捧げ物だったもの

気付いてはいけないと、わかっていた。
だが、一言一言に翻弄されてしまいそうな自分がいて、早くこの場から逃げ出したい一心だった。

「ホロくんって意外と俺のコト好きだよね?」

掴まれたままの腕が痛い。

呼び止められたと思ったら、引き寄せられ、抵抗したら壁に押し付けられた。
嫌悪感が全身を支配する。

オリジナルが恐怖する蛇を想像させるメットと風貌、だがオレ様には通じない。オレ様は蛇が嫌いなんじゃない。
“こいつ”が嫌いなんだ。

「オレ様は、お前なんか大嫌いだ」
「知ってる。だけど俺はホロくんが好きだよ」
「オレ様が愛するのはオリジナルだけだ」
「それもわかってる。だけど俺はホロくんが好きだ」

流されてはいけない。気付いてはいけない。早く、この場から離れなければ。
なのに足が動かないのはなぜだろう。

全てを見透かすようなその真紅の瞳に映し出された己の姿に、吐き気がした。
たとえば、まるで今からこの身を神に捧げるような、愛を受けたいとばかりに縋る様な、己ではない”何か”がそこにいる。
こんな自分は知らない。知ってはいけない。
心の奥で鍵をつけたままの箱の中身が、外側から壊される。
そんな錯覚に陥らされるその瞳が、嫌いなのだ。
だから”こいつ”が嫌いなんだ。
嫌い・・・なんだ・・・。


「もう少し、ってところだな」
ジェミニの心を救うための存在、それだけが存在理由。
俺はジェミニくんもトードも手放す気はない。
だが、放っておけないのはホログラムの心の脆さ。繊細で傷付きやすい彼の心は、ただの一言で砕け散る。
だからこそ、俺に対する嫌悪という感情で、己の心を解放して欲しいのだ。
彼の「嫌い」という言葉は俺に対する愛情表現。
それに気付くまで、何度でも同じ言葉を囁こう。


気付いてはいけない
(気付くまで愛を囁こう)
存在理由を増やすことは己の存在意義を見失うコトだ
(それが”生きたい”と願う感情なのだと教えてあげよう)
オレ様は・・・
(さぁ、その言葉を聞かせて)

「お前なんか、大キライだ」
(もう、気付いているんだろ?)

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