
途中、どこかへ移動する最中なのか、白組の教室からお友達が出てきました。
アンディ君はその中のひとりに目を止めてハッとします。
その相手も同じくらいにアンディ君を見つけてハッとします。
アンディ君はすぐさま駆け出しました。
その相手めがけて。
「バジル! バジルー!!」
ほんのちょっとだけ声をはずませて。
絵の具で真っ赤になった両手をぱぁっと広げて。
抱きつこうとしたわけですが、その前に相手が逃げ出しました。
「きっ……汚ねえぇぇぇえっ!!」
バジル君は顔をひきつらせて怒鳴って背を向けて走り出します。
ものすごい嫌がりようです。
アンディ君を振り返るバジル君の目はつりあがっています。
けっこう必死に走っています。
その後を、これまたすごい速さで、アンディ君が追いかけます。
アンディ君、足が速い。
心なしか楽しそうです。
「バジルーッ!! 待ってよ、ねぇ、バジルってばーっ!!」
「こっち来んじゃねぇ、アンディ! てめぇ、その手はどうしたっ? なんでそんなに汚れてる!?」
「話すから止まってよー」
「嫌だ、お断わりだ、ふざけんな!!」
『止まったら俺終わる』の勢いでバジル君が走りながら怒鳴り返します。
アンディ君は気にせずに追いかけます。
かなり嫌がられているのに。
困るのは先生たちです。
いえ、アンナ先生です。
白組の先生と生徒は気にせず行ってしまいました。
ちなみになんか白い先生たちと黒づくめの仮面を被ったちょっとお茶目(?)な先生です。
アンナ先生はアンディ君が走り出してから即座に追いかけました。
速いとはいえ、そこは幼稚園児の足です。
アンナ先生はアンディ君の背後から襟をがしっとつかまえて止めました。
「ストップ、アンディ!!」
目をぎゅっと閉じて、額に皺を寄せて、険しい顔です。
また猫の子のようにぷらんとアンディ君はぶら下げられます。
『あー……怒られるなー……』という諦めの顔をして。
決して悪かったなぁとかそういう顔ではなく。
つかまってしまったという様子で。
ぐったりとします。
アンディ君がとらえられたことで、バジル君が止まります。
アンディ君とアンナ先生から距離を取って。
いまいましげにアンディ君をにらみます。
その目にちょっとうっすら涙が。
「てめぇっ……なんなんだよぉっ……きったねぇ手しやがってっ……なんのつもりだっ……」
途中、間に『ハァ、ハァ、ゼェ、ゼェ』と。
アンディ君が自分の首根っこ引っつかんでいるアンナ先生をチラと目で窺った後、ぐるっと首を傾げて、無表情でボソボソッと言います。
「……えーと、バジルを見つけて、嬉しくて」
「ぜってぇ嘘だっ!!」
バジル君が力いっぱい否定します。
涙目でわめきます。
アンディ君は少しムッとします。
「ホントだよ?」
それが本当でも、なぜ嬉しかったのでしょうか。
バジル君の目は疑いでいっぱいです。
『あーもう』と怒った様子でバジル君はアンナ先生がアンディ君をがっちりつかまえていることを確認し、めいっぱい距離を取って壁に張り付くようにして移動します。
そして不審げに横目で見ながら訊ねます。
「おい、その手はなんだ、どうした……?」
「んー、今お絵描きの授業で、絵の具使ったんだよ」
「どういう使い方を……いや、もういい。俺にかかわるな。もう追いかけてくるなよ!」
アンディ君からじゅうぶんに離れると、背中を向けてバッと駆け出します。
後に残されたアンディ君とアンナ先生。
アンナ先生は『ふぅ!』と大きなため息を吐いてアンディ君を解放します。
そして顔を覗き込んで訊ねました。
「……アンディ。アンタ、あの子が嫌がること知ってて、わざと追っかけたでしょう?」
「違いマス」
「……」
アンナ先生はずいとアンディ君のとぼけた顔に怖い顔を近付けます。
「は・く・じょ・う・し・ろ!」
「……」
アンディ君の目がじーっと横に逸らされます。
「……ウン」
小さいけど、ハッキリと、キッパリと。
アンナ先生が額を押さえて苦い顔をします。
はぁっとため息を吐いて。
「アンタって悪者になりきれないタイプよね……」
『根が正直なんだ』とぼやきます。
アンディ君は複雑な顔をします。
それは褒められていると取っていいのかと。
ごまかしきれなかっただけなのに。
アンナ先生は『さぁ』とアンディ君の背中を押して促します。
「ほら、行くわよ。早くその手を洗わなきゃ」
「うん」
アンディ君は素直にうなずいてぎゅっとアンナ先生の服の裾をつかみます。
べったりと絵の具のついた手で。
アンナ先生がびくっとします。
「ギャーッ!!」
(つづく)
