好きになるということ

それからというもの、やけにジェミニのことが気になり始めた。
気が付けば目で追っている。声がすれば振り返ってしまう。
目が合ったところで相変らず逸らされてしまうのだけど。それでもその顔が少しだけ赤みを帯びているように見えるのは、決して見間違いなどではない。

なんか、目が合うたびにそんな反応されたら逆にこっちが恥ずかしいじゃないか。

話したいとは思うのだけど、近づいたら逃げられるから話をすることもできない。
そんなもどかしい日々が続いていたが、ある日二人での任務が課せられた。

二人だけの任務ということは、嫌でも話さなくてはならない。嫌だという気持ちはこれっぽっちもないが。ただ、この調子で上手くいくのかどうか不安なだけだ。


「……で、ここは警備が薄いから潜入はここから行う。それでいいか?」
「だけどパスワードが必要だよな?」
「それはもう入手済みだから気にするな。あとでデータ送っておく」
「じゃあ次は……」

予想に反して作戦会議は淡々と進んでいた。
普段の様子があれなだけに、会議がこんな風にスムーズに進むだなんて思ってもいなかった。仕事とプライベートをしっかり分けるタイプなのかもしれない。人間の女が夫にしたいタイプとはこういう奴なのだろう。ジェミニの場合、部屋が鏡だらけだというのが残念な点ではあるが。さすがにあの部屋はちょっと嫌だ。

「おい、ちゃんと聞いてるのか?」
 そんなことを考えていたら怒られた。まぁ仕方ないか。
「うん、聞いてるよ。じゃあさ、もしここで敵に襲われたら?」
「それはない……想定外のことも起こる可能性があるってことか……だったら……ッ!」
淡々と話しているジェミニだが、たまに目が合うと少しだけ動揺する。それがなんだが愛らしいと感じた。
「……そうなったら、この場所までおびき寄せればいい。そこならお前の能力が十分に引き出せる」
動揺したのはほんの一瞬で、すぐに先程と同じように淡々と話し始めた。ただ、その顔が少し赤みを帯びていて、それがとても可愛いと思った。

俺がジェミニに抱くこの感情が単なる兄弟愛なのか、それとも、機械には必要のないとされている恋愛感情なのかは、この頃はまだわからなかった。

誰かにこんな感情を抱くことなんて、今までなかったことだったから。


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