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とある幼稚園の1日。~お絵描きをしよう! 編~




 パンッ、パンッ。

 教室の正面に立ったリカルド先生・クレソン先生・タイム先生・アンナ先生の中から、クレソン先生が手を打ち鳴らして注意を引きます。

「おーら、おまえら、静かにしろー。とくにそこのふたり!」

 ビシッと指をさされて、ウォルター君が手を止めます。

 ようやく逃れられて、アンディ君がタオルの間からぷはっと顔を出して息をします。

 ウォルター君の手からタオルを奪い、それを元通り肩にかけます。

 今のでけっこう髪の毛は乾きました。

 ぼさぼさの頭をそのままに、アンディ君は先生たちのほうを見ます。

 ウォルター君もしぶしぶと座り直します。

 アンディ君に正面に座るコニーちゃんが『ハイ』と櫛を差し出します。

 アンディ君は『ん』と受け取り、髪をとかして返しました。

 小さく『アリガト』と言って。

 絵を描く準備ができました。

 これで紙に滴が落ちて濡れることはありません。

 ……というわけで……。

 そうしている間にも、パンパンと手を叩いた後の先生たちのお話は続いていました。

 アンディ君が髪の毛をとかしていた間にも。

「次はみんなに絵を描いてもらおうと思いまーす! みんな、画用紙はもらったかなー?」

 一番まともに『先生』という仕事をしているアンナ先生の問いに園児たちみんな(もちろん全員ではない)が『はぁーいっ!』といういいお返事をします。

「それぞれなんか描く物は持ったかー? なに使ってもいいぞ。色鉛筆でもクレヨンでもペンでも絵の具でも」

 クレソン先生の言葉にも園児たちは『はぁーいっ!』と元気よくお返事します。

「ただし、はみ出さないように。机の上を汚さないように。それから、机の上に落書きなんかしないように。あと、絵の具を使う人は洋服にも気をつけてください。なるべく……」

 うんぬんかんぬん。

 タイム先生の注意が続きます。

 ここらへんで髪の毛をとかし終わったアンディ君は動き始めました。

(そんなこと言われなくてもわかってる……)

 アンディ君の内心はこうです。

 これから絵を描くということはわかっているし、はみ出してはいけないことも、机に落書きしてはいけないこともわかっています。

 その他の注意事項も。

 言われるまでもありません。

 そういうわけで、アンディ君は絵を描き始めました。

 とりえず見える位置にある水槽の魚とか描き始めました。

 エンゼルフィッシュです。

 それを熱心に画用紙に鉛筆で描き始めました。

 タイム先生の話が終わり、園児たちがまた元気よく『はぁーっい!』といいお返事をして。

 今度はその様子を黙って眺めていたリカルド先生が前に進み出て口を開きました。

「テーマは、『みらい』だ! 未来の自分を想像して何か描きやがれ。将来の自分が何をしてるかってことだ!! 1時間半で最低1枚は描け。描き終わったやつは何枚でも描いていい。……わかったらとっとと描き始めろ!!」

 明るく楽しげに大きな声でお返事をしていた園児たちが、怒鳴りつけるようなリカルド先生の調子に怯え、『はぁ~い……』とさっきと一転して暗く沈んだ声で小さくお返事します。

 イラッとした様子で『もっと大きな声で!!』と言われて、『はいっ!!』と無理やり大きな声を出します。

 園児たちが完全に怯えきっています。

 クレソン先生がリカルド先生の肩を押さえ、『どうどう』となだめます。

 アンナ先生も『あの、落ち着いて、静かに』とおずおずと遠慮がちに言います。

 しかし、これがリカルド先生の『普通』で、決して怒っているわけではありません。

 園児たちと周りの反応に顔を赤くしたリカルド先生は今度こそ怒って怒鳴ります。

「……わかったら取り掛かれっ!!」

 ヒィィィィッ……。

 怖い幼稚園です。

 園児たちが泣きそうです。

 でも、一部の園児たちは、『ハイハイ』といったふうに平然として、それぞれがペンやクレヨンを手に持ち、絵を描き始めます。

 落ち着いています。

 グループを鳥の名前で分けるなら『カラス班』です。

 アンディ君・ウォルター君・コニーちゃん・シルヴィオ君・ジョゼフ君のグループです。

 リカルド先生の怒鳴り声にも動揺した様子もなく、決して泣き出しそうでもなく、フツーに絵を描き始めます。

 ひとりはもう描いています。

 先生たちは指示を出し終えて、園児たちのグループの間を歩き始めます。

 様子を見回り、時にはアドバイスを出し、危ないことをしていたら注意し……と、けっこう忙しいのです。





(つづく)
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