声が聞きたい

「つまらない」
何も言わない、何も反応しない俺から視線を外し、外の景色を眺めた。
「もっと……なにもかも……」
一人でブツブツと呟くクラッシュが、泣いているように見えた。
涙など流してはいないがそれでも俺には泣いているように見えたんだ。

「……泣くな」
痛みを取り戻した体を起こす。この体の痛みなど、クラッシュの心の痛みに比べたらどうということはない。
「お望み通り、相手してやるよ。オニイサマ」

だから、泣くなよ。

「……なく?」
俺の言ったことがまるで理解できないという風な反応をする。
カメラアイの乾燥を防ぐためや、ゴミを取り除く以外の涙など戦闘用である俺たちには必要のないものだ。理解できなくて当然だろう。
だが、あの創造主のことだ。人間が流すものと同じような涙も俺たちにはあるはずだ。
だからこそ、クラッシュは泣いているんだ。
たとえ見えなくても、心で泣いている。それが痛いほど伝わってくる。

「……オマエ、なんなんだ?」
「さぁ?なんなんだろうな」
言いながら右腕に意識を集中させる。ただし、クラッシュから視線は外さない。
これは実験だ。もしも集中させた分だけ時間を止められるのだとしたら、これからかなり時間稼ぎをしなくてはならなくなる。
一種の賭けではあるが、試してみる価値はある。

俺のもう1つの武器はタイムストッパー発生装置から発せられる閃光弾だ。これはタイムストッパー発動中、あるいは発動以前にしか弾を出すことはできない。
だから俺はクラッシュからの攻撃をかわすことだけを考えなければならない。しかも、右腕に意識を集中させながら。

「フザけるな!!」
右腕目掛けて突き出してきたドリルを左腕ではじき返す。
「ぐっ……!!」
装甲にヒビが入った。
直撃したり受け止めたりしようとすれば腕一本では済まないかもしれない。ならば、当たらなければいい話だ。

幸いにもクラッシュの動きはごく単純なものだった。
こちらの動きに連動するように攻撃を行ってくる。だからと言ってこちらからなにも仕掛けなければ攻撃をしてこないというわけではない。
接近してくるのを避けようとすれば、それに反応して攻撃してくる。早い話がそれの繰り返しだ。
冷静に判断すれば直撃することもない。

「アイテしてやる?にげてばかりのクセに、なにをふざけたコトを!!」
ただ、動きが単純なものとはいえ、戦闘能力の高さは変わらない。
こちらの動きにも慣れてきたのか徐々に反応速度が上がっているように思える。

だが、いくら動きが速くなったところで、
「止めちまえばこっちのもんだろ!!」

―キィン……―

ストッパーを発動させ時を止める。

クラッシュのドリルが目の前まで迫っていた。ドリルの向こうに見えるクラッシュの顔目掛けて閃光弾を放とうとする。

しかし、それを実行することはできなかった。

「できるわけ……ねぇだろ」
どんなに危険な目に合わされたって、俺には……。
急所を外せばいいのだとしても、攻撃するという行為自体ができるわけがない。
ずっと待っていた、待ってくれていた一番大事な存在を。
「俺は……」
なんて弱い存在なのだろうか。



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