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とある幼稚園の1日。~お絵描きをしよう! 編~




 アンナ先生がまず向かったのはアンディ君のところでした。

 要注意人物だからです。

 何をしでかすかわからない子だからです。

 いえ、ちょっとだけ、わかります。

 アンナ先生はある不安があってアンディ君のところに急いだのでした。

 そばに立ち、頭越しに机の上の画用紙を覗き込んで、やっぱり……と苦い顔をしてぼやきました。

「さっきからなんか描いてると思ったのよね……」

 もう先生の話の途中から描き始めてしまっています。

 大事なことを聞かずに。

 見事な魚の絵を。

 怪訝そうに見上げるアンディ君に、アンナ先生はニーッコリ先生らしい笑顔を作って、こう言いました。

「アンディ君……お魚さん、好き?」

「……食べるって意味で?」

 アンディ君は真顔でぼそりと訊き返します。

 アンナ先生の笑顔が凍りつきます。

 ピシィッと、固まります。

 フツー、園児にこう訊いたら、単純に好き嫌いの答えが返ってきそうなものです。

 お魚さん=食べる、アンディ君。

 衝撃から抜け出て、アンナ先生はもう一度なんとかやさしいおだやかな笑みを作ろうと苦心しながら言います。

「うーん、でも、アンディ君の描いてるそれって、みんなで水槽で育ててるお魚さんの絵だよね? 先生、それは食べてほしくないなー?」

「……これは食べないよ」

「そうだよね。うん、あのね……」

 アンナ先生は笑みを消して、ためらい、いったん口を閉じます。

 もう話は終わったものとまた色鉛筆を手にして絵を描き出したアンディ君に、しょうがないなといった様子で、アンナ先生がまた口を開きます。

「……アンディ君。アンタ、お魚になりたいわけ?」

「……」

 『え? どういうこと? なんで?』とアンディ君がきょとんとしてアンナ先生を見上げます。

 どうしてそうなるのか、と。

 アンナ先生は額を手で押さえてうめきます。

 どうやら頭痛がするようです。

「大人になったら何になりたいか訊かれて『お魚になりたい』って答えるなんてあんまり聞いたことないな……っていうか、人の話は最後まで聞きなさいよ! アンタの将来、魚類でいいのかっ!?」

 『テーマがあるんだ、未来の姿なんだっ!!』と最後はアンディ君に向けて怒鳴ります。

 周りのみんながびっくりしています。

 アンディ君はやさしいアンナ先生を怒らせることにかけては天才です。

 その時、通りがかったタイム先生が、『将来、魚類』という言葉を聞いて、横から口を出しました。

「……具体的に、うろこをつけるとか、尾ひれをつけるとか、そういった意味で?」

 アンディ君はハッとして目を見開いて、次にまぶたを下げて憮然とした顔で、それからプイッとそっぽを向いて、ツンとして言います。

「やだ」

「『やだ』じゃないわよ……」

 アンナ先生からどす黒い何かが漂います。

 ものすごい怒りの負のオーラです。

 どんよりどよどよ……。

 バンッとアンディ君の机に手を叩きつけてビシィッと指を突き付けて怒鳴ります。

「嫌なら描くな!! ってか、人の話を聞け!! ちゃんと聞いてないからこういうことに……って、今もだ、アンディ!! 耳をふさぐなーっ!!」

 騒がしい席です。

 その隣で絵を描いていたウォルター君が心配そうに見つめています。

 アンディ君は言われてもたぶん自分の描きたいものを描くので。

 テーマを聞いていても変わらないのです。

 そういう面で頑固です。

 しまいには開き直ってこんなことを言い出します。

「別に将来魚でもいいんじゃない? 魚、好きだし。食べたいし」

「食べられるほうになってるってば!! 食べられたいのかアンタは!? ってか、退化してるわよ、アンディ!!」

 アンナ先生の怒りは増し、なかなかにヒドい発言が飛び出しています。

 そばでタイム先生が『彼は人間なので、退化なら猿では?』と無表情で突っ込んでいます。

 ウォルター君はハラハラドキドキ、そわそわおろおろ。

 画用紙からクレヨンが飛び出て、机に絵を描いていますが、気付きません。





(つづく)
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