とある幼稚園の1日。~紙ねんどで遊ぼう! 編~
紙ねんどで何かを作るというこれも一応幼稚園の授業の一部なのですが。
アンディ君は目の前の机の上の紙ねんどを見向きもせずに一心に本に書かれた文章を目で追っています。
ずいぶん前から横に立ったアンナ先生が声をかけていますが聞こうとはしません。
「アンディくーん、おーい。紙ねんど、やろうよ? お友達、みんなやってるよ」
「ボク、今は本を読みたい気分」
「えーっと、先生、粘土をやってほしいな~?」
「いいよ。この本を読み終わったら、やるよ」
「今は紙ねんどの時間なのよ」
「……」
無視。
おだやかでやさしい笑みを頑張って作ってそれに合った声を出していたアンナ先生が、とうとう返らなくなった返事……っていうか返ってきた無言……にピクッと頬を引きつらせます。
次に出た声はそれまでとは打って変わって低く恐ろしく震える声でした。
「アンディくぅぅぅん……。オイ。紙ねんど、やりなさいよ!」
やいコラてめぇ、のケンカを売るような調子です。
私の言うことが聞けないのかな? のおどしです。
にっこにこ笑顔ですが、顔に暗いカゲができています。
マンガで表すと額の辺りから横に線を入れてトーンを貼った感じです。
空気がとても不穏です。
アンナ先生の周りにどす黒い何かが漂っています。
「……」
(おおぅ……)
さすがにその空気にアンディ君もおそるおそる顔を上げて横に立つアンナ先生をうかがい見ます。
ごくりと、無言で、青ざめて。
「紙ねんど、やりなさい?」
ずいと怖い顔を近付けて、アンナ先生は繰り返します。
「だ、だって……」
たじろぎながらもアンディ君は必死に訴えます。
「手が汚れるでしょ? そしたら本が読めないじゃん」
アンナ先生が笑顔のままで凍りつきます。
アンディ君は言うことを言ったのですっきりとしてまた本に目を落とします。
(これでゆっくり読める……)
すると、動き出したアンナ先生によって頭の左右を拳によって挟まれました。
「え?」
きょとんとするアンディ君。
アンナ先生の拳がぐりぐりと頭をしめつけながら回転します。
「ね・ん・ど・の時間だっつってんでしょーがっ!!」
「イタタタタッ……!!」
アンディ君が悲鳴を上げます。
アンナ先生がさらに大声で怒鳴ります。
「アンタが本読みたいのとか知るか!! 後にしろ!! さっさとなんか作れーっ!!」
通りがかったタイム先生がその様子を見て『園児が泣きますよ』とひとこと言って去っていきます。
ハッとして拳を下ろすアンナ先生。
頭を押さえて涙目で先生を見上げるアンディ君。
ビクビクとして、静かにパタン……と本を閉じます。
それを机の横に置き、机の上の袋に入ったままの紙ねんどにじっと視線を注ぎます。
そして、フゥ、とため息を吐きました。
(つづく)
