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とある幼稚園の1日。~紙ねんどで遊ぼう! 編~




「お? どうした? 何も作らねぇのか?」

 一通りみんなの机の間を回ってきたリカルド先生がアンナ先生とは逆の方向から覗き込んで訊ねます。

 アンディ君は無言で見上げます。

 どちらにとも言えない問いに、アンナ先生が困惑顔で答えます。

「今から作るのよ……今まで本を読んでて、今ようやく……」

 疲れたように言うアンナ先生の言葉に、とくになんの感想なく『へえ』と低い声で漏らすと、リカルド先生はアンディ君の机の上の紙ねんどの袋を引き破って渡そうとしました。

「ほら、なんでもいいから、作りたいもの作れよ」

 アンディ君は前に向き直って肩をすぼめて今度は音を立てずにため息だけ吐きました。

「……」

(大人はわかってくれない……)

 そういうものです。

 ところで、アンディ君のその行動は、リカルド先生が紙ねんどを差し出したとたんにそっぽを向いたことになり。

 カッと目を見開いてぷるぷると震えたリカルド先生は、黙って『どん!』とアンディ君の前に紙ねんどを置きます。

 そして、真顔を近付けて低めた声で言います。

「つ・く・り・や・が・れ!」

 スッ……と横目でリカルド先生を冷たく見て、アンディ君はぼそっと言います。

「何を作ればいいのさ」

 あーめんどくせぇとばかりにリカルド先生は身を離して、片手を腰に当て、もう片手でがしがしと頭をかきながら、投げつけるように言います。

「なんでもいいんだよ、作りたいもの作れって言ってんだろーが!! こんなのガキの遊びだろ!? みんな適当に作ってんじゃねーか!! なんで俺が付き合わされなきゃならないんだか……」

 若干、本音が漏れています。

 リカルド先生は幼稚園の先生という仕事にご不満のようです。

 投げやりです。

 『みんな作ってる』と言われたアンディ君は、視線をみんなの方に向けます。

 そして、みんなの机の上のものを確認して、ムスッとして言います。

「……別に、虫や鳥を作ったって動くわけじゃないし、家を作ったって住めるわけじゃないし、リボンや宝石作ったって使えるわけじゃないし、どうせにせものだし、興味がないんだけど……」

 シーン。

 みんなが固まります。

 離れた他の班のこどもたちまで聞こえたらしく、それなりに楽しげでにぎやかだったのが、一瞬にして静まります。

「……っていうか、とくに作りたいものもないし、ボクは今は本が読みたい気分で……」

 最後まで言わさず、がしぃっとアンディ君の服の後ろ襟をつかんで、子猫のように椅子からつまみ上げ、リカルド先生はそのままぶら下げて、机のない教室の空いたスペースに連れていきます。

 歩きながら、他の先生に指示を出して。

「クレソン! ビニールシート持ってきて敷け!! タイム! ありったけの紙ねんど持ってこい!! 他の教室からも集めてこい!!」

 『はい!』といい返事をしてふたりがその通りにします。

 即席でできたお花見席のような、青いビニールシートが敷かれた上に、アンディ君は降ろされました。

 その目の前に紙ねんどが山と積まれます。

 どんっ、どんっ、どんっ!

 みんなは何事かと見守っています。

 ムッとしているアンディ君の前に、積まれた紙ねんどの山に腕を置いて、ニヤリと笑ったリカルド先生が言います。

「てめぇは特別だ。この紙ねんど全部使い切るまで解放してやらねぇぞ。永遠に紙ねんどで遊んでるんだな!!」

「……」

(うわぁ……)

 アンディ君は無言を返してその後ぼそりと『大人げない……』という合ってるのか微妙な感想をつぶやきます。

 目の前の紙ねんどの山……座ったアンディ君と同じくらいの高さがあるため、まるでバリケードです……を見て、アンディ君は肩を落として『はー、やれやれ』と息を吐きます。

 そして心配してやって来たアンナ先生に、『こういうおとぎ話、確かあったよね? 部屋に閉じ込められて、たくさんの糸から布を織らされるとかさ……』とけっこうな余裕を見せています。

 こどもによっては泣いて謝りそうなものですが、アンディ君はへいちゃらです。

 のんきです。

 アンナ先生は頭が痛そうに手で額を押さえています。

 怒らせちゃいけない人を怒らせて……と苦い顔です。

 この紙ねんど地獄から助けてあげたいけど、私が勝手なことをするわけにはいかないし……と困った様子で、アンディ君を眺めています。

 アンディ君は首根っこつかまれて持ち上げられて運ばれたことには不満の様子でしたが、紙ねんどの山については、とくに何も思ってないようでした。

 むしろびっくりして呆れているといった様子です。





(つづく)
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