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レオいず

「お兄様方! 司は海へ行きたいです! 連れて行ってくださいまし!」

夏真っ盛りの夢ノ咲学院、あちらこちらで蝉が忙しなく鳴き続け、わざわざ持参したミネラルウォーターもあっという間にお湯になる中汗だくで……と言う訳でも無く、少し効きすぎているくらい冷房が聞いたレッスンスタジオ。
そんな環境に居て、どうして海に行きたくなるのか。
しかもわざわざ日焼けしに行くようなものだと言うのに、うちの末っ子、かさくんこと朱桜司がこんな事を言い出した。ありえない。

半ば呆れながらもその旨を伝えると、なるくんや珍しく起きていたくまくんからも反対の声が挙がった。

「俺も珍しくセッちゃんと同意見♪ 昼は暑いし……? まぁ、夜の海なら大歓迎なんだけどねぇ♪」

「そうねェ……真夏だし、日焼けしちゃいそうよねェ……日焼けは乙女の天敵だもの♪」


「どうしても駄目でしょうか? 同じクラスのゆうたくんから、庶民は砂浜でwatermelonを棒でBreakしたり、volleyballをしたりするとお聞きしました! 私も是非Knightsのお兄様方とtryしてみたいのです!」

かさくんは、全員から反対されても綺麗な赤い髪を揺らして駄々をこねる。
そう言われると、連れて行ってあげたい気持ちも湧かなくはないけどアイドルにとって日焼けは天敵。
特にKnightsに日焼けした肌は似合わない。
ちょっと可哀想だけど、やっぱり許すわけにはいかないから再びダメだ、と伝えようとしたその時

「分かったわ、可愛い末っ子ちゃんのお願いだもの。行きましょ、海♪
その代わり、日焼け止めはしっかり塗ること。それに、あまり長時間は居られないわよぉ? 守れるかしら?」


「はい! 鳴上先輩、ありがとうございます! やはり、鳴上先輩は優しいお方ですね♪」


「ちょっとぉ! なるくん!? 何勝手に決めてんのぉ!?」


「そーだよ、ナッちゃん、俺行くとか一言も言ってないんだけど……」


なるくんが俺達を無視して話を進め始めた。そんななるくんに文句を言ってやると、くまくんも同意してくれる。


「まぁまぁ、たまには良いじゃない! 司ちゃんが遊びたいのは海って言うより砂浜みたいだし、日焼け止めしっかり塗って、上にパーカーでも着てたら大丈夫じゃないかしら。それに、凛月ちゃんに合わせて夕方のあまり日が照ってない時間に行く事にするし、もちろんパラソルも用意するわよ? ダメかしら?」



「う〜ん……それなら良いけど……昼は無理だけど夕方ならわりと元気だし。ふふふ……ちょっと楽しみになってきたなぁ……」



「ちょっ!? くまくん!?」



くまくんまで行く気になってしまったらしいので、もう諦めることにした。三対一は不利だ。


「はいはい、しょうがないから付き合ってあげるよ。感謝しなよねぇ? それにしても、海って言ったって何処の海に行くの?」


「そうねェ……たまにはちょっと遠出して隣町の辺りとかどうかしら?」


みんなで遠出なんて、高校生みたいで楽しそうよねぇ、そう提案する機嫌の良いなるくんに反してくまくんは不満げな声をあげる
 

「え〜、遠いと移動がめんどくさいからやだ〜学院の近くの海で良いんじゃない?」


──学院の近くの、海



「う〜ん……それでも良いけど偶には遠出したいわァ」

「え〜別に良いじゃん。セッちゃんもそう思うよね?」


「……」


「セッちゃん?」


「あ、うん、良いんじゃない?」


くまくんに声をかけられて我に返り、慌てて返事をする。



──学院の近くの海。それは俺とれおくんが最後に会った場所。



れおくんと2人で砂浜に座って、れおくんは作曲をして、その横で俺はれおくんの作った曲を聞きながら作詞する。それは当時の俺達にとってほぼ毎日の事。
だから、れおくんにそこに連れ出されるのはいつものこと、で。
だから俺は、その日もなんにも考えずに今日の夕日はやけに赤くて綺麗だな、なんて考えながら、いつも通りれおくんの隣で、れおくんの作った曲を聞きながら、詞を綴っていた。幸せだった。
暫く経って、日も沈み始め辺りを夜の気配が包み始めた頃、レオくんが急に真剣な顔で俺を真っ直ぐに見つめた。





「セナ、俺はセナの事がだぁいすきだよ。世界で一番愛してる。ねぇ、セナ……セナは俺のこと……好き?」





言っている事はいつもと何一つ変わらないのに、そう言ったれおくんの翡翠は微かに揺れていて、俺は何故か何も言う事が出来なかった




「ごめん! 変空気になっちゃったなっ! 忘れて!」




訪れた沈黙を打ち切るようにれおくんが些か大きすぎる声で言う。そうして戻ってきたいつもの雰囲気に安堵した俺は、帰る準備をして、れおくんとわかれた。れおくんの様子がいつもと違う事には気がついていたのに。明日聞けば良いか、なんて呑気な事を考えていた。





「ばいばい〜、れおくん、また明日ねぇ」


「おう! じゃあな!」




しかし、次の日の学院にれおくんの姿は無かった。
昨日のれおくんの様子を思い出して不安に駆られたが、れおくんがいないのは珍しい事じゃないし、放っておけばすぐ来るだろうと思った。でも、1週間経っても1ヶ月経ってもれおくんが来る事は無かった。流石に不審に思い、教師に尋ねてみたら返ってきたのはあいつの停学を告げるものだった。


そうして、れおくんは俺の前から消えた。



あの時、れおくんに大好きだって愛してるって言ってあげればよかったと、何回後悔したことだろう。あの時だけじゃない。あいつはは俺に何回も聞いていた。
「瀬名は俺のこと好き?」って。
何でいっつも誤魔化してばっかりで素直になれなかったのか。本当は大好きだったのに。愛してたのに。あんたが隣で笑ってくれるならそれで良いって、あんたの笑顔さえあれば何もいらないって思ってたのに。
何回も何回も後悔して、俺はれおくんを待ち続けるって決めた。
そうしてれおくんが帰ってきたらあの問の返事をするんだって。今度こそ、素直に大好きだって伝えるんだって。
そのために守り抜いたれおくんの居場所は、Knightsは、2人だけのものでは無くなってしまったけれど、確かにここにある。



「ほら〜、セッちゃんもそれが良いって言ってるし、それで良いじゃん」


「確かに移動するとなると凛月ちゃんの為に遅めに出発する意味が無くなっちゃうし……司ちゃんはそれで大丈夫?」



「はい! 大丈夫です!」

何も知らない末っ子の瞳が、目は口ほどに物を言うとはこの事かって言うほどにキラキラと輝いている。作曲しているあいつの目もあんな風に輝いてたっけ。
つい勢いで同意してしまったけど、それを見ていると、この賑やかなメンバーと一緒に、れおくんとの思い出の場所に新たな思い出を作るのも悪くは無いかもしれないと思えてきた。



だから、早く戻ってきなよねぇ、れおくん。





じゃないと、れおくんとの思い出よりこいつらとの思い出の方が多くなっちゃうんだから。そんな憎まれ口をそっと心の中で呟いた。
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