声が聞きたい

やっぱり、お前がそうなのか。

『クラッシュ』……いや、クラッシュの動きが止まったのは一瞬のことで、すぐに次の一撃が来ることを察知した。
俺はすぐに右腕に意識を集中させる。性能も使い方もわかっていても、所詮は頭の中にあるだけで実際にうまく使いこなせるかどうかはわからない。

「タイムストッパー……!!」

―キィン……―

成功した。だが止めていられる時間がどの程度なのかまだわからない。
効果が切れる前にクラッシュから逃れるように部屋の反対側へと移動する。

―……キンッ―

それは本当に短いもので、俺が移動し終わる前に解かれた。
背後から大きな音と振動が起きた。風が通り抜ける音がする。壁が崩壊してしまったのだろう。
あと一歩でも遅れていたら俺の体には大きな穴が開いたかもしれない。穴で済めばまだいい方だろうか。

反対側の壁に背を着いたと同時にクラッシュもこちらに振り返った。
手応えも感じず、目の前から消えた俺の居場所を即座に判断したようだ。
この戦闘能力の高さは俺よりも格段に上だ。それどころかクイックやメタルよりも上なのではないか。

次の一撃を交わすためにもう一度右腕に意識を集中しかけた時、それは飛んできた。
飛んでくるそれをギリギリのところでかわし、体勢を立て直そうとしたその時、小さな音がした。

―カチッ―

「爆弾……ッ!!!?」

轟音を発したそれは壁一面を吹き飛ばすほどの威力だった。なんとか直撃を免れてはいたが、爆風によって俺は体を飛ばされ、床に叩きつけられた。

「ガッ……!!!」

激しい痛みで起き上がることのできない俺に、クラッシュはゆっくりと近づいてきた。
吹き飛ばされた壁は丁度窓があった壁で、外の光が部屋全体に差し込んでいた。
光が差し込んだことでようやく全体を捉えることのできたクラッシュが、俺を冷たい目で見下ろしていた。

「……」
言葉を発することなく、何かを仕掛けてくるわけでもなく、ただ俺を見下ろしてくるクラッシュ。
鳥の頭のような特徴的な形のメットをし、真紅の両目は全てを威圧するように鋭く光っているがどこか虚ろだ。
真っ白な防護服に日の光を思い起こさせる橙の装甲を纏うその姿は、破壊を目的としたものには到底思えなかったが、両腕の先に取り付けられた大きなドリルが戦闘用であることを主張していた。
ずっと待ち望んだその姿に、体の痛みも忘れてしばらく見入っていた。

「もう、おわりか?」
静かに問いかけてくるクラッシュの声は、どこまでも感情がなかった。
感情のない声、威圧感を放ちながらもどこか虚ろな瞳。だけど妙に惹かれるのは何故だろう。

カプセルの中で何もできない俺を満たしてくれたあの時のクラッシュと今のクラッシュ。同じなのに全然違う。だけど同じように惹かれてしまう。
どこまでもこのクラッシュという存在は俺を魅了して止まないようだ。それがやけに心地いい。
この心地よさにいつまでも包まれていたかった。
だが、それは長くは続かなかった。



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