声が聞きたい

『クラッシュマン』とは『破壊する者』の意。
壊してしまうから何もいらない……そういうことだろうか。それとも、壊してしまったから何もなくなってしまったのだろうか。
どちらにせよ、こんな何もない部屋で、周りに誰もいない状態で何を思い過ごしていたのだろう。

「俺も同じ……か」
何もないというよりは何もできなかった。意識だけはあるのにそれを誰かに伝える事も、気付いてもらうこともできなくて、ただただ孤独の日々を送っていた。
だけどそんな日々の中でアイツはずっとそばにいた。時には博士に、時には俺に話しかけるように『おれさまのおとうと』と呼んでくれていた。それがどれだけ嬉しかったか。
だから、もしアイツが独りきりでいるのなら、今度は俺がずっとそばにいて兄貴って、あるいは名前で呼んでやりたい。

そう思いながら部屋を見渡していると、暗すぎる空間の中、1ヶ所だけ存在を主張する色があった。他の物とは明らかに違う色をした何かが、そこにいた。

あれが。

強すぎる主張をするその色に近づこうとした瞬間、色が消えた。
色が動く前に、いや、動くのを認識する前に何かが頬を掠め、その瞬間背後の壁を砕く音が響いた。
そうしてやっと部屋の隅にあった色が移動し、目の前にあることに気付いたのだった。
速い。風を切る音も頬を掠める感覚も、何もかもが遅れてやってきた。

「ダレだオマエ」
目の前の色から発せられた無機質な声が響いた。
俺たちはロボットだ。そんな俺たちの声が無機質であるのは当たり前のはずなのに、この声には違和感しかない。
それは、感情というものを与えられているはずの俺たちの声とはまた違ったものだったからだ。
感情がない声というのはこんな声なのだろうか。
俺がまだカプセルの中で目覚めるのを待っていたときに聞こえた声とは別物だ。
これが本当にアイツだというのか。

舌っ足らずで幼くで、それでも芯を持った声。
それが俺の知っているアイツの声だ。
それでも、どんなに無機質なものでも、記憶と違う話し方でも、これがアイツの声だとわかる。根拠なんてない。でも、わかるんだ。

「ダレだ」
再び問いかけてくるそれは、質問しているようで答えなどまるで求めていない言い方だった。
俺には『クラッシュ』のデータは一切無い。なら、同じようにこの『クラッシュ』にも俺というデータがもう無いのではないか。

「……クラッシュ」
俺がそう呼びかけると、反応するように動きが止まった。



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