声が聞きたい

「どうやらお前たちには仕置きが必要なようだな」
「やってみろよ。俺にはお前の武器なんか効かない」
「武器など使わなくとも、いくらでも従わせる方法はある」
「そこまでだ」
2体の殺気が辺りを包み込んだころ、制止をかけたのはエアーだった。
「こんなところでお前たちに暴れられたら基地が滅茶苦茶になるだろう」
「フラッシュも、今日は休んだほうがいいブク。メタルにやられた箇所も修理しないといけないブクね。クイック」
「……わかった」
バブルがクイックに目配せをすると、クイックは静かに頷いた。

クイックに連れられメンテ室に向かう。始終無言で先を歩くクイックが何を考えているのかわからなかった。
「なぁ、さっきの……その、『クラッシュ』ってのは」
「着いたぞ」
言葉が遮られた。いつの間にかメンテ室の前まで来ていたようだ。

そこには顔色は良くなっていたが未だに動揺を隠し切れない博士がいた。しかし俺の状態を見て思わず苦笑してしまったようだ。
「目覚めたばかりで何を破損しとるんじゃ」
「メタルが悪い」
ぶっきらぼうに答えるクイックは不機嫌そのものだ。
先程の言い合いからもわかるように、クイックはメタルが嫌いなのだろう。それが元々なのか、『クラッシュ』が原因なのかわからないが。

「フラッシュ……お前はどうして……クラッシュのことを知っているんじゃ?」
破損箇所を修理しながら博士が訪ねてきた。その声は少し震えている。『クラッシュ』の名を出すとき、まるでその言葉に口にすることを恐れているかのように。
「……いえ、知りませんよ」
「何?」
嘘は言っていない。

実のところ、俺に『クラッシュマン』という機体のデータはない。インストールされているデータにも俺の他の機体は4体となっている。その結果、声しか情報がないという状態になっていたのだろう。
だが、データになくとも記憶にはある。

あの幼い声の主は俺を『おとうと』と呼んだ。ならば兄機であることは間違いない。
「博士、俺はずっと意識があったんですよ」
「何じゃと?」
「全部を憶えているわけじゃないですが……なんなら記憶データ見ます?」
データを見せることでそのデータすら消去されるのではないかという不安がないわけではない。
それでも俺は『クラッシュ』という存在を知りたい。
「いや・・・お前が憶えているというなら、もう隠す必要もないということじゃ。」

「クイック」
博士は名前を呼んだだけだが、クイックは全てを理解したようだった。
「わかりました。おいハゲ」
「っ誰がハゲだV字野郎」
突然の暴言に思わず言い返す。だが、クイックはそれを無視して歩き出した。
「来い、クラッシュに会わせてやる」
その言葉に鼓動が速くなるのを感じた。

「ただし、何があっても目を背けるな」
殺気ともとれるような気迫に、息が詰まりそうになった。
「……当たり前だ」
だが、それで怖気づくほど俺の想いは脆くない。

メンテ室を出るときに博士が何かを呟く声が聞こえた。
振り向いた時に見えたのは、祈るようにして俯く博士の姿だった。



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