捧げ物だったもの

「なぁフラッシュ、俺様ココアが飲みたい」
リビングでテレビを見ながら寛いでいると、クラッシュがそんなことを言ってきた。
「ココアァ?」
我ながらマヌケな声を出したと思う。この場にいるのが俺とクラッシュだけでよかったと思った。
今日は俺とクラッシュとクイック以外はこの基地にいない。クイックは先程からトイレに行ったまま帰ってこない。
「そ、ココア。砂糖たっぷりのな!」
俺の羞恥心など気にせずそう言い放つ兄の顔は笑顔で、断ることができない。断るつもりもないけれど。
もし断ったらどうなるかわからない。この兄は怒らすと怖いのだ。・・・怒った顔も可愛いと思う俺は重症なのだろうか?

とりあえずココアを淹れるためにキッチンの方へ向かう。
「もっと砂糖いっぱいな!」
着いて来たクラッシュがそう言う。もう3個入りましたがまだ足りませんかお兄様。
「お前なぁ・・・そんなに糖分ばっか取ってるとクイックみたいに糖尿病になるぞ」
機械である俺達がそんな病気になるとは思えないが、精密機械なのだから少しくらい支障が出そうな気がする。
そうか、だからアイツは馬鹿なのか。

「誰が糖尿病だハゲぇぇぇ!!あと、今馬鹿っつったろ!?」
トイレの方からクイックの声がする。いつまでいるつもりだ。・・・つーか、なんで心の声まで読まれてる?
「フラッシュ早くー」
お構いなしにココアを催促するクラッシュを見て本当に兄なのかと苦笑する。
「はいはい、ちょっと待ってろ」

淹れたてのココアを少し冷ましてやったあとクラッシュの前に置く。そしてストローを使って飲み干していく姿を見つめる。
その顔は本当に幸せそうでこちらもつい顔が緩んでしまう。
「・・・なんだ?お前も飲みたいのか?」
俺の視線を感じ、何を勘違いしたのかそんなことを言ってきた。
「生憎、俺は甘いもの好きじゃないんでね」
「ふーん、こんなに美味しいのに・・・可哀想な奴だな」
・・・生意気な。

少し考えるフリをする。この生意気な口を黙らせるにはこれしかない。

「じゃあ一口もらいましょうか」
「へ」
何かを言いかけたその口を塞いだ。
舌を差し入れ、奥へ逃げようとする舌を捕らえる。そして全てを味わうかのように舌を絡め合わせた。
「ふ・・・ぅ・・・」
解放された口から漏れる吐息が鼻に掛かる。
「はっ・・・甘いな・・・お前は」
味も声も息も、全てが甘い。
「っ・・・甘いのは、好きじゃないんだ、ろ・・・」
目に涙を溜めて顔を真っ赤にさせながら睨んでくるが、それでは逆効果だということがまだわからないのだろうか。
「・・・コレは別だろ?」

正直甘いものは好きではない。だからと言って嫌いというわけでもないのだが、積極的に摂取しようとは思わないだけだ。
だけど、コレだけは別だろ?

もう一度、口付けをした。

今度はクラッシュもそれに応えてくれた。・・・それはそういうことだと、解釈してもいいんだよな?


「・・・お前らが甘いのは十分わかったからそういうことは部屋でやれ。メタルがいたら発狂してるぞ」
そのころ、一人トイレで気張っていたクイックは頭を抱え、誰にともなく呟いた。
「それにいくら俺が甘党だからって、これはいくらなんでも甘すぎるだろ・・・」
それでも顔が緩んでしまうのは、それだけ二人のことを深く理解しているからなのだろう。

だが、これから数時間この場から動けないと思うと気が遠くなりそうだった。

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