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とある幼稚園の1日。~お絵描きをしよう! 編~




 首をひねりながら移動したリカルド先生はウォルター君を見てギョッとします。

 そして即座に手を出して、ウォルター君の後ろ襟をむんずとつかんで、椅子から引っ張りあげます。

 子猫のようにぶらんと持ち上げられたウォルター君にリカルド先生が怖ろしく低い声を出して言います。

「てめぇ、このっ……やっちゃいけないと言われてることを全部やるガキがぁっ……」

「放せよ!!」

 じたばた暴れるウォルター君。

 彼の机の上はクレヨンやマーカーで色とりどりの線が引かれています。

 画用紙という白い枠からはみ出した彼の冒険心が机の上を埋めています。

 途中から気が付いても描き続けた結果です。

「はみ出すなっつったろーがっ……!!」

 リカルド先生は殺気だってギロリとにらみつけます。

 ウォルター君は手足をバタつかせてポカスカとリカルド先生を殴ったり蹴ったりして一生懸命に抵抗しながら……幼稚園児なのでリカルド先生にとってうるさいだけでしたが……訴えます。

「こんな狭い画用紙の中に俺の夢がおさまるか!!」

「てめぇ、その長い赤い前髪のせいでバラ色の未来が見えてるってんなら切るぞ! オカッパと同じようにしてやる!!」

「俺の未来がバラ色じゃないなんてなんでおまえにわかんだよぉっ……!」

 ヒドいです。

 ウォルター君は前髪をおさえて涙目です。

 髪を切ると言われたこともショックですが、まるで未来が明るくないみたいに言われたこともショックです。

 そんな決めつけは悲しいです。

「未来に希望を持たせてくれよっ……!!」

 せめて未来に。

 何か良いことが。

 先生が園児の夢を奪っちゃいけません。

「……」

 リカルド先生はじっくりとウォルター君を眺め、ゆっくりとおろして席に戻します。

 そろそろ首が絞まり過ぎて危険なこともあったので。

 ところで。

 その騒ぎにみんなの視線が集まっていました。

 とくに先生たちの視線が。

 そのグループのところには、アンディ君のところにアンナ先生、シルヴィオ君のところにタイム先生、ジョゼフ君のところにクレソン先生、というように固まっているので。

 リカルド先生がウォルター君を解放したことにみんな口には出さないものの内心ホッとしてそれぞれの問題に戻ります。

「……」

 今まで見られていたことに気付いて無言でみんなを眺め回し、誰もがみなサッと下を向いて顔を合わせないので、リカルド先生はしばし憮然としていました。

 が、気を取り直して、ウォルター君に訊ねます。

「……それで、おまえの夢っていったいなんだ?」

 机を覗き込みます。

 正確には画用紙ですが、絵は机いっぱいに描かれていたので。

 全体でひとつの絵というわけではなく、いくつもいくつも描かれています。

 あんまりたくさんなので、リカルド先生は首を傾げます。

 ウォルター君はひとつひとつ指を差して説明します。

「広い庭つきの大きな家を持ってー……車を買って、バイクも乗って、可愛いお嫁さんもらって、こどもは3人くらいで、犬とか猫を飼ってー……」

 それから、それから……とウォルター君は続けます。

 次々と必要なものを並べていきます。

 最初のうちはいちいち『うん、うん』とうなずいていたリカルド先生もしまいには呆れ返ります。





(つづく)
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