好きになるということ

任務も無事に終えた後、俺とジェミニは少しずつだけど話をするようになった。
さすがに作戦会議のときような淡々とした口調ではなかったけれど、ジェミニは俺の目をちゃんと見て話せるようになっていた。
 この成長は嬉しくもあり、少し寂しくもある。俺の目を見ては顔を真っ赤にして逃げ出すジェミニが可愛かったからな。だけどこうして向き合って話せるのは本当に嬉しいことだと思う。

 欲を言えば、もっといろんな顔が見たいということくらいだ。
 真っ赤になった顔、真面目な顔、少し照れた顔……今まで見てきた顔以外を見たいと思う。例えば怒った顔、泣いてる顔、困った顔。
だけど一番見たいのは、笑った顔。
 笑ってほしい。そう思った瞬間、胸の奥が熱くなった。

「俺さ、なんかジェミニくんのことスキかも」
 ……いつの間にか自然と口から出た言葉。意識なんてしてなかった。
「……え?」
 言われた本人も困惑しているようだ。それはそうだ、俺も無意識に出た言葉だし。むしろ俺の方が困ったし。
 今の「スキ」がどのような意味でのものなのか、ハッキリとまだわからないというのに。
 確かにジェミニは可愛いと思う。兄機に対して使う言葉ではないとは思うが。いろんな表情を見たいとも思うし、もっと一緒にいたいとも思う。
 だけどそれからどうしたい?たくさん話して、一緒にいて、その先は?
 ただそばにいるだけで満足なのだろうか?抱きしめたり、キスしたり、それ以上のこともしたいと思うのだろうか?

 そう思う。もっと触れたいと、俺のことをもっと好いてもらいたいと。そばにいるだけでも十分すぎる程なのに、それ以上を望んでしまう。

 ああ、そうか。きっと、誰かを好きになるというのはこういうことなのだろう。

「うん、俺、ジェミニくんが好き」
 今度ははっきりと、自分の意思で。

 心が苦しくなって、だけど暖かくて、満たされる。
心なんて必要ないと思っていたのに、誰かをこんな風に想う日がくるなんて思っていなかったのに、こんな俺にも、大切だと思えるものができた。

 忌み嫌われ、自分でも好かれたいなどと思ったことのなかった俺がこんな気持ちになれた。
 心を与えてくれた博士と、気付かせてくれたジェミニ。二人とも好きだけど、それは別の「スキ」。
 別々の「スキ」だけど、どちらも大切なこと。こんなにも心が満たされる。優しい気持ちになれる。
 俺が優しい気持ちになるなんて、なんだか可笑しなことだけど、不思議と嫌な気分ではない。
 
この気持ちをもっと伝えたい。そう思った。

「ジェミニくんが俺のことどう思ってるかわからないけど、俺はジェミニくんが好きだよ」
 何度でも、何度でも。
 たとえジェミニがそれに応えなくとも、俺の気持ちをただ伝えよう。一方的な形になってしまうけれど、それくらい伝えきれない想いがある。

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