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とある幼稚園の1日。~紙ねんどで遊ぼう! 編~




~じゅぎょう1・紙ねんどで遊ぼう!~





 こどもですから、泣いたりもします。

「うわあああんっ」

 声を上げて握りこぶしを目に当てて激しく泣いているのはウォルター君です。

 その前の机にはグチャグチャになった彼の紙ねんど作品があります。

 横に立ったシルヴィオ君がぽんぽんとその肩を叩いて慰めます。

「ウォルター、あなた……開始10分でコニーの嫌いな虫を……しかもゴキブリを……作り上げて、得意げに見せびらかすってどういうことですか。どんな結果になるかわからなかったんですか? 壊されるに決まってるじゃないですか」

 おっと、間違い。

 とくに慰めてはいないようでしたが。

 すぐそばにはコニーちゃんが、腕組みをしてツンとそっぽを向いて立ち、頬をふくらませています。

 いかにも怒ってますといった風です。

「なんでよりにもよってゴキブリなんか作んのよ! 気持ち悪いのよ、ウォルター!!」

 プンプンとして口をとがらせて言います。

 それに対して。

「……まぁ、短い時間でよくあれだけ本物そっくりの見事な物を作ったと感心はしますが……いかんせんチャバネゴキブリとは選択が良くない」

 シルヴィオ君が無表情で淡々と言います。

 最後に眼鏡を指で押し上げます。

 その眼鏡の奥の目が離れた他のグループのクラスメイトたちの机に向けられます。

 *ちなみに5~6人ずつ班に分けられて机をくっつけています。

 ちなみにちなみに、本人たちは、机を向い合せてコニー・シルヴィオ、アンディ・ウォルター、お誕生日席にジョゼフ……となっています。

 シルヴィオ君は指を差して続けます。

「ほら、あっちの子が作ってるカブトムシとかならまだコニーもそれほど怒らなかったでしょうに」

 しかしコニーちゃんはそれを聞いて『同じよ!』と憤慨しています。

 ピタリと泣き止んだウォルター君がムスッとして言います。

「ゴキブリじゃねぇよ、コオロギだもん」

「……それなら……」

 シルヴィオ君が真面目な顔つきで言います。

「さっきの褒め言葉は取り消しということで」

 ウォルター君ががくっとします。

 そばでコニーちゃんは依然プリプリとして『同じよ!!』と言っています。

 いったんしょんぼりとうつむいたウォルター君ががばっと顔を上げてシルヴィオ君に向かって怒鳴ります。

「どういうことだよ!!」

「俺の勘違いだったということで」

「ゴキブリなんか誰が作るか!!」

「コオロギを作るのも稀(まれ)ですよ」

 シルヴィオ君の目が鋭く細められます。

「っていうか、ウォルター、あきらかに嫌がらせでしょう……?」

 にらみつけられて、ウォルター君がたじろぎます。

「えっと……」

 図星です。

「こらこら、ケンカしてないで、早くなんか作れー」

 先生方の中では2番目くらいにやさしいところのあるクレソン先生が割って入ります。

 しぶしぶ席に着くシルヴィオ君とコニーちゃん。

 諦めきれない様子のウォルター君。

 先生に訴えます。

「作ったけど、壊されたんだよ……」

「あー? また、なんで?」

 一部始終を聞くと、クレソン先生は大きな手をぽんとウォルター君の頭に乗せました。

「やんちゃはそれくらいにしとけよ」

 がしがしと乱暴に頭を撫でて解放します。

 お見通しです。

 ウォルター君は乱された頭を押さえ、少し顔を赤くして、おずおずとうなずくと、しぶしぶ椅子に座ります。

 そして潰れた茶色いかたまりを横に避け、新しい紙ねんどをこね始めます。

 クレソン先生はその向かいのシルヴィオ君を覗き込みます。

「……なに作ってんの?」

 訊ねるまでに少し間が空いたのは驚いたからでしょう。

 シルヴィオ君の台の上には長方形の小さなかたまりがいくつも並んでいます。

 ちまちま、ちまっちま。

 粘土をこねていたシルヴィオ君が生真面目に答えます。

「家を作りたいので、まずは土台のレンガから」

 引きつった笑みを浮かべ、クレソン先生は隣に移動します。

「なに作ってんの?」

 熱心にリボンらしき形を作っていたコニーちゃんが顔を上げて目をキラキラさせて答えます。

「アクセサリーよ。作って売るの。幼稚園児ならだまされるでしょ? みんな買うかなって。そして私は本物を買う!」

 クレソン先生の震える手ががしぃっとコニーちゃんの肩をつかみます。

「お嬢ちゃん。ちょ……っと先生とお話ししよう。なっ?」

「なっ、何よ。何がいけないのよっ!?」

「園内で商売しちゃダメ!! ってか、おまえも園児だろーが!!」

「気安くレディに触らないで!! 先生のくせにーっ、セクハラよ!」

「今そんな話はしてない!!」

 もめるふたりの横にタイム先生が現れました。

 そして、黙々と最初から紙ねんどで何やら熱心に作っていたジョゼフ君の机を覗き込みます。

「……何を?」

 ジョゼフ君は周りの騒動にも我関せずといった態度でのんびりと上機嫌に手を動かしながら答えます。

「カラスの置き物を」

「……」

 普通、クマの置き物とか……とはいえ、彼には何も問題はありません。

 タイム先生は無言で通り過ぎていきます。

 ぎゃあぎゃあ騒いでいるコニーちゃんとクレソン先生を横目に。

 さて、ウォルター君の隣、コニーちゃんの向かいの席。

 アンディ君は、本を読んでいます。





(つづく)
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