捧げ物だったもの

いつからだっただろうか。気が付けば目で追いかけたり、声が聞こえれば耳を澄ますようになったのは。
最初は違うと思ってた。元々不安定な心の持ち主だったから気付かぬうちに気に掛けていただけだと。
だけどそれは違った。
その存在が感じられないとき、ひどく不安になる。どこで何をしているのか知りたくなる。
最早それは不安ではなく、嫉妬に近い感情であるということに気が付いたのはごく最近のことだ。
どうしてそれが嫉妬に繋がるのか、はじき出された答えをすぐに認めることはできなかった。
恋だ愛だなんてのは人間の勝手な感情であって、俺たちにはなんの必要もないものだと思っていたからだ。
いくら博士が与えてくれた感情でも、それが必要になるときが来るとは思わなかった。

だけど気付いてしまった。

姿が見たい、声が聞きたい、その体に触れたい。

そう思うこと、それこそが恋や愛でないのなら何がそうだというのだろうか。

兄弟機だということも、同じ性別だということもわかっている。
それでも気付いてしまえば、もう止めることなどできない。

「柄じゃねぇんだけどな・・・」

こんな風に会いたいと願う自分が滑稽で呆れてしまう。他の誰か、たとえばクイックなんかが今の俺を見たら気持ちが悪いと笑うのだろう。
俺だってクイックがこうなってたら笑う。
だけどそれを馬鹿にできなくなってしまった自分がいる。

「あ゛ー面倒くせぇ!!」

一人で悩んでるくらいなら行動に移す。こんなモヤモヤした気持ちでいるのはもうたくさんだ。

向かった先にいたのはもちろん求めていたその人で、すやすやと寝息をたてていた。
夢を見ているのだろうか。薄い瞼の下でしきりに眼球が動いているのがわかる。・・・ここまで人に近づけなくてもいいというのに。

無防備に眠るその姿に、欲情とも言える感情に支配されそうになった。
それをなんとか抑えながら手を伸ばしてみる。
少しだけ身じろいだが起きる気配はない。

「いい加減俺に溺れろよ・・・」

独特の形のメットを撫でるようにしながら呟く。
いい加減も何もない勝手な言い分だけど、それほどまで俺はお前に溺れてる。

伸ばした手を頬に持っていけば軟らかい皮膚を感じることができた。
人の幼子のようなその肌に、かろうじて抑えていた欲情が少しだけ顔を出した。
思わずそっと口付けをした。その瞬間、

「ふらっしゅ・・・」

と呟いたのが聞こえた。
起きたわけではない、ただ寝言でそう呟いただけ。
だけどその言葉だけで口元が緩んでしまう。
心が満たされるとは、きっとこういうことなのだろう。

だから俺は、そんなお前に恋をしたんだ。

「絶対溺れさすから、覚悟しとけよ」

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