好きになるということ

「……あのな」
しばらく沈黙を保っていたジェミニが口を開いた。溜め息混じりに呟いたその様子から、口を閉ざしていたのは困惑していたのが理由というわけでもなさそうだ。
 俺の話を最後まで聞いて、自分の中で話したいことを纏めて、やっと決心したようにも見える。

「嫌いな奴やどうでもいいと思ってる奴にわざわざ嫌いじゃないとか言う必要があるか?」
「社交辞令とか?」
「社交辞令であんな風に言うわけないだろ!人があれだけ必死になったのに伝わらないとか虚しいわ!」
「だって嫌いじゃないって言っただけじゃん」
「あそこでいきなり告白なんかできるか!嫌いじゃないって言うだけで精一杯だ!」
「じゃあジェミニくん、俺のこと好きなの?」
「言わなきゃわからんか!?」
「だって直接聞きたいじゃん?」
「お前って本当に面倒だな!」

 やばい、なんか楽しい。他の奴に対してここまで感情的になるジェミニを見たことがなかった。それが俺に対してはこんなにも感情的に、砕けた口調になるなんて……嬉しいやら楽しいやら。とにかくジェミニが好きだという気持ちが膨れ上がった。

「ジェミニくん」
「なんだよもう!」
「大好き」
「な……!?」
 楽しいやりとりをもっと続けていたかったけど、想いを伝えるのが先だと思った。さっきから散々言っている言葉でも、もっともっと伝えたい。ジェミニの気持ちは十分わかったけど、ちゃんと応えてくれるまで伝えたいじゃないか。
 言葉にしてくれないと不安なことだってあるんだ。こんな気持ち初めてだから、不安なことが多くなる。その不安を解消してくれるのは、ジェミニの言葉だけだから。

「……オレだって、好きだよ」
 半ば諦めたようにそう呟くジェミニの顔は赤く、口元が少しだけ上がっているように見えた。
 これだ。この顔を見たかった。本当はもっと、満面の笑みというものを見たかったけど、それはこれから先見せてくれると信じている。だから今はこの顔を見れただけで満足だ。

こんなにも嬉しいと感じることが今まであっただろうか。嬉しいという想いが強すぎて自然と口元が緩んでしまう。今の俺はきっとどうしようもない程緩んだ顔をしているに違いない。いつものニヤニヤとした嫌味な笑顔ではなく、自然な顔で笑っているのだろう。
 これからもっと嬉しいことがあるのだろう。きっと悲しいことや、つらいこともあるのだろう。嫉妬に狂うことや、怒らせて嫌われてしまうこともあるかもしれない。
だけど、今この瞬間だけは幸せだと思えるから、この先もずっとこの幸せを二人で分かち合いたいと思えるから。
 ずっと隣にいれることだけを、今は。


「あ、ところでさ、蛇の交尾ってめちゃくちゃ長いから覚悟しといてね?」
「はっ!?」
 でもまぁ、辛気臭いのも俺らしくないからいつもの調子で、な?

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