声が聞きたい

クイックに連れられ薄暗い通路を進んでいく。
ここに来るまでに何度か階段を降りてきた。途中の通路には小さな窓がいくつか設けられていたが、昼間であるはずのこの時間でも日の光がほとんど入ってこなかった。
ここはこの研究所の最深部と言っても過言ではないのだろう。

この先に待ち望んだ存在がいる。
逸る気持ちを抑えられず自然と足早になってしまいそうになる。
「クラッシュは何度か暴走した」
そんな俺を制するかのように突然クイックが語りだした。
「そのたびにエアーが止めてきた。エアーしか止められなかったからだ」
嫌な予感がした。
「武力行使による強制終了……か?」
「そうだ」
どうして嫌な予感ほど当たってしまうのだろう。その先に待つ言葉にも最悪の事態を予感してしまう。
「正直、クラッシュの身体はもうボロボロだ。あと一度でも暴走したらもう直せないくらいにな」
そんな言葉は聞きたくなかった。だが、これは事実だ。ここで嘘をつく必要など全くない。

「だから博士は、クラッシュがもう存在しないものとしてお前にデータを入力しなかった。いや、アンインストールしたと言った方が正しいな」
データが存在しなかったのはそのせいか。
ずっとおかしいと思っていた。声は聞こえていたのにその他の情報が一切無いことも、該当するデータが無いことも。
データが無いのに俺の心にずっといた存在。それが『クラッシュ』なんだ。
「それでメタルはクラッシュが存在しないものだと言ったのか」

「そうだ」
俺の問いに答えたのはクイックではなく、待ち伏せるかのように立っていたメタルだった。
「何処へ行くつもりだ」
「博士からの命令だ。お前に邪魔される筋合いはない」
再び2体の殺気が辺りを包み込んだ。

その時、通路の奥からメタルとクイックが放つ殺気よりも強い殺気が放たれてきた。
いや、殺気という言葉さえ生易しいような気がした。

「クラッシュ……」
クイックが呟くのが聞こえた。
この殺気というには生易しすぎる威圧感を放ってくるのが『クラッシュ』だというのか……。
足が吸い込まれるように動き出す。待ち焦がれ、追い求めた存在がこの先にいる。
「待て。もしお前と会うことでアレが暴走したらどうするつもりだ」
またもメタルが行く手を遮る。そんなことで呼び止めるな。
「俺が……止めてみせる」
自然と口から言葉が零れた。
「ほう……できると思っているのか?」
「何故できないと思う」
止められる自信などない、けれど止められないとも思わない。
それは俺にしかできないと、何故かそう思えた。

「そこまで言うならやってみるがいい。どうせ無駄だろうがな」
「言ってろ歯医者野郎」
「何?」
俺の余計な一言がメタルの逆鱗に触れたようだ。俺はいつも一言多いのかもしれない。
「いいから早く行け」
今にも武器を構えそうなメタルを制したのはクイックだった。クイックの持つ巨大な武器がメタルの目前に突きつけられていた。
「クイック……貴様」
「邪魔させねぇって言っただろ……行け!」
その言葉と共に走り出した。



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