声が聞きたい

「俺はお前の弟だ」
「え……」
「お前は憶えてないかもしれねーけどな」
そう言いながらイヤーポートからコードを取り出した。そしてそれをクラッシュのイヤーポートへ差し込もうとする。
俺のその行動にクラッシュは不快感を示した。だが行動を止めさせようとはしなかった。
これから俺が何をするのか、このコードが何を意味するのかを知っているのだろう。

言葉で説明するよりも、こうした方が伝えやすいし、伝わりやすい。
カプセルの中で俺の意識が目覚めてから今までの記憶を余すことなくクラッシュへ流し込む。
そして流し込みながら語りかける。こうすることで俺の想いも全部伝えられると思ったからだ。

「ずっと……待っているぞって言ってくれたよな……」
俺の意識があるだなんてわかっていなかっただろうに、ずっと話かけてくれていた。
その言葉がどれだけ俺の支えになっていたのかなんて知らないだろう。
それなのに、
「酷い話だろ?あれだけ俺の心に入り込んでおいて、消せないくらい大きな存在になっていたのに、目覚めたらそいつの存在が消えたって言うんだぜ……」
「あ……」
「それに、そいつ自体も俺に関する記憶が無いみたいだしな」
途中から愚痴になっているような気もするが、正直な気持ちなのだから仕方ない。
それだけ楽しみにしていたってことなのだから。
「ほんと、嫌になっちまうよな」

全ての記憶を流し終え、コードを引き抜く。
そしてもう一度告げる。
「俺はお前の弟だ」
「おと……うと……おれさまの……」
クラッシュの口から確かに聞こえた「おとうと」という言葉。ただそれだけでこんなにも満たされた気分になる。
「そうだよ……バカ兄貴」

『兄貴』、そう呼んだ瞬間クラッシュの表情が一変した。

「だれがばかだ!!」
「そっちかよ!!」
思わず頭を叩く。反応する単語が違いすぎる。
「今までの空気ぶち壊しだなぁおい!」
先程までの空気はなんだったのか。まるで吹いてくる風が空気を全て入れ替えてしまったかのようだ。
「だっておれさま、くらっしゅまん、はかいするもの、だからな!」
頭を叩かれてもケラケラ笑うクラッシュを見て、すっかり力が抜けてしまった。無邪気とはこういうことを言うのだろう。

いつまでも楽しそうに笑うクラッシュにつられ、俺も声を上げて笑った。



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