捧げ物だったもの

「そうだ、花見に行こう!」
そう言い出したのはメタルだった。その場にいた全員が突然のその発言に呆れていたが、当の本人は弁当やらなにやらしっかり用意していて完全に行く気満々だった。

そんなわけで今俺たちは近くの山に来ていた。
ここはウッドやヒートがよく遊びに来るところで、プラントやタイムの姿も遠くに見えた。
人間があまり近づかないこの山だから、俺たち以外の姿は見えなかった。
桜の様子はというと、少し散ってはいるが満開に近い状態だった。散った花びらが風に舞う様子はとても幻想的だと思った。
他の奴らは弁当を食べたり、酒を飲んだり、遊んだりと好き勝手していた。まぁ俺もカメラ片手に自由にうろうろしているんだが。
そんな俺の横には俺よりも小さな兄の影があった。俺が右に動けば影も同じように右に動くし、俺が左に動けばまた同じように影も左に動いた。
特に俺に話しかけるわけもなく、ただついてきているその影に、これは元々俺の影だったかなんて思ったりもした。
だが、俺についてくる影の正体は紛れもなく兄の、クラッシュのもので、思わず口元が緩んでしまった。

「・・・なんだ?」

そんな俺に少し怪訝な顔をしたクラッシュが声をかけてきた。思えば今日声を聞くのはこれが初めてだったか。

「いや?一枚撮ってやろうか?」

「俺様撮っても面白くないだろ?」

「そうでもねぇよ。それに俺のマル秘ファイルに写真が増えるしな」

「は?まるひ・・・?」

「気にするな」

いつも通り茶化して遊んでいると少し強い風が吹いた。
先程よりも多くの花びらが宙を舞い、視界が桃色一色に染まりそうになった。だが、目の前にいる橙色の機体がそれを阻止した。
桃色の花びらに囲まれるその橙を、その瞬間を逃さないように、シャッターを切った。

宙に舞う桃色も、澄み渡る青い空も、青々と茂る草木も、この橙色を引き出すための色に過ぎない。

カメラとは、写真とはその時のたった一瞬を映し出すものだ。映像だけではわからない細かな部分さえも映し出す。
だからこそ俺はカメラを使い「今」を残す。

「ビックリしたなぁ・・・」

撮られたことに気付いていないらしく、いきなりの風にただただ驚いていた。そして目が合った瞬間、

「「花びらついてるぞ」」

なんて二人同時に同じ言葉を発していた。

己の手では取れないであろう花びらを取ってやるために手を伸ばす。だが、手を伸ばした瞬間その手は花びらを取ることなく、クラッシュを引き寄せた。

「ふら・・・」

自然と近づく距離に、クラッシュもなにをされるのかわかったらしく、ゆっくりと目を閉じた。

そうしてもうすぐ触れそうなその時、

「おーいそろそろ帰るぞー」

行くと言ったときのように突然帰ると言い出すメタルの声が聞こえた。
メタルの空気の読めなさには怒りを通り越して呆れるしかなった。

「・・・な、フラッシュ」

「ん?」

しぶしぶと歩き出した俺に後ろから声をかけてきたクラッシュに顔を向ければ、

「今度は・・・二人で来ような?」

なんて、少しだけ赤く染まった頬で、笑いながらそう言ってくるクラッシュに、俺も自然と頬が緩むのがわかった。

「そうだな」

そしてまた今日と同じような時間を二人で。
さくらさくら、それまでどうか、散らぬように。

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