第三章
夢小説設定
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「視えるの?」
「…あ?」
以前と同じように、昼休みに土方君からお呼び出しが掛かったのは後日の事だった。やんややんやとはしゃぐ友人を隣に、右手を挙げてそのまま手を下ろせばあいた!と言う声が返ってくる。ざわめき立つクラスの声をBGMに、立ち上がった私は教室の入り口に出来た人集りの中心へと手を振った。そうして彼を先頭に向かった廊下、窓枠に手を掛けた土方君は眉を潜めて外を眺めている。窓の外では髭と牛。二匹はあれ以来、表立って声を掛ける事はなくなったが、遠目にこちらを仰ぐようになっていた。まだ私がご立腹だと思っているらしい。暫くは反省してもらおうと思っていたが、ここまでくればその心も萎えるというものだ。
「下、何かいる?」
「…いや」
二匹は私に向かい手を振っていて、それ以上は動いてこない。彼の隣に少し間を空けて、私は彼等へと手を振った。
「ふふ、元気だよね」
「…お前…あ゙ーくそ、視えた。何か今変な影二つ」
笑う私に観念してか、土方君は頭を掻いてそう言った。そうして彼曰く、ずっと視えているわけではないらしいのだが、視えるのもはっきりとする時もあればぼんやりとする時もあるらしい。そう話していく内に、土方君は気落ちしていくように見えた。ぽそぽそと耳を赤くして、彼は窓枠へと顔を隠す。
「テメーも視えてんだろ。前も、ここで笑ってんの見た」
「うん、視えてるよ。髭生えてる目玉親父と、牛魔王みたいなのが二匹」
俯せだった顔を上げて、二匹の事を並べてみると彼は目を見開いた。それを見て、また苦笑。やはり、ずっと疑われていたのはホントらしい。
「…おま、普通ここで言うか?イタい奴だと思われんだろーが」
「でもここじゃ土方君しかいないでしょ?それに土方君が視えるのも、私が視えるのも、私と土方君だけしか知らないし」
この間の昼休みも、私を呼び出した理由はこの為だったんでしょう?そう問えば、彼は分かり易い程に慌てていた。何だ、土方君って本当はシャイか。
「お前…!」
「あんまり青春してると、殺しちゃうゾ☆」
ビクゥ!と、唐突の声に二人して肩を跳ね上げた。窓から差していた日差しが不意に陰り、聞いた事のある声が掛かる。声に釣られて見上げれば、窓枠に足をかけた神威君がいい顔で笑っていらっしゃった。隣には溜め息を吐く阿伏兎さんも一緒である。日が陰ったのは二人の傘のせいだったらしい。あの日、最悪の別れ方をしたままだった二人に、私は驚き半分、心を走らせていた。神威君達自ら会いに来てくれた事が、私は嬉しかったのだ。だだ、その時のトラウマのせいか、私の体は固まったままである。
「オイ団長、いいトコだったんだから邪魔してやるなよこのスットコドッコ、ぶご!」
「あれ?今日はあのオニーサン一緒じゃないんだ。折角殺し合いしてもらおうと思ったのに、ま、いいや」
ころしあい…?狼狽する土方君を余所に、物騒過ぎる単語に私は絶句した。銀さんがいなくて本当に良かったと思う。
「ねぇなまえ、それでいつ俺の名前は返してくれるの?」
「えっ、あ…ああ、えーっとー…まだ授業あるし学校だからまた今度でも大丈夫?」
「えーまた来るのー?メンドー」
「ホ、ホントごめんね」
「ま、別にいいケド。アンタと、あの侍は結構気に入ってるからネ。帰るヨ阿伏兎」
「…へーへー。じゃあな嬢ちゃん、それからそこの旦那さんも」
「だん、?!」
タン、と足を窓枠から外して神威君と阿伏兎さんは手を振った。呆気に取られつつも手を振り返す私に、土方君は窓枠へ飛び付き下を見る。しかし既に二人は煙の中で、彼は直ぐに手を離した。
「悪い、人達じゃあないんだけどね…ちょっと過激というか、自己主張が激しいというか、我が道を行く人というか…」
「あ、ああ」
「…私達だけの秘密ね?」
「…お、おう」
土方君は人形みたく何度も首を振った。そしてテメーではなくちゃんと名字で名を呼んでくれた。それから何度か、廊下で擦れ違う度、彼は挨拶をしてくれて、その度に友人への対応が大変だった。根は、いい奴なんだ。そう笑う近藤さんに、ふと会いたくなる。恐いのは皆同じ最初の一歩なのだ。痛みを伴う交流も、得難い絆を結ぶのも。ただ少し、私はそれに今まで臆病だったのかも知れない。
「ただいまー…」
「オイ嬢ちゃん、そこ見てみ」
お登勢さんに挨拶を入れ門をくぐった二階部屋。珍しく銀さんが出迎えてくれた。その彼に促されるがまま指した方を見ると、そこにはどんぐりやら茸やら、自然の匂いがする植物がこんもりと置いてある。
「…あの二匹、ですかね?」
「はは、もう怒ってねぇのによ」
相変わらず、煩わしいことの多い日々だ。妖はやっぱり苦手だが、偶には相談に乗ってあげてもいいかなと思ったこの頃。次の日、二匹宛に書いた仲直りの手紙の返事がその日二匹から直接返されたのは、また別の話である。
(なまえ様゙ァァァァ!!)(ゔおおおお!!あ゙りがとゔございまずー!!)(って、ぎゃああああ!!アンタ等どこ触ってんの!セクハラ!セクシャルハラスメント!服に鼻水付けないで!ってどさくさに紛れてどこ触ってんですか銀さん!!)