声が聞きたい
どれだけの時間そうしていただろう。
右腕が力なくダラリとぶら下がったと同時に時が動き出した。
時を止める前の状態のまま突っ込んできたクラッシュを避けることなく受け止めようとする。
その行動を意外に思ったのかクラッシュの動きが一瞬鈍った。そしてそのままなだれ込むように俺の体を押し倒していた。
ポカンと口を開けて呆気にとられているクラッシュの頬に手を伸ばす。
俺を見るクラッシュの瞳から狂気の色が消え、真紅だった瞳が翡翠に変わった。
こちらが本来の色なのかもしれない。どちらにしても、綺麗な色だ。
周囲を圧倒する狂気で満ちた真紅も、穏やかながらも確かな強さを持った翡翠も、俺には眩しすぎるほどだ。
眩しすぎて、その全てが羨ましい。
「ごめんな……」
触れた頬は確かに乾いていたのに、それでも心で流した涙が溢れている気がした。
泣いて欲しくない、笑って欲しい、そう思っていたのに。
覚悟も決めたつもりだった。所詮つもりはつもりでしかなかったけれど。
救いたかった。他の誰にできなくても、俺にならできると思い込んでいた。
結局、俺には何もしてやれなかった。
ずっと頬を撫で続ける俺に不快感を覚えたのか、我に返ったクラッシュが俺の手を振り払いドリルを構えた。
このまま貫かれるのだと思った。
それでもいいと思った。今は好きなようにさせてやりたい。
予想通り、溜めた分のエネルギーに応じて止められる時間の長さは変わるようだ。
ただし、溜めている間に攻撃手段を持てないということは、これは実戦ではあまり応用できないかもしれない。
もし、クラッシュと同じ戦場に立てたなら俺は遺憾なくこの能力を発揮することができるだろう。
いつかそんな日が来て欲しい。そう願いながら目を閉じた。
だが、いつまで経っても俺を貫くドリルの感触はなかった。
その代わり、何かが頬を濡らすのを感じた。
「な……んで……」
そして、消え入りそうな声で呟くクラッシュの声が聞こえた。
「……クラッシュ?」
目を開くと、両目から涙が零すクラッシュの顔がそこにあった。
カメラアイから溢れ出た洗浄液がクラッシュの頬を伝い俺の頬に落ちてきている。
自分の頬に手を当ててみれば、確かに濡れた感触がある。だからこれは、幻覚なんかじゃない。
「クラ……」
「なんで」
自分で何が起こっているのか理解できていないクラッシュは、ただ「なんで」と繰り返していた。
その度に溢れる涙が俺の頬を濡らし続けた。
「なんだ、これ……とまらない」
ドリルで涙を拭おうとするクラッシュの腕を掴む。
「やめろ」
涙を拭うというよりは、カメラアイを壊そうとしているように見えた。
掴んだ腕を振り解くこともなく、クラッシュはただぽろぽろと涙を流し続けていた。
敵意はもう、感じられなかった。
「……オマエ、ほんとになんなんだよ」
涙を拭ってやると、鼻を啜りながら小さく呟いた。
「俺は……」
言うか言うまいか迷った。「俺はお前の弟だ」と。言ったところでどうにかなるとは思えないけれど。
それでも言わずにはいられなかった。
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右腕が力なくダラリとぶら下がったと同時に時が動き出した。
時を止める前の状態のまま突っ込んできたクラッシュを避けることなく受け止めようとする。
その行動を意外に思ったのかクラッシュの動きが一瞬鈍った。そしてそのままなだれ込むように俺の体を押し倒していた。
ポカンと口を開けて呆気にとられているクラッシュの頬に手を伸ばす。
俺を見るクラッシュの瞳から狂気の色が消え、真紅だった瞳が翡翠に変わった。
こちらが本来の色なのかもしれない。どちらにしても、綺麗な色だ。
周囲を圧倒する狂気で満ちた真紅も、穏やかながらも確かな強さを持った翡翠も、俺には眩しすぎるほどだ。
眩しすぎて、その全てが羨ましい。
「ごめんな……」
触れた頬は確かに乾いていたのに、それでも心で流した涙が溢れている気がした。
泣いて欲しくない、笑って欲しい、そう思っていたのに。
覚悟も決めたつもりだった。所詮つもりはつもりでしかなかったけれど。
救いたかった。他の誰にできなくても、俺にならできると思い込んでいた。
結局、俺には何もしてやれなかった。
ずっと頬を撫で続ける俺に不快感を覚えたのか、我に返ったクラッシュが俺の手を振り払いドリルを構えた。
このまま貫かれるのだと思った。
それでもいいと思った。今は好きなようにさせてやりたい。
予想通り、溜めた分のエネルギーに応じて止められる時間の長さは変わるようだ。
ただし、溜めている間に攻撃手段を持てないということは、これは実戦ではあまり応用できないかもしれない。
もし、クラッシュと同じ戦場に立てたなら俺は遺憾なくこの能力を発揮することができるだろう。
いつかそんな日が来て欲しい。そう願いながら目を閉じた。
だが、いつまで経っても俺を貫くドリルの感触はなかった。
その代わり、何かが頬を濡らすのを感じた。
「な……んで……」
そして、消え入りそうな声で呟くクラッシュの声が聞こえた。
「……クラッシュ?」
目を開くと、両目から涙が零すクラッシュの顔がそこにあった。
カメラアイから溢れ出た洗浄液がクラッシュの頬を伝い俺の頬に落ちてきている。
自分の頬に手を当ててみれば、確かに濡れた感触がある。だからこれは、幻覚なんかじゃない。
「クラ……」
「なんで」
自分で何が起こっているのか理解できていないクラッシュは、ただ「なんで」と繰り返していた。
その度に溢れる涙が俺の頬を濡らし続けた。
「なんだ、これ……とまらない」
ドリルで涙を拭おうとするクラッシュの腕を掴む。
「やめろ」
涙を拭うというよりは、カメラアイを壊そうとしているように見えた。
掴んだ腕を振り解くこともなく、クラッシュはただぽろぽろと涙を流し続けていた。
敵意はもう、感じられなかった。
「……オマエ、ほんとになんなんだよ」
涙を拭ってやると、鼻を啜りながら小さく呟いた。
「俺は……」
言うか言うまいか迷った。「俺はお前の弟だ」と。言ったところでどうにかなるとは思えないけれど。
それでも言わずにはいられなかった。
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